『駅物語』

　今年の「読書の秋」におススメの１冊です。

　駅を舞台にしたお仕事小説といっても、鉄道好きの人限定では決してありません。
　人が移動するときに通り過ぎる場所としての「駅」は、短時間の滞在と身近さゆえにあまり記憶に残らない場所かもしれませんが、様々な人が訪れる舞台として、この作品で重要な役割を果たしています。
　そして、働く場所としての駅の物語は、私たちの駅員さんに対する意識を変えてくれます。
　この物語を読んだ人は、今までより少し駅員さんに優しくなるんじゃないでしょうか。


　また、主人公のたんなる成長物語でないところが、ひとつの魅力です。
全ての人がいろいろな想いを抱えて生きているということを、５つの「再会」だけでなく、主人公と仲間たちの交流が描きだしているところが秀逸でした。
　「自分が見ている世界」しか知らない人から、「多くの人それぞれが見ている世界」をを感じられる人へ。
　駅からの景色も車窓からの景色も、自分の意識で少し変わる。
　読者の見ている景色も変えてくれる、そんな物語です。