石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

IMF世界経済見通し:一年間で4度も下方修正されたGDP成長率 (5完)

2022-10-21 | その他

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0569ImfOct2022.pdf

 

5. 2022GDP成長率見直しの推移

 IMFの世界経済見通しは毎年4月、10月に全世界200弱の国について成長率の見直しが行われ、さらに1月及び7月には主要な国と経済圏の成長率が発表されている。主要な国と経済圏については3カ月ごとに検証されていることになる。

 

 最近の特徴はコロナ禍、ロシアのウクライナ軍事介入、エネルギー価格の激しい変動など国際経済を取り巻く環境が不透明感を増していることである。このためIMFの成長率見通しも3カ月ごとに大きく変動すると言う特徴が見られる。ここでは直近4回(2022年1月、4月、7月及び今回10月)の成長率見直しの推移を比較する。

 

(4回連続で下方修正された米国および中国!)

5-1 全世界及び日本、米国、中国の成長率見直しの推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-03a.pdf 参照)

 直近4回のIMF経済見通しにおける2022年の世界のGDP成長率は2022年1月見通しでは4.4%であったが、その後4月は3.6%、7月3.2%と3回連続して下方修正され、今回10月は横ばいとされている。

 

 米国は4.0%(1月)→3.7%(4月)→2.3%(7月)→1.6%(10月)であり、4回連続して下方修正され今回の数値は1月の予測値の半分以下となっている。中国の場合も4.8%(1月)→4.4%(4月)→3.3%(7月)→3.2%(10月)であり、米国同様4回連続で下方修正されている。

 

 日本の2022年成長率は3.3%(1月)→2.4%(4月)→1.7%(7月)→1.7%(10月)に集成されている。4月、7月と連続して下方修正され、7月の成長率は1月の半分程度に引き下げられた。10月は直前の7月の成長率が維持されているが1%台の低い水準にとどまっている。

 

(OPEC+の盟主に極端な明暗!)

5-1 ロシアとサウジアラビアとインド

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-03b.pdf 参照)

 サウジアラビアとロシアは米国と並ぶ三大産油国であり、両国はOPEC+(プラス)の盟主として最近の石油価格の高値安定を主導している。しかしロシアは2月にウクライナに侵攻、多くの国から経済制裁を受けた結果、GDP成長率はマイナスに暗転している。

 

このため両国の今年のGDP成長率は1月にサウジアラビア4.8%、ロシア2.8%とされた後は明暗を分けている。すなわち4月の見直しではサウジアラビアが+7.6%と上方修正された一方、ロシアは▲8.5%のマイナス成長と大幅に下落している。2月に始まったウクライナ紛争により石油価格が急騰したことは輸出国のサウジアラビアに大きな追い風となった一方、紛争当事者のロシアの経済は極めて不透明な状況である。

 

7月及び10月(今回)の成長率予測ではサウジアラビアは引き続き7.6%の高い成長を維持すると予測されている。一方、ロシアはエネルギー価格の高騰により経済が下支えされる結果となり、GDP 成長率は当初4月の▲8.5%から6.0%(7月)→▲3.4%(今回)へ改善されている。

 

 アジアの新興経済大国であるインドの2022年のGDP成長率予測は、9.0%(1月)→8.2%(4月)→7.4%(7月)→6.8%(10月)である。米国、中国などと同様連続して下方修正されている。しかしながら同国の今年の成長率は世界平均あるいは米国、中国を大きく上回る見通しである。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                              E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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石油と中東のニュース(10月21日)

2022-10-21 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・パレスチナのハマス、シリアと和解。中東に新たな勢力図

・レバノン、3回目の大統領選出投票に失敗、権力の空白状況続く

・世界のハラール市場規模7兆ドル、5年以内には10兆ドルに。 *

*参考「2024 年のイスラム経済規模は7兆ドル―Global Islamic Economy Report 2019/20 の概要

 

 

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SF小説:「ナクバの東」(44)

2022-10-20 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)

 

44. パーティーにて(5)

 

そのやりとりを見ながら、ヘレンは男の話しぶりに感心した。話し方は訥々としていたが説得力があった。そして何よりも感心したのは彼の話は決して芯がぶれなかったことであった。普段の周囲の男性たちの会話は目の前の相手を楽しませることばかり考え話に全く芯が無い。それに比べ目の前の男には意思の強さが感じられた。

 

ヘレンはそのことを彼に伝えたくてついに我慢できなくなり言葉を発した。

「あなたって本当につつましいシャイなお方ね。それでいて信念はロック(石)のように堅いわ。さしずめ『シャイ・ロック』と言ったところかしら。」

 

場の空気が一瞬凍りついた。

 

彼女も自分の発した言葉の意味にハッと気がついて、手で口をおおった。イスラエルの、そして生粋のユダヤ人である武官に投げかけた『シャイ・ロック』と言う言葉。それがどのような意味を持つのか、彼女もその程度の常識はわきまえていたのだが、一度口に出したことは翻せない。ヘレンは蒼くなりあわてて次の言葉を頭の中で考えた。

その時、輪の中心にいた上司の夫人が、男とヘレンを交互に見ながら言った。

 

「まあ、面白いことを言うわね。本当にこの方はつつましくて、それでいて堅いお方よね。『シャイ・ロック』とは面白い呼び名ですこと。」

「私、今後あなたさまのことをそうお呼びすることにしましょう。」

 

輪の女性たちはポカンとした顔になった。上司の妻は不思議な顔をした。そのことで皆は彼女がかの有名な英国の戯曲を知らなかった、或いは気付かなかったことを理解した。こうなれば彼女に合わせることが他の夫人たちの処世術である。彼女たちは一斉に声を揃えた。

 

「そうね。そうしましょう。そうしましょう。今後この方のことは『シャイ・ロック』と呼ぶことにしましょう。」

 

この出来事は瞬く間にワシントンの社交界に広まり、彼は以後『シャイ・ロック』と呼ばれるようになった。

 

(続く)

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

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IMF世界経済見通し:一年間で4度も下方修正されたGDP成長率 (4)

2022-10-20 | その他

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0569ImfOct2022.pdf

 

4. 2020年~2024年のGDP成長率

(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-11.pdf 参照)

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-05.pdf 参照)

 

 今年を挟む2020年から2024年までの前後5年間の主要経済圏と国のGDP成長率の推移を見ると、2020年は全世界の成長率は▲3.0%のマイナスであり、EU及びASEAN5か国の経済圏もそれぞれ▲5.6%、▲3.4%であった。国別では米国(▲3.4%)、日本(▲4.6%)、ドイツ(▲3.7%)、サウジアラビア(▲4.1%)など大半の国がマイナス成長であり、中国(2.2%)、エジプト(3.5%)など一部の国だけがプラス成長を記録した。

 

 コロナ禍が下火となった2021年は、前年の反動もありほぼすべての国でプラス成長であった。そして今年(2022年)はウクライナ紛争とエネルギー価格の高騰により産油国のサウジアラビア等一部の国を除き、大半の国では前年を下回る成長率を余儀なくされている。2023年及び2024年の成長率は経済の先行きに不透明感が濃いため、多くの国で成長率が横ばいになると予測されている。

 

 主な地域、国の5年間の成長率推移は以下のとおりである。

                            2020年(実績)  2021年(実績) 2022年(見込) 2023年(予測) 2024年(予測)

全世界                 ▲3.0%                6.0%         3.2%             2.7%              3.2%

EU圏                  ▲5.6%                5.4%           3.2%               0.7%                2.1%

ASEAN5カ国  ▲3.4%                3.4%         5.3%             4.9%              5.3%

米国                     ▲3.4%                5.7%         1.6%             1.0%              1.2%

日本                     ▲4.6%                1.7%         1.7%             1.6%              1.3%

中国                      2.2%                 8.1%         3.2%             4.4%              4.5%

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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                              E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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石油と中東のニュース(10月19日)

2022-10-19 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・原油価格3%以上下落。Brent90ドル割る。WTI $82.34

・8月のサウジ原油輸出760万B/D、2020年4月以来の水準

(中東関連ニュース)

・豪労働党政権、前政権のイスラエルエルサレム首都決定を撤回

・イラン大統領、オマーン国王と電話会談。米のデモ扇動には対抗手段

・ウクライナ、イランと断交。露のイラン製カミカゼドローン使用に抗議

・イラン革命防衛隊前司令官:22カ国がイラン製ドローン購入検討。*

*レポート「中東に広まるドローン(UCAV)の開発と軍事利用 」参照。

・サウジ、国家産業戦略策定。2035年までに36,000工場増加目指す

・カタールで初の太陽光発電プラント稼働、能力800MW、総工費5億ドル

・米裁判所、仏セメント企業のイスラム国支払いに罰金7.8億ドル

 

 

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データベース更新のお知らせ

2022-10-18 | データベース追加・更新

下記データベースを更新しましたので自由にご利用ください。

 

・クウェイト サバーハ首長家々系図

・クウェイト内閣閣僚名簿

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IMF世界経済見通し:一年間で4度も下方修正されたGDP成長率 (3)

2022-10-18 | その他

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0569ImfOct2022.pdf

 

(ドイツは来年マイナス成長の見通し!)

3. 来年(2023)GDP成長率(予測)

(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-08.pdf 参照)

(1)今年との比較

  今回10月見通しでは来年(2023年)の世界の成長率は2.7%と予測されており、今年の3.2%に比べ成長率が0.5%鈍化すると予測されている。各経済圏及び国別でもほぼ同じ傾向を示しており、以下の通り大半の国で成長率が低下する見込みである。

 

米国1.6%(今年)→1.0%(来年)(▲0.6%)、日本1.7%→1.6%(▲0.1%)、インド6.8%→6.1%(▲0.7%)、英国3.6%→0.3%(▲3.3%)、ドイツ1.5%→▲0.3%(▲1.8%)、サウジアラビア7.6%→3.7%(▲3.9%)、

 

ドイツが来年にマイナス成長に沈むと予測されていることは注目に値する。ドイツはこれまでロシアの石油・天然ガスに大きく依存しており、ウクライナ侵攻で同国からの輸入が全量ストップ、他国からの代替輸入でエネルギーコストが高騰する恐れのあることがマイナス成長予測の主な原因であろう。

 

これらの国々に対し中国及びロシアは来年の成長率が今年を上回ると予測されている。ロシアは▲3.4%(今年)→▲2.3%(来年)とマイナス成長が続くが、石油、天然ガスが高値に推移することによりGDPの落ち込み幅が小さくなると予測したためであろう。

 

中国の場合は3.2%→4.4%(1.2%)と成長が加速すると予測している。2020年に全世界が大幅なマイナス成長を余儀なくされた中で同国だけはプラス成長を維持しており、コロナ禍がおさまると思われる来年は再び成長が加速するとIMFは予測している。

 

(2)前回(7)との比較

 来年の成長率について今回(10月)と前回(7月)を比べると、ほぼすべての国と地域で下方修正されている。来年の世界の成長率は2.7%であるが、前回7月は2.9%とされており、▲0.2%低下している。主要経済圏ではEUの来年の成長率は1.2%(前回7月見通し)→0.5%(今回10月見通し)で▲0.7%の減速が見込まれている。ASEAN5か国も5.1%→4.9%(▲0.2%)の減速とされている。

 

国別に見ても各国ともロシアを除き来年のGDP成長率はいずれも7月時点より悪化の度合いが大きく、ドイツの場合は前回7月の+0.8%から今回10月は▲0.3%と大幅に悪化すると見込んでいる。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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                              E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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IMF世界経済見通し:一年間で4度も下方修正されたGDP成長率 (2)

2022-10-17 | その他

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0569ImfOct2022.pdf

 

(世界のGDP総額103兆ドル、1位米、2位中国の2国で全世界の44%占める!)

22022年の名目GDP(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-12.pdf 参照)

 全世界の2022年名目GDP(at current price)総額は103兆5千億ドルに達する。トップは米国の25兆ドル、2位は中国の20兆ドルである。この2カ国だけで世界全体のGDPの44%を占めている。

 

 第3位は日本の4兆3千億ドルであるが、米国、中国との格差は大きい。ドイツが日本に続く4位でそのGDPは4兆ドル強である。これら4か国で世界のGDPの過半を超えている。5位以下10位までは以下のとおり。

 

インド(3.5兆ドル)、英国(3.2兆ドル)、フランス(2.8兆ドル)、カナダ(2.2兆ドル)、ロシア(2.1兆ドル)、イタリア(2兆ドル)

 

 これら上位10カ国の世界のGDPに占める比率は67%に達し、またG7構成国はいずれもトップ10に入っており、G7のGDP総額は44兆ドル、世界に占める割合は42%である。11位から20位までの国は、イラン、ブラジル、韓国、オーストラリア、メキシコ、スペイン、インドネシア、サウジアラビア、オランダ、トルコの各国である。

 

 中東諸国ではサウジアラビアが1兆ドルを超え世界18位に、またトルコは8,500億ドルで世界20位である。その他の中東諸国ではイスラエルが世界28位、UAE、エジプト、カタールの世界順位はそれぞれ32位、33位、55位である。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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石油と中東のニュース(10月17日)

2022-10-17 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・産油各国、相次いでOPEC+減産決定支持を表明。純粋に経済的な判断

・来週にもトルコと天然ガスパイプライン計画打ち合わせ:露Gazprom

(中東関連ニュース)

・バイデン米大統領:G20でサウジ皇太子と会談の予定なし

・イラン:抗議活動5週目突入。死者累計200人以上

・テヘラン市街に政府肝いりの著名女性ヒジャブ着用巨大写真広告登場

・イラン、カフカス地方の外交問題も重視の姿勢

・イラク:最大党派サドル派が連立内閣不参加を表明

・クウェイト新内閣発足。11人入れ替え留任3人のみ。石油相にAl-Mulla議員

・トルコ:1-9月のロシア人住宅購入は前年比3倍。ウクライナ人も増加

・エジプト、IMFと経済再生プログラムで合意

・エジプト:輸入紙価高騰が出版業界を直撃

・サウジ:アニメ博に日本アニメ登場

・ヨルダン:Balqa技術大学と三菱商事が電気自動車技術留学制度

 

 

 

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SF小説:「ナクバの東」(43)

2022-10-17 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)

 

43. パーティーにて(4)

 

ジョンストン空将の妻ヘレンは夫や夫の同僚たちに幻滅していた。抜群の反射神経を持ち状況の分析力にも優れた彼の夫は優秀なパイロットであり、同時に同僚たちから頭一つ抜けた如才のない秀才であった。決してハンサムと言えるほどの容貌ではなかったが、彼女自身も快活で陽気な彼に好意を抱き二人は周りから祝福されて結婚した。

 

ジョンストンは第二次大戦の南太平洋でゼロ戦を相手に勇敢に戦い多くの勲章を授与された。多すぎて軍服に付けられないほどの勲章を飾ってパーティーに出ると、彼はその一つ一つのいわれを自慢げに説明した。彼に寄り添うヘレンもそんな夫に尊敬のまなざしをそそぎながら誇らしい気持ちであった。しかしそのようなことが何度も繰り返されるとさすがのヘレンも最近ではうんざりであった。

ヘレンは夫が男仲間と武勇談の掛け合いを始めるとその場をそっと離れ、顔見知りの夫人たちが一人の浅黒い精悍な軍服姿の男を囲んでいる輪に向かっていった。

 

輪の中心にいた女性がヘレンの顔を見かけると手招きし、興奮した口調で呼び掛けた。

 

「ねえ、ねえ、ヘレン。聞いているでしょ。この方があの有名なイスラエルの武官よ。話がとっても面白いの。今始まったばかりだからあなたも一緒にお聞きになったら。」

 

女性は夫の上役の夫人であった。ヘレンは輪の中心の男性に挨拶すると一歩下がって遠慮がちに彼の話に耳を傾けた。話に魅了されていた女性たちは次から次へと男に質問を浴びせかけた。ここでは夫の序列がそのまま夫人たちの序列である。ヘレンが質問することなど許されない。彼女は遠慮会釈のない夫人たちのやりとりを静かに聞いていた。日頃のパーティーで話題のリーダー役を務める彼女にとってそれはある意味苦行であった。

 

男が話につかえると女たちが四方八方から口をはさむ。それに対して男は少し考え込んだ後、言葉少なに答える。

 

(続く)

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 

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