ジョシュア・レイノルズ、18世紀イギリス、ロココ。
イギリス絵画には、こういう欺瞞を許すという伝統がある。シドンズ夫人がどういう女性であるか知らないが、この程度で詩神、ミューズを名乗ることを恥ずかしいと思わないことが恥ずかしい。レイノルズは、嘘で作った人間の表面的価値を、重要なものとして高い技術で画面に表現するが、それは芸術家としては根本的な矛盾をはらむ苦しい仕事だ。ゆえに彼の作品自体が、欺瞞に満ちた微妙なものになる。美しく見えるだけに、それは見る者の心を苦しめる。こうしたイギリス絵画の世界は、やがてオランピアを描いたマネの出現によって、一気に色あせるのである。