木々や草の緑に囲まれた小道で、三男と遊んでいたある日の事です。遊びに夢中でなかなか帰ろうとしない三男の気をひこうと、1匹のテントウムシを捕まえました。
「ほーらごらん。てっぺんまで登ったら、飛ぶよー」
テントウムシは、私の手のひらを登り、人差し指の先までいくと、外側の硬い翅を開きました。しかし飛ぶことはできず、真っ逆さまに地面に落ちてしまったのです。なぜなら、飛ぶための内側の翅が、2枚ともねじれていたからです。
(あ、この子、飛べないんだ。悪いことしちゃった)
私は草むらに戻してやろうと落ちたテントウムシに手を差し延べました。しかしテントウムシは私の手にのらず、自分の足で道を横切り、すばらしい速さで道端の木に登っていったのです。
少々進歩の遅い次男に、毎日勉強を教えても、いっこうにはかどらず、焦っていた日々に起きた、小さな出会いでした。子供の成長する力を信じなさい。そうテントウムシに教えられた気がしました。
(2000年7月ちこり19号、ミニエッセイ)