Fish On The Boat

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『贈与論』

2014-09-12 00:01:28 | 読書。
読書。
『贈与論』 マルセル・モース 吉田禎吾・江川純一 訳
を読んだ。

今春ころから気になっていた、モースの『贈与論』を読みました。
モース(1872-1950)は社会学者であり、民俗学者であり、
当時の彼の学生や交友のあった学者からは、「彼は何でも知っている」と言われたり、
思われたりしていたそうです。そういう博識の大学者タイプの人だったようです。

さてさて、ずっと頭に引っかかっていて、
きっと現代の生きにくさをやわらげる一つのヒントになるんじゃないかと思えていたこの『贈与論』。
その贈与についてですが、まず原始的な社会において、「物々交換」とされるような、
その文字通りの意味での淡泊な交換は存在しなかったみたいです。
霊とか魂、そう書くとオカルト的に思えちゃうけれど、そういったような元の持ち主の力、
もしくは物自体が秘めている力が宿っているし(これはポリネシアなどその地方地方によって違うようです)、
物と物とを交換しながら、その魂・霊・力を贈与したりされたりしている、という感じのようです。

ここでのポイントは、元の持ち主の力が宿っている、というところですね。
現代に置き換えると、たとえば楽天市場で自分の顔を出して商売している人がいるとします。
その商品(お酒でも、チャーシューでも、果物でもいいですが)を買うことで、
その商売している主人の人柄も買っているような気になることはないでしょうか。
すごく気に入った商品であるならば、商品をみると、その主人の顔も思い浮かぶような。
そういった感覚って、実はアニミズム的な、この『贈与論』で言われている感覚に近いんだと思っています。

そして、その感覚は主人への敬意を生みます。
他者への敬意を持つことは、他者をあまりにぞんざいに扱ったりしないことに繋がる。
お互いに敬意を持ちあう社会というものは、成熟した人間関係が望めるかもしれない。
それは、コミュニケーションにおいての責任感を生むだろうし、
他者への暴力性を弱め、利他の精神を強める意味を持ちそうな気配があります。
人と人の関係のあったかみであり、それぞれにいとおしい関係、
それが望めそうだということです。

なので、顔が見えることの長所を今書きましたが、
トレーサビリティ(野菜などがどこで誰が作ったかを記載すること。
お菓子などの商品ならば、原材料まで遡って、どこのものなのかを明白にすること)
っていうのが、安全や安心や、何かあった時の責任所在を明らかにするだけのものかといえば、
そうではなく(逆にそれだけだとちょっと殺伐としたシステムのようにも感じられる)、
顔が見えるということで、前記のアニミズム的感覚を感じる助けになりもするのです、意識次第で。

また、モースによると、労働者は労働とともに、
時間や命や自分の中の何かまでを与えていると感じるもので、
それらまでもが適度に報われなければ、怠惰と生産性の低下に結びついてしまうということです。
(昨日の論理学で覚えたての)対偶でいえば、「怠惰や生産性の低下がないのならば、
労働者は自分が与えているものに対しての報いを受けている」といえます。
それはつまり、生産品の受け手が、
労働者の「顔」を感じて敬意を持つことに繋がるのではないか。
僕はそう考えました、だから、現代の生きづらさも経済の下降もやわらげることが
できるのではないかと思ったのです。

また、こういうのもありました。
「知って貰う」ことの大事さが、「未開」とかという誤解された言い方をされる
原始的(?)部族のなかには基本的にあるみたいですが、そういうところ、
「今」において大事なような気がするんですよ。
自分を「知って貰う」ということ。そしてそれが他者に知られていないがために
傷つけられたり抹殺されたりすることなく、逆に敬意に繋がっていく。匿名性の反対です。
じゃ、匿名はいけないかというと、僕はちょっと困ってしまうんですよ、
このブログだってツイッターだって匿名でやっているし、
FBは友達以外には見えないようにしているしで。
折衷案みたいなものですが、「知って貰えれば」良いとすると、
ハンドルネームであっても、僕はこういう人だということを
知って貰えるように表現していれば、それで事足りるのではないか。
某掲示板のように、個性を潰してみな匿名でやるのとは違います。
その某掲示板的な匿名性と、実名でなんでもやることの中間的なところでも、
「知って貰う」ことの効能はあるように思うのですが、
みなさんはどう思われるでしょうね。

そして、やっぱり、施しすぎるのは良くないと書かれている部分がありました。
贈与にはお返しをしないと、毒になるようなところがあるとされていて、
そこを考えてのことのようです。
まぁでも、そこは、人と人との関係性に置いてですから、物をプレゼントして、
物以外で返してもらっていることもあると思うので、複雑かもしれない。

とまぁ、そういうところです。
前にモースの解説本を読んでいたので、要所要所を読むような感覚で、
すらーっと一冊読めてしまいました。
一冊の半分くらいは注釈なので、実はそれほどの分量はないです。

そんなわけで、今回は、僕の考えを深めたもの、
というか、もともとインスピレーションされたというか、
影響を受けたその原書を読みましたという報告のような本の紹介になりました。
気になる人は、じっくりと読んでみると得られるものがあると思います。



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