Fish On The Boat

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『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』

2014-09-08 01:02:17 | 読書。
読書。
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』 本谷有希子
を読んだ。

劇作家としての本谷有希子さんのほうが、
小説家である本谷有希子さんよりも先輩なのだろうか。
本作は自作の戯曲を小説化したものです。
それを知ってから読んでしまったこともあって、
舞台で繰り広げられるような展開だなぁなどと読めてしまった。

そう感じてしまったところには、
まず「インパクト」がありますよね。
キャラクターのインパクト、キャラクターの行動のインパクト。
こういうのいるかもしれないなと思わせながらも極端で、
人間離れすれすれのキャラクターに感じられるところもあります。
そういうのが、舞台映えするだろうな、と思い浮かぶところでした。

ストーリーでいえば、
話の幹の部分よりも、枝や葉っぱの部分が充実していて、
幹よりも太い感じ。そういう作りのように思えました。
…と、木に喩えるからわかりにくいのですが、
例えば、地下鉄の何何線がテーマだとすると、路線というよりか、
駅ばかり注目して充実させて紹介する感覚かなぁ。
とにかく、出来ごと重視。
こうなってこうなった、ってのをこまごまと書いているというよりは、
こうなった、そのことを重点的に書いて、それの連続という感じ。
なので、また下手な木の喩えに戻りますが、
幹の見えない、大きな葉っぱだらけの木のような小説に、
僕なんかには見受けられたということです。

しかし、わき役の待子さんのキャラクターは面白かったですね。
打たれ強すぎて、かつ不幸すぎて。
おいしい役どころでもあります。

こういうことあるかもしれないっていう出来ごとが、
装飾されて虚構の中にその突き出て感じる部分をもっと突き出させた感じがする。
出っ張った部分をもっと出っ張らせよう、という。
そういう試みによって特色を持った作品のように思えました。

アンバランスな家族が主役になっています。
ドタバタと、リアルに落とし込みすぎて読むと、
暴力シーンには辟易としてしまうでしょうが、
ちゃんとフィクションとして読むとこの作品の暴力シーンは笑えてしまう。
また書きますが、そこが戯曲的だと思うのです。

澄伽は自信たっぷりに女優を目指す性格にふさわしい美人なんだろうなぁと
想像して読みましたが、いやいや、迷惑な人でもあります。
群像劇みたいな感じですが、この人の行く末を中心にして語られる物語なので、
そこを注目すると、報われるのか報われないのか、なかなか一転二転するので、
そういうところからは目が離せずに読めてしまいました。

言葉も、語彙が豊富だし、文章をちゃんと泥臭く構築していく感じで、
20代半ばでよく書いたなぁと、驚いたりもしました。
ただ、ちょっと、お酒を飲みながら書いているんじゃないのかいと
思わせられるところもあるんですよね。
まぁ、いいですけど。

本谷作品は初めてでしたが(舞台はひとつDVDで観たことがある)、
面白かったです。



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