12月4日(金)にウィーンで開かれた第168回OPEC総会は7時間と言う近年にない長時間の議論の末、結局減産を見送り、これまでの生産目標も棚上げとなった。実は出席者の話によれば当初の2時間の議論で生産目標を3,000万B/Dから3,150万B/Dに引き上げることが一旦合意されたようである 。しかしその後議論が蒸し返され、会議後に発表されたプレスリリースでは生産目標の具体的な数字は一切触れられなかった。前回6月の総会のプレスリリースでは3千万B/Dを維持すると明記された ことと比べてもOPECの迷走ぶりが一層際立った今回の総会であった。
今回の総会前、OPEC加盟国間で減産に対する賛成と反対の相矛盾する主張が交錯していた。減産派の急先鋒はベネズエラであり、原油価格の急落により国家財政が危機に瀕しているためである。原油価格急落と世界的な需要の伸び悩みと言う負のスパイラルにより財政難に陥ったのはベネズエラに限らずサウジアラビアも同様である。1千万B/D以上を生産する大産油国サウジアラビアも財政難は免れず、対外資産を取り崩し、さらに今年7月からは8年ぶりの国債発行に踏み切らざるを得ないほどであった。それでもサウジアラビアはシェア確保を重視し非OPEC産油国が競争から脱落するのを待つチキン・レース作戦を仕掛けたのである。
価格の落ち込みを量でカバーしようとした結果、9月のOPEC全体の生産量は3,168万B/Dと自らが決めた目標枠3千万B/Dを6%近く上回る水準になった。かつてのような国別割当量は無く、3千万B/Dの総枠が決められているだけあるため、各国が目一杯の増産に走るのを止める者は誰もいない。OPECは生産者カルテル(生産量をコントロールし価格を操作することで利益の最大値を目指すカルテル)の機能を果たせなくなったのである。
サウジアラビアは非OPEC産油国であるロシアやメキシコなどが減産に同調しなければ価格上昇が見込めず、それどころかOPECの減産分をこれら非OPEC諸国が横取りし、結局OPECが馬鹿を見るだけだと主張し、チキン・レースを続けている。この場合、国家財政のほとんどを石油収入に頼るOPEC産油国は価格が下落しても原油を販売し続けるしかないためますます苦しい立場になる。高価格時に余剰オイルマネーを貯め込んだサウジアラビアなどの湾岸産油国は当面耐えられるが、その他のOPEC諸国の財政状況は破綻寸前である。
イランとイラクは低価格のチキン・レースを乗り切るため増産を図ろうとしている。両国は世界4位と5位の石油埋蔵量を誇り 増産の余地は大きい。イラクはフセイン大統領時代の経済制裁で石油生産量が激減していたが、最近漸く外資を導入して増産体制に入りつつある。一方のイランも経済制裁が解除される見通しとなった。同国のザンガネ石油相は制裁解除後に100万B/Dの増産目標を掲げている。同石油相は増産はイランが独自に決定することでありOPECには口出しさせない、とけん制している 。
このままではOPECの生産量は3千万B/Dはもとより、現在の実生産量3,180万B/Dをさらに上回りかねず、原油価格は一層下落する恐れが強い。一部では現在43ドル台の北海Brent原油価格がOPEC総会翌週(つまり今週)には38ドルに落ち込むと予想している。
議長を務めたカチク・ナイジェリア石油相は総会後の記者会見で3,150万B/Dが総会での議論のたたき台になったと明かし、メディアはこの数値を報道した。世界はOPECが今や何も決められないカルテルであることを改めて思い知ったのである。実を言えばOPEC事務局長人事についてもエル・バドリ現局長を局長代行として来年6月まで半年延長することが決まっただけで、既に2年以上にわたり後任人事が決まらない異常事態が続いている 。これもサウジアラビアとイランがお互いに譲らないことが原因である。
とにかく現在のOPECは何も決められない体質になり下がっているのである。世間はもはやそのことを知っており鼻白む思いでOPECを眺めている。それでもOPEC加盟国はかつての1970年代の威光を忘れられないようである。それは古びたOPECのブランド力をことあるごとに持ち出す世界のメディアにも責任があるのかもしれない。
(完)
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