Miaou:猫と一緒にフランス語

長い道のりを猫と共に行きつ戻りつ

ルーツって

2006-02-04 23:40:21 | 映画
金曜日映画を観ました。
タイトルは「愛より強い旅」
原題はEXILS、フランス語で意味は、追放・流刑、亡命などなどあるけれど、映画の内容と一番しっくりくる訳は「親しい土地、親しい人から離れて暮らすこと」だと思います。
主人公カップルのザノ(男性)とナイマ(女性)は、パリ郊外の高層集合住宅に住んでいます。高層集合住宅って言ったって、六本木ヒルズレジデンスとかそんなんじゃなくて、多分、1階にある集合ポストは使い物にならないんだろうなぁ、とかエレベーターには落書きがしてあるんだろうなぁと想像できるような住宅です。

ある日ザノは窓から外を眺めながら突然ナイマに言います「アルジェリアへ行こう」と。アルジェリアはザノの両親が生まれた地、ザノのルーツのある土地です。
ナイマは最初その提案を笑い飛ばしていました、「突然何言い出すの?」と。

結局二人は無賃乗車を繰り返しながら、フランスを出て、スペインのアンダルシアへ。そして、船に乗りアルジェリアへ向かうはずが、乗る船を間違えてモロッコへ。途中で知り合ったジプシーには所持品を盗まれ、彼らとは逆にアルジェリアを発ちフランスを目指して不法出国しようとする姉弟には助けてもらいながら、アルジェリアを目指します。

彼らの行程を見ていると、大変だけと楽しそう。
街なかの池で水浴びしたり、フラメンコのショーを見たり、
ナイマのお誕生日、ザノは野宿している場所のすぐ傍にシャンパンのボトルを前もって埋めておき、彼女の前で犬の真似をしてボトルを掘り出します。彼女はそれに大喜び。
無賃乗車、野宿などなどラクな旅ではないけれど、若い二人には楽しい旅ですね、と思いながら観ていました。

二人がアルジェリアに着いたとき、ナイマは自分のアイデンティティの不確かさを痛感し始め、気持ちが不安定になり、さかんに爪をかみ始めます。
彼女の風貌はアラブ系の、普通なら人前で肌を見せるような服装は許されないイスラムの国の女性と同じ風貌なのです。
でも彼女は郷に入っても郷に従うことができずに、街中をサンドレス1枚で歩き回ります。見ず知らずのイスラム教徒女性から「この恥知らず」のような罵声を浴びせられます。
そして彼女はますます疎外感を募らせていきます。

ザノは自分の両親が昔過ごしていた家に行くことができ、そこの住人がたまたま取っておいてくれた彼の祖先の写真を見て号泣してしまいます。
ザノはそこで、ずっと離れて暮らしていた親しい人に再会できたのです。
もうザノはEXILS(エグジル:親しい人・土地から離れて暮らす状態)から抜け出すことができたのかもしれません。

この映画の圧巻は、ナイマがトランス状態に陥ってしまう、音とダンスの場面です。占い師のような女性に「自分のことをしっかり見つめなさい」のようなことを強く言われ、最初は「フン」という反応だった彼女も、自分を包む音リズム、歌声、ダンスにだんだんとわれを忘れてのめりこんでいきます。
最後は恍惚状態で涙を流し、それを見守っていたザノも陶酔状態に陥ります。

その翌日のナイマの表情の変化を見て、ナイマも自分のルーツの何かを見つけたのだな(感じ取ったのだな)と思いました。

疎外感を感じ、激しく爪をかんでいた、暗さと焦りの映った目ではなく、穏やかでよりどころを持ったような、優しさと自信のあふれた目をしていました。

自分のルーツを確認するというのは、それだけ重要なことなのか・・・。
この映画の監督トニー・ガトリフ氏はそこが言いたかったのでしょう、と思います。
日本人だって決して単一民族とは思いませんけれど、ヨーロッパの人々は、さまざまな宗教文化を持った、肌の色の違う人々と共存していくのが当たり前です。
やはり、自分のルーツをどこかに感じていたいのでしょうか。

1時間43分の映画でした。
集中して観たので、終わった後に少し疲れました。
画面を注視していたのもありますが、やはり映画の終わり近くにかなり長く続いたナイマのトランスシーンに圧倒されたのかもしれません。
歌とダンスにはものすごいパワーがありますね。

この映画、多分、フランス語をやっていなかったら、関心の持てない映画だったのかもしれません。
この映画を観ることによって私が多民族、移民などについて理解できたことなどないに等しいでしょう。
でも、「なんか、いろいろあるのよね」というのは実感できたので、それでよしとします。

DVDになってレンタルされるようになったら、もう一度観てみようかな、と思いました。