だれにも、人生で一度は、辛く苦しい時があります。壁にぶつかって、傷ついて、寂しい時、人は時々、自分の人生のマイナス分を取り戻そうと焦って、がむしゃらに行動を起こしたり、無理に情熱的に振る舞ったりします。心の中は、孤独に冷えているのに、満たされているふりを続けたり、します。
皆さんの作品をワープロに打ちこんでいると、皆さんの心の風景が、見えてくるときがあります。自分の心を鎮めて、相手の心の前に謙虚な気持ちになって、読んでいくと、言葉は、わたしに正直に心の内を打ち明けてくれます。そうやっていると、時々、たまらなく愛しくなる時が、あるのです。
苦しんで、あがいて、なんとか這い上がろうとしている。でも出口が見つからなくて、ただ焦っている。…私にも、そういう時期がありました。苦しかった。どうしようもなく寂しかった。でも、生きるしか、なかった。
トンネルを抜けるためには、ときに、遠回りと思えるような道を取る方が良い場合があるのです。最短距離だけを行こうとする心に捕らわれてしまうと、却って迷ってしまいます。焦ってはだめです。つらいけれど、悲しいけれど、目の前の、徒労とも思えるような仕事を、繰り返すしかない時期があるのです。
秋は、自分の心を見つめ直す時間を、与えてくれます。生きることに疲れて、自分が見えなくなった時には、静かに夜空でも見上げましょう。だれにも聞いてもらえない思いは、月や星にささやきましょう。例えば、真夜中の、たったひとりのベランダで。泣いてしまっても、誰もとがめないような、所で。
今日よりもすてきな未来が、きっと来ると、信じて。
(1996年11月ちこり8号、編集後記)