長寿が本当にめでたいかどうかは、ひとまず置く。だが、世間は長寿者を羨ましがったり、祝ったりする。
そして長寿者に判で押したようにぶつけられるのが「長寿の秘訣は?」という愚問である。その本当の答えは「運です」である。
西洋のことわざに「長生きしたかったら長生きの両親から生まれなさい」というのがある。つまり長寿は、本人の心がけではどうにもならないことなのだ。
ところが「秘訣は?」という問いに「運です」と答えた長寿者はめったにいない。なにかしらテキトーな理屈を言うのが常である。「毎日おちょこ一杯の酒を欠かさないこと」、「毎日、梅干しを食べること」、「よくしゃべり笑うこと」。変なのになると「毎朝、東に向かってお辞儀3回する」なぞというのもある。
年長者を敬うのは儒教の教えだが、長寿者といえども浅はかな人がいる比率は、青壮年と変わらないようだ。一言正しく「運です」と言ってくれれば、どれだけ説得力があるか分からないのに。
私は浅はかだと思われるのがいやだから、長寿者になったら「運です」と答えることに決めている。だが最近、体の方々にガタがきている。「運です」と答えるまでには間に合わないだろう。