リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

プレリュード、フーガ、アレグロ(BWV998)その2

2016年04月09日 12時34分39秒 | 音楽系
この曲はバッハの自筆譜だけが残されており、筆写譜は現存していません。ひょっとしたら誰も筆写しなかった可能性もあります。オリジナルは現在上野学園大学にあります。70年代初め頃、当時同大学の助教授をされていた大橋敏成先生にレッスンをしていただいていた時期があったのですが、同大学からカラー印刷で出版されたBWV998を先生からお借りしたことがありました。このとき、アレグロの最後の方は五線譜ではなく、オルガンタブラチュアで書かれていることを知りました。紙のスペースがなくなり、窮余の策としてオルガンタブラチュアで書いたように思われます。

この曲の成立時期は諸説があるようですが、1730年代後半あるいは1740年中頃あたりのようです。円熟期から晩年に至る頃の作品のようです。興味深いのは、フーガがダ・カーポ形式になっていることです。一般的にフーガはオープン形式ですので、全体の枠組みを作ることはしません。ところが998のフーガは、展開とか変奏ともいうべき中間部があり、また始めに戻る(ダ・カーポ)という形式になっています。バッハによる同様の形式のフーガは997番のフーガにも見られますが、他は見たことがありません。いずれもリュートがらみの曲であるというのが興味深いところです。