しばらく前のこと・・・ 大家のエンカおばあちゃんのところに家賃を払いに行くと、
「お願いがあるんだけど・・・ 昨年から今年にかけて大病したせいでしばらくウチの墓を見てないんだよね。車で連れて行ってくれるとうれしいんだけど・・・ もちろんベンジン(ガソリンのこと)代は払うワ・・・」 体の調子の悪い上に半身マヒの50代息子ルーメンの世話を一人で見ているエンカ。もちろん車、出しましょう!! いつもお世話になっているからガソリン代もいいヨ!!
彼女の亡くなっただんなさんと、上の息子さん(ルーメンの兄にあたる。早くに亡くしているらしい・・・)のお墓はソフィアの駅の裏側、マラシェヴツィという地区にあります。その手前のオルランドフツィという地区にも大きな墓地(中央墓地)があり、そこには軍の墓地もあります。ちなみにブルガリアには「ザドゥシュニッツァ」という、日本のお盆やお彼岸に似た風習があり、その日にはこれらの墓地の周りは「墓参り」に来る人たちで大渋滞をおこします。このエンカのお墓の掃除に行った日はその日からずれていたのでまったく閑散としていたのですが・・・
碁盤の目のようなお墓の間をぬってエンカは自分のお墓へたどり着くために記憶をたぐります。
「え~っと、ここ・・・ここを左に!!」 と、そこはエンカの上の息子のお墓でした。
「ウチはもう一つお墓があったんだけど、前の人が亡くなって7年(?だったかな。けっこう長い期間)以内は同じお墓に入れないことになっててねェ」 そう、ブルガリアのお墓には「永代供養」という考え方はないのです。それは、今の日本ではほとんど見られない土葬がこちらでは一般的であるという理由のためでしょう。(ちなみにブルガリアでも火葬はあります。火葬されたお骨の入ったお墓はまるで集合住宅みたい・・・ 日本だったらお墓のマンションか立体駐車場(?)みたいですが、ブルガリアのは「お墓の共産団地」(苦笑)・・・)
夫に先立たれ、すぐ後に息子にも・・・ でも、別のお墓を確保すべく手続きに奔走・・・ 面倒です。で、このエンカの亡くなったご主人のお墓も同じマラシェヴツィの墓地にあるそうですが、お金がなくてそっちの方のお墓の使用期限更新を行なっていないそうで・・・ そうなると、極端な話、ある日行ってみたら別の人のお墓になってた・・・ なんてこともアリ?!
とりあえず、使用権がまだ有効な息子さんのお墓へ。お墓の横には彼が亡くなったときにエンカが植樹したライラック・・・ 夏なのでもう咲いてはいませんが、夏の日差しを浴びて大~きくなっていました。で、ちょっと刈り込み。雑草を抜いた後にはお花の苗を植えています。
よく見るとどのお墓にもたいがい鉄の板のようなものが付いているので、「何のために?」と思っていたのですが、掃除の後、エンカはそれをくるりと回転させると・・・ なんと、テーブルに!! エンカは持ってきたお水やジュース、おやつなどをその上において、おもむろにその中に一緒に持ってきていたワインや煮た小麦、バーニッツァなどをお供えしてました。
その後、ご主人の方の使用権の切れたお墓へ・・・ まだ他人のお墓にはなっていませんでしたが、いつどうなるか分からない、ということからこっちの手入れはアッサリ・・・ 軽く草刈のみ。「こっちのお墓・・・ どうしようかしらネ~」 あらら、どうするか迷っちゃうんだ~(苦笑)
ブルガリアは何でも期限を切らしてから何かの料金を払おうとすると、その未払い期間分の利息を請求され、けっこう高額になり厄介なことになることが多いのです。さわらぬナントカに・・・ ということなのかな?じゃあ、エンカ、あなたのお墓はどっちにするの?
生前から墓石には2つ名前や生存期間、そして写真を入れられるようになってるものを選んでいる人が多い・・・でも、配偶者に先立たれ、その後比較的短期間の内に、つまり後を追うように亡くなったりすると、法律上(風習上?)一つの墓には入れない?! また、残された方が再婚してしまうと、そのお墓には入りたくない?! 「先祖代々」お墓を受け継ぐという考え方のないブルガリア。興味深い・・・