雑誌SAPIO(小学館発行)の8月5日号特集記事「投機マネーの次なる標的」に下記の記事が掲載されました。オンラインでも見ることができますのでご一読ください。
(注)本シリーズはHP「中東と石油」で一括全文をご覧いただけます。
2.石油生産量の比較
(1)2008年の比較
OPEC統計による2008年の世界の石油生産量は7,203万B/Dである。このうちOPEC加盟国(13カ国)の生産量は3,309万B/D、その他非OPEC諸国は3,894万B/Dであり、世界の石油生産に占める割合はOPECが45.9%、非OPECが54.1%であった。一方、BP統計によれば同年の世界の石油生産量は8,182万B/D、うちOPECは3,670万B/D、非OPECは4,512万B/Dで、それぞれの割合はOPEC44.9%、非OPEC55.1%であった。
両者を比較して最も大きく異なるのはBP統計の生産量がOPEC統計のそれに比べ979万B/D(13.6%)も多いことである。BP統計の脚注にはオイルサンド、オイルシェール、NGL(天然ガス液)の生産量が含まれていると記されているが、原油とそれらの内訳は示されておらず、またOPEC統計にはそのような脚注がなく、差異の理由は不明である。ただ両者の差異979万B/Dの内訳は、OPEC諸国が361万B/D(10.9%)、非OPEC諸国は618万B/D(15.9%)である。
このことからBPはOPEC加盟国の生産量を少なめに、そして非OPECの生産量を多めに計算している(逆に言えばOPECは加盟国の生産量を多めに、非加盟国の生産量を少なめに計算している)という推論が成り立つ。冒頭にも触れたとおりOPECのシェアがOPEC統計の45.9%に対しBP統計は44.9%と、両者の間に1%の差があることがそれを示している。
OPEC統計に示された加盟国別生産量についてOPEC統計とBP統計を比べると、特に差異が目立つのは以下のような国である。(詳細はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-2-102OilProduction2008OPECvsBP.htm参照)
・ 量的な面ではサウジアラビアの差異が165万B/D(OPEC統計920万B/D、BP統計1,085万B/D、以下同じ)と最も大きく、次いでアルジェリア64万B/D(136万B/D、199万B/D)、カタール(84万B/D、138万B/D)、UAE(257万B/D、298万B/D)など大半の加盟国はBP統計の数値が高い。これに対してベネズエラはOPEC統計の生産量312万B/Dに対してBP統計は257万B/DでありOPEC統計の方が55万B/Dも多い特異な数値を示している。
・ 両統計の乖離を比率で見ると、最も乖離が大きいのはカタールの63.5%であり、ついでアルジェリア47%、サウジアラビア17.9%、ベネズエラ17.7%などである。
BP統計の各国生産量が概してOPEC統計より多いのは、BP統計にはオイルサンド、オイルシェール、NGLが含まれているためと考えられるが、ベネズエラがその逆の傾向を示していることは説明がつかない。埋蔵量の比較(前回参照)でも述べた通り、ここでもOPEC(各国)とBPそれぞれに統計を集計するに際して固有の(しかもかなり異なった)判断が働いているものと考えられる。
(2)1988~2008年の比較
次に両統計について全生産量とその中でのOPECのシェアについて1988年から2008年までの推移を見る。2008年の生産量はOPEC統計7,203万B/Dに対し、BP統計は8,182万B/Dであった(上述)。1988年はOPEC統計5,691万B/D、BP統計6,315万B/Dで、やはりBP統計の方が624万B/D多い。その後生産量は一貫して上昇しており、BP統計では1997年に7,000万B/D、2004年には8,000万B/Dを突破している。一方、OPEC統計では1995年に6,000万B/D、また2004年には7,000万B/Dを突破しており、BP統計がOPEC統計を上回る状況は過去20年間変わっていない。ただその差異はここ数年拡大しており、2002年以降は1,000万B/D前後まで広がっている。(グラフhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-2-102aOilProduction1988.gif参照)
この間の生産量に占めるOPECのシェアの推移を示したものが上図である(拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-2-102bOilProductionOpec.gif参照)。1998年にはOPECのシェアはOPEC統計、BP統計とも34%台で大きな差はなかった。実はこの時期はOPECのシェアがオイルショック以降最も低かった時期であり、その後図に示すとおりOPECのシェアは上昇し、1992年以降は40%を下回ったことはなく、しかも近年はOPEC統計、BP統計とも45%以上の水準にある。
但し注目すべきは2003年まで両統計によるOPECシェアの差は殆どなかったが、2004年以降はシェアの差が1%程度に広がった状態が固定化していることである。シェア1%は70~80万B/Dに相当し決して小さな数値ではなく、OPECは埋蔵量と同様(前回参照)石油生産においても自らの存在感をアピールしているものと言えよう。
(「石油生産量の比較」終わり)
(これまでの内容)
OPECとBPの石油統計を比較すれば------(1)
OPECとBPの石油統計を比較すれば------(2)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行
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8/4 新日本石油ほか 民間13社による「水素供給・利用技術研究組合」の活動を開始 http://www.eneos.co.jp/company2/press/2009_2010/20090804_01_0960575.html
8/7 経済産業省 二酸化炭素回収・貯留(CCS)研究会とりまとめの公表について http://www.meti.go.jp/press/20090807003/20090807003.html
(注)本シリーズはHP「中東と石油」で一括全文をご覧いただけます。
1. 石油埋蔵量の比較(続き) (表「石油埋蔵量」(http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-2-93OilReserveOPECvsBP.htm)参照)
OPEC統計もBP統計も世界の総石油埋蔵量については大きな違いはないが、OPECと非OPEC産油国の埋蔵量のシェアに大きな差異がある。OPEC統計によるOPECと非OPECのシェアは79.3%対20.7%であるのに対し、BP統計ではその比率は76%対24%である。
OPECと非OPECのうち主な産油国の埋蔵量を比較したものが上図である(拡大図はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-2-93OilReserveOPECvsBP2.gif参照)。この図から次のようなことがわかる。即ち、
・ OPECのうち中東6カ国(サウジアラビア、イラン、イラク、クウェイト、UAE及びカタール)は全世界の埋蔵量のほぼ6割を占めている。またOPEC統計とBP統計に殆ど差は無い。(実際、OPEC統計のカタール埋蔵量がBP統計より19億バレル多いことを除けば、他の5カ国の数値は全く同じである。)
・ 南米のOPEC加盟国であるベネズエラ及びエクアドルは、いずれもOPEC統計値がBP統計値のほぼ1.5倍である。これについてOPEC統計ではベネズエラの埋蔵量には「オリノコ・ベルト地帯のMagna Reserve Projectを含む」と注記されており、同国に数千億バレルの埋蔵量があるといわれる非在来型石油オイルシェールの一部を加えたことがわかる。(エクアドルについては不明)。
・ 上記以外のOPEC5カ国(アルジェリア、アンゴラ、インドネシア、リビア及びナイジェリア)については合計埋蔵量(1,100億バレル弱)はOPEC統計とBP統計で大きな差異は無いが、国別で見るとアンゴラの埋蔵量はBP統計の方が4割以上大きく、ナイジェリア、リビアの埋蔵量はBP統計値がOPEC統計値より若干少ない。
・ 旧ソ連邦の埋蔵量は両統計とも1,280億バレル前後で殆ど差が無い。
・ 米国、カナダについてはいずれもBP統計の埋蔵量がOPEC統計よりも多い。特にカナダはOPEC統計値が49億バレルに対し、BP統計値は286億バレルと6倍の開きがある。これについてBP統計では、「(非在来型石油オイルサンドのうち)既に開発中の油田の埋蔵量を加算」との注記が見られる。
このようにOPEC統計とBP統計値に違いが見られる。OPEC統計は加盟国が自己申告する数量を計上していると考えられ、一方、BPは同社の長年にわたる世界各地での探鉱実績をもとに推定した数値(一部シェルなど他の国際石油企業との情報交換によるものも含まれるであろうが)と考えられる。これらの点を考慮すると、上記の各国別の差異に共通して言えることは、OPEC加盟国の一部が埋蔵量を多めに申告しようとする傾向が見られる。それは特にベネズエラのように欧米先進国に対抗しようとする国に顕著であり、その背景に政治的思惑があると考えれば説明がつく。
一方、民間企業であるBPの場合は、投資家及び税務当局に対する説明責任として、自社の埋蔵量を公正妥当な基準に従って算出し情報開示する義務がある。BP統計では米国、カナダ、アンゴラ、カタール等についてはOPEC統計を上回る埋蔵量を計上している。このうちアンゴラ、カタールはOPEC加盟国であるが、OPEC統計よりもそれぞれ+40億バレル、+19億バレル多い。これはBP自身を含む国際石油会社(IOC)がこれらの国の探鉱開発に深く関与しており、石油の埋蔵状況をかなり正確に把握しているためと言えるかもしれない(但しこれは筆者の推測にすぎない)。ただ一般的に言えば数年前にシェルが自社の埋蔵量を大幅に下方修正したことに見られるように、IOCは公表する埋蔵量を厳密化する傾向にある。
サウジアラビア、クウェイト、UAEの3カ国はOPEC、BPの統計値が完全に一致している。これらの国では国営石油会社が探鉱開発をほぼ独占しており、IOCは一部しか関与していないが、歴史的にIOCの強い影響を受けており、埋蔵量の算出方法に信頼性があることが両者の数値が一致する理由かもしれない。
それに反しイラン及びイラクの埋蔵量について、OPECとBPの数値が一致しているのは、むしろ現時点では上方あるいは下方修正するだけの客観的なデータが乏しいためではないだろうか。イラクは最近油田の入札を行なっており、今後IOCを含む外国企業が探鉱開発に参入すれば埋蔵量を変更する可能性が高くなろう。一方、イランの場合は欧米諸国との緊張関係という政治的な背景により、場合によってはベネズエラのように、国内埋蔵量を上方修正する可能性も否定できない。
いずれにしても産油国が公表する自国の石油埋蔵量は、その国の国力の誇示であるとともに、外交経済関係を有利に展開する最も優れた手段の一つであることだけは十分認識する必要があり、OPEC統計とBP統計を単純比較してその差異を説明することは困難である。むしろこじつけ的に説明するよりも、両者のビヘイビアの違いを理解することが必要なのかもしれない。
OPECと消費国の間で産消対話が盛んに叫ばれているが、両者が同じ土俵で議論するためには埋蔵量など基礎的データを一本化することがまず先決である。その認識は両者が共有しており、例えば2002年に大阪で開かれた第8回国際エネルギー・フォーラム(いわゆる産消対話)では事務局を設けて産油国と消費国が協働してデータの一体化を図ることが合意されている。しかし本件はその後進展した気配がないまま今日に至っているのである。問題の解決は簡単ではないようである。
(「埋蔵量の比較」終わり)
(これまでの内容)
OPECとBPの石油統計を比較すれば------(1)
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7/27 国際石油開発帝石 執行役員の選任および執行役員への担当業務の委嘱ならびに幹部社員の人事について http://www.inpex.co.jp/news/pdf/2009/20090727.pdf
7/27 AOCホールディングス 日本オイルエンジニアリング㈱のイラク原油輸出施設復旧計画に係るプロジェクト・マネジメント契約締結に関するお知らせ http://www.aochd.co.jp/ir/pdf/090727_jigyo.pdf
7/28 Shell Shell awards floating LNG contracts to Technip and Samsung http://www.shell.com/home/content/media/news_and_library/press_releases/2009/floating_lng_contract_28072009.html