ジョン・カンスタブル、19世紀イギリス、ロマン主義。
美しい風景だ。これはかのじょの好みである。静かに横たわる銀の川、みずみずしい緑、思いを吸い上げてくれるような高い空。かのじょはよく緑の中にいた。人間よりも植物の方が好きだったからだ。人間に近寄ると、立ち上ってくる情念の煙が苦手だった。だからいつも、人から離れて森や草原の中にいた。空を見上げては、いつか帰れる自分の本当の故郷を思っていた。だが、自分にはここでしなければならないことがある。その思いがかのじょをこの世界に引き留めていた。しかしもうその使命も終わった。かのじょは解放されたのだ。もう二度と人間の世界に戻って来なくていい。この風景は、そんなかのじょにとって、地球世界での思い出を語る、一つの形見となるだろう。