えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

余計ものはどなた?

2008年09月27日 | コラム
『11人いる!』萩尾聖都著 小学館文庫

:竹宮恵子が演奏家なら、萩尾聖都は指揮者だ。言い換えるなら、竹宮恵子のもつペンは楽器で、萩尾聖都のペンはタクトなのだ。どちらがよりすぐれているという問いは愚問、作品の性質として竹宮恵子のほうがより、作品に己の心情が映っていて、萩尾聖都はもう少し客観性がある。自分で作った世界観を客観視して、「事件」を作り上げることは萩尾聖都のほうがうわて、と、そういうことが言いたい。

 『11人いる!』は、「ワープ航法と反重力の発見」のち600年後の世界を舞台に、閉じた宇宙船内のトラブルをめぐる一本だ。この宇宙船は、「宇宙大学」の入試の最終試験として設けられたもので、学生達は「10人」のメンバーで宇宙船生活を53日耐えなければいけない。ただし、アクシデントが発生した場合の非常用ボタンを押したら即アウトという厳しいものだ。でも10人いるはずのメンバーは11人…。

 ここまで書いていて状況のシンプルさに驚かされる。密室と謎がふたつ、人数が増えただけなのに理由がわからない、そして試験と言う緊迫感が読者の気持ちにどんどんアクセルをかける。当然宇宙らしい事件も頻発するけれど、萩尾聖都はその「宇宙らしさ」に対して(どんな空想世界においても、なのだが)とても冷静だ。さらっと交わされるメンバー達の会話は、しっかり読むと深い設定に裏打ちされているのだが、作者は設定の割りきりが確かで、必要以上に作品へ設定の細かさを持ち込まないから非常にあっさりと、彼女の描く人間模様だけに読者は引き込まれてゆくのだ。その中身をここでいうのは、あんまり粋なことじゃない。にしても悔しい!!ほんとに完成されていて、ムダがないんだもの。

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