Fish On The Boat

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『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』

2023-12-12 21:35:13 | 読書。
読書。
『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』 ほぼ日刊イトイ新聞・編
を読んだ。

「岩田聡 任天堂元代表取締役社長 世界中のゲームファンとゲームクリエイターに愛された人。」(帯より)

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「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。いちからつくりなおしていいのであれば、半年でやります」(p193他・糸井さん制作のゲームソフト『MOTHER2』が頓挫しかかって、HAL研究所社長だった岩田さんに糸井さんがお願いしたときに岩田さんが言った、伝説的な言葉。)
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糸井重里さんが『MOTHER2』を制作していた時期に、糸井さんがヘルプを申し出たことで、糸井さんとの交流がはじまった岩田聡(いわたさとる)さん。当時彼はゲーム制作会社HAL研究所の社長であり、そののち任天堂社長となられて、ポータブルゲーム機「ニンテンドーDS」や家庭用ゲーム機「Wii」をつくって世に送り出し、世界中のほんとうに大勢の人たちをよろこばせた方です。僕は大人になってからほとんどゲームをしなくなりましたが、それでも「ニンテンドーDS」は買いましたねえ。それも発売まもない時期に、「これ、なんかいいぞ、たぶん、きっと、絶対」みたいな妙な予感とともに買ったのでした。

本書は、ほぼ日や任天堂のサイトに掲載されている岩田さんの言葉をあつめてほぼ日刊イトイ新聞スタッフが編集したものです。半生記的な章、考え方を知れる章、個性を知れる章、岩田さんはどういった人を信じるかの章などなど、うまくまとめられていて、「おもてなしの読書感覚」すら覚えるくらい仕上がった編集本だと思います。人物特集本であっても、本人の言葉がダイレクトに(でも言葉自体はやわらかです)響いてきますから、堅苦しくありません。そこは岩田さんのひととなりとリンクした造りなのかもしれないぞ、と思いました。

そうやってできているこの一冊まるごと、クリエイティブに満ちています。クリエイティブというものを知ることができますし、多少なりともクリエイティブを知っていると「そうそう、それがクリエイティブ!」と肩を叩き合いたい気分になったりもします。そして、自分のなかにある未言語化クリエイティブを、「そのあたりのことを、うまく言語化されているなあ」と、岩田さんの言葉で客観的になぞったりする経験も本書にはあるでしょう、僕はそうでした。

また、なんていいますか、岩田さんは、社会の真っ只中にいながら、本書に掲載されているような真っ当な言葉をこれだけ言えていて、実際にそうやってこられたということが、僕には信じがたく感じられるのです。触れ慣れていない「希望」か「奇跡」のようなものが、実際に存在しているんだ、と知るみたいに。

岩田さんは高校生のころから特殊な電卓を使って複雑なプログラムを組んでゲームを作るなんてすごいことをやっています。技術者としてのトップクラスさが、経営者としても通用したふうにも感じられる。それはもちろん経営者になって一から考え学んでという日々を経ていることがあるのだろうけれど、もともとの思考部位がかなり鍛えられていたからじゃないのでしょうか。そう思いながら読み進むと、まさに岩田さんご自身が、そうである、と話していました。

たとえば、本書の最後のほうですが、彼の思考システムがどういうものだったのかが知れる言葉がありました。
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疑問を感じたら、きっとこういうことなんじゃないか、という仮説を立てる。そして、思いつく限りのパターンを検証して、「どういう角度から考えても、これだったら全部説明がつく」というときに考えるのをやめるんです。「これが答えだ」と。(p210)
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これって、プログラマーとしても経営者としても、どっちにも通用する姿勢ではないでしょうか。それもしっかりした仕事を成し遂げる姿勢です。こういった問題解決への臨み方は本書序盤でも見受けられて、いろいろ考えさせられたので、以下にちょっと書いていきます。

「問題」には、具体的なものや抽象的なものがあるし、具体的と抽象的のあいだでそれらのさまざまな割合のものもあります。問題解決が得意な人って、それらどのタイプの問題も毛嫌いしない人で、だからこそ具体的・抽象的な問題を問わず場数を積んでいるんじゃないかなあと思ったのです。たぶん、具体的でそれほど混み入っていない問題を多く解決していくことから、解決能力に実力がついていくんじゃないでしょうか。いくらか力がつけば、抽象度の高い問題にも、まったく歯が立たないわけではなくなっていくのではないか。

「アイディアとは複数の問題を一気に解決するものである」(p104)という宮本茂さん(『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』などの開発者で、岩田さんとはアイディアや思考を発展させ合う関係)の言葉がでてきたところで、それを岩田さんがご自分の経験から考えながらご自分の言葉で咀嚼しているさまがあります。そこの部分も、問題解決を考えるのに、大きな示唆のあるところでした。

問題解決に慣れていないうちは苦手なタイプの問題(抽象度の度合いなどによる)に触れたとき、どこから手を付けていいのかまったくわからなくなりますよね。また「この手の問題って扱いたくないんだよね」と苦手意識が生じていたりもする。克服のためにはまず自分にとって解決しやすい問題に直面するその場数なのではないのでしょうか。問題を小分けにして、分析して、優先順位をつけて、ひとつひとつ潰していくという方法はあるけれども、アイディアが必要とされる「複数の問題を一気に解決する」ケースへの能力は場数をこなすことなのではないか、と思ったところです。



というところで、ちょっとばかり偏った感想になりましたが、最後にふたつほど引用します。
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やはり、人と違う道を取るというのは、本来恐怖ですから。「みんなで進めば怖くない」というのが、いまのふつうの社会での生き方なのに、人と違うことをしなければならない。「人と違うことをするとほめられる」というのが任天堂という会社のカルチャーではありますけど、違うことの種類も規模も大きく、人と真逆に行くようなときは、とくに恐怖が大きい。
しかし、わたし自身は、なによりも、従来の延長戦上こそが恐怖だと思ったんです。(p148)
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ゲームのなかに意味もなく置かれている石ころがある。
「どうしてこれを置いたの?」と訊くと、
「なんとなく」とか言うんですけど、
「なんとなく」はいちばんダメなんですよ。(p159)
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いいところとしてではあるけれども、糸井さんに「野暮」とも形容されてしまうくらいの人格者で、おしゃべりによるコミュニケーションをほんとうに多用して、アイディアにしても組織の在りようにしても、建設的にやっていく方だったようです。それに、本書を読んでいると、実際、接しやすい感じの方だったのではないかなあと思えてきました。なにより、話しっぷりがいいんですね。どこか、安心して聞いていられるような。

そんな岩田さんの本でした。
受け継ぎたいところがたくさんありました。


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