Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『星空の谷川俊太郎質問箱』

2021-08-21 23:18:33 | 読書。
読書。
『星空の谷川俊太郎質問箱』 谷川俊太郎
を読んだ。

いろいろな年代の人たちからWEBに寄せられた数々の質問に、詩人の谷川俊太郎さんが答える本。

谷川さんは詩人であって聖者ではないのですが、大詩人で人生の先輩でと考えると、まるで聖者のようなひとなのではないかという先入観で見てしまう。僕の詩人観がすこし歪んでいるからです。でも、注意深く、こういった本を読むと詩人が聖者じゃないことはなんとなくわかってきます。それは僕にとって、とてもよいことです。どの答えもおもしろい、しかし、僕の読みとは必ずずれている答えになっていました。僕が野球の打者で、谷川さんがキャッチャーとしてピッチャーの投球をコントロールしていたら、僕はまったく配球を読めていないで、空ぶったり見逃したりして三振しているでしょう。それは相性のせいかもしれないですし、僕のあたまが単純にすぎるからかもしれません。またこのこととはちょっと違いますが、とらえどころのなさのある方だとも感じました。

ただまあ、ひとつかふたつくらいは、僕が答えるだろうものに近い答えを発されているものもあります。それは「大切な人が亡くなったとき、どうやって乗り越えてきましたか?」への答えがまずひとつ。<泣きながらカーステレオの音楽を流し放しでどこへ行くあてもなくドライブしたり、飲めない酒を飲んで無理やり自分で自分を寝かしつけたりしました。>というのがそうです。これはガードを解いた時ときのひとりの人間のそのままっていう感じです。

もうひとつあげると、オリンピック選手に恋焦がれていてどうしようもないんだけど、どうしたらいいのかという質問に対する答えの一部分。<恋愛ってある面では反社会的なものなんだよ。>です。こんなにはっきりと僕の内では言語化されていませんでしたが、さっきの配球のたとえでいえば読みの範囲内といえるくらいのところです。

また、考えさせられるタネもいっぱいあるんです。偽善についてのページがあってそこでの谷川さんの答えを大きなヒントにして考えました。それは、偽善的なことって思い浮かぶものだけれど、そんなこと考えもしないと言ってしまえる人が偽善者だ、というようなものでした。例外はあるけれど、悪いことだとか下心だとか、誰もが考えることです。それを、「そんなこと考えてない」と言いはってしまうのが偽善で、それはほんとうにそうだと思いました。仮にほんとうに考えていなくても、指摘されたら戸惑ってしまうでしょうし、戸惑ったときに「やってしまうかもしれない」可能性を少しであっても感じるものだと思うのです。で、そういった下心などが頭に浮かんでいても、自分を律して自制心で行動するのが偽善への対処だと思うのです。それが自己完結の場合であっても。

下心を思い浮かべた時点で偽善になるということじゃないと僕は考えます。そんなのは誰にもあることで、当り前の領域なのではないか。下心の奴隷となりその欲求のとおりに行動したりすれば、それこそが偽善。自律的に自制心で下心をとどめて行動できたなら、下心を内に抱えていたとしても偽善ではないと思うのです。たいていの場合、こころに少しでも邪なものが浮かんでいたなら、それに反した行動をしても他者がそれを見て「偽善だ」と糾弾してくるものですよね。こころにやましい考えが浮かぶか浮かばないかで判断するのは、人間のこころを見透かす存在つまり神様を認めた世界観(宗教観)からきているのではないか。人間がピュアならやましいことは考えないはずだという、考え方によってはナイーブで厚かましい人間観がそこにあるのではないでしょうか。人間はそんな単純に割り切れるものじゃないです。ピュアという単純さをよしとするのは、扱いやすい人間をよしとすることです。つまり、子羊たる人間であれ、というように。だから、下心が思い浮かぶか浮かばないかで人を偽善かどうかを判断するのはくだらないことどころか、害悪でもあると思うんですよね。浅薄な人間観ですから。

ひとりの人が、どう世界と関わるかだとか人とコミュニケーションをとるか、距離をどうとるかっていうのは、その人の世界観や人間観から発生することです。ですから、浅薄な人間観が害悪になるだろうと考えられるのでした。

ちょっと個人的な脱線が著しかったですが、本書は考えるヒントをいただける本であり、谷川さんと張りあうかのようにさまざまな質問に対して自分なりの答えを考えて谷川さんの答えと比べて楽しむというのも悪くない本だと思います。

詩人の思考方法からなにかを得よう・学ぼう・盗もう、というよりも、構えずいっしょに楽しんじゃったほうがずっといい種類のものだと思いました。本質をつく質問にはハッとします。でも、うまく答えられなくてもその質問から逃げない姿勢でいたほうがどうやらいいみたいだ、という感想を最後に持つことができた本でした。


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