えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

祭りの二日:後ろ向きの赤とんぼ

2010年02月24日 | 雑記
さて淡々と二日目です。
先月二十三日、最寄り駅の電車到着音が童謡「たきび」に変わり、
一日のどしょっぱなからおうちに帰りたくなる毎日が始まりました。
うたわれている「さざんか」は中秋から冬にかけて咲く花なので秋の歌でも
冬の歌でも、どちらともとれるうたです。ただ、「雪」とか「赤鼻のサンタクロース」
などの冬のうたに比べると、「村祭り」「ちいさい秋みつけた」など秋のうたは
メロディーが物寂しく聞こえます。私は「たきび」も秋ではないかと思うのです。

上海バンスキングはジャズメンたちのものがたりですが、知る限りでは
二箇所ほど、ジャズ以外の曲が登場しました。
ひとつは「海ゆかば」。楽しく演奏する皆の前に現れた軍人たちが「フキンシン!」と
リクエストしたうたですが、演奏がすすむとこっそりジャズが紛れ込み、いつの間にか
どんちゃかしたなんとも軍服にそぐわない身体のはずむうたに変わってしまう演出が
かけられていました。
もうひとつは、「赤とんぼ」です。

笹野高史演じるバクマツ(ばくちの松本)、彼が戦争に招集されたことを余貴美子
演じる恋人のリリーに言えず、でもリリーは彼の雰囲気から別れのにおいをさとり
不安に任せてバクマツを問う、その問いに、笹野高史は黙ってトランペットを取り出し、
観客とリリーに背を向けてマウスピースを口にあてました。
静まる重い空気の上をすべるように、背をまっすぐにした笹野高史のトランペットは
ゆっくりと「赤とんぼ」をワンコーラス、一音一音が耳の奥に落ちるような遠い音色で
吹きました。

彼のアロハの背中がどうしようもなく頼もしく、男らしく見えるのがこの一瞬です。
もうすがれない背中ではあります。ことばで言えずにトランペットに乗せた弱さも
見えます。だから「赤とんぼ」の一曲、夕暮れにかけて落ちてゆく音階を強い音色で
背をしゃんと伸ばして吹いた時の潔さがきわ立つのです。壮年の笹野高史の男らしさが
凝縮された背中でした。

以来笹野高史の「かっこいい」姿勢に釘付けなのです。
コメント
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