えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

クレヨン王国はしりがき

2013年06月25日 | 読書
掃除をしたら青い鳥文庫の『クレヨン王国』シリーズがそれなりに出て来たので、
懐かしさのあまりおとな視点のあらすじや感想めいたものを順不同に殴り書き。
『クレヨン王国』シリーズの自然描写の精密さ、色彩のうつくしさ、
季節の感覚のするどさは言い尽くされていると思うのであんまり言及しない。
主な主人公の子どもの姿については、何をかいわんやだ。

・一冊め『クレヨン王国 十二妖怪の結婚式』
 :二十歳の娘さんと十歳の女の子、害虫駆除のノリで妖怪の調査を頼まれる。
  二人ともクレヨン王国の住民とはいえあんまりだ。
 :クレヨン王国の住民も人間の住む世界では文無しだという現実が突きつけられる。
  依頼主からは通信機しかもらってない。やっぱりあんまりだ。
 :結婚相談所へ潜入捜査のため金策にはげむ二十歳と十歳。
 :万策尽きたところを見かねた妖怪が百万小粋に貸してくれる。
  登場する女性で魅力的な人物は、ヒロイン除けばみんな妖怪だ。たぶん、意図的に。
 :妖怪とはいえ十六歳(自称)が結婚相談所に登録している。大丈夫か、その企業。
  法的にはセーフなところが妙に生々しい。
 :大臣たちの家主(還暦)が妖怪に狙われる。一連自然な運びであるところがこわい。
 :いろいろあって妖怪は人間界から退散。仕事を終え、せつない別れに涙ぐむ二十歳を慰める十歳。
  これでしっくりくるのだからおそろしい。

 総じて:濃厚。


・二冊め『クレヨン王国 まほうの夏』
 :クレヨン王国の事件とこっちの世界の事件が錯綜。伏線の置き方が絶妙。
 :三日以内に正しい「もの」へなれないと死ぬ生き物を拾った主人公の少年少女。
  かれを育て導く親に選ばれた時、やっぱりというか女の子は当然のようにすぐ肝が据わる。
  男の子の動揺はしかたない。読者だって動揺する方がきっと多い。
 :森と湖に囲まれた夏の合宿で親の苦悩を味わう少女。少年は年相応のトラブルと
  相応でない事件にかまけて出ずっぱり。遊んでくれるお父さんに生き物は満足。
 :少女、育児ノイローゼ気味。生き物と真剣に向き合うゆえのなやみ。少年も反省。
  でも事件も大事。生き物、成長してものわかりがよくなった。その期間はあまりに短い。
 :生き物のタイムリミットと事件の終幕が交差して掬い上げられる。
  エピローグの少女の指先から後ろ姿へ、カメラがフェードアウトしてゆくさまは映画のよう。

 総じて:青春子育てサスペンス「湖は見ていた」。


・三冊め『クレヨン王国 黒の銀行』
 :御年卒寿のおじいさんを見舞いに行く途中で拳銃強盗に荷物を奪われ山へ置き去りにされる十八歳と十五歳。
  もちろん二人とも女の子。こんなトラブルに慌てるようでは、クレヨン王国は遠い。
 :夜に溶け込むようにクレヨン王国の門が開き、二人の前には漆黒のカードが残った。
  カードに触れると銀行へ直通。便利。
 :黒の自然物ならカードの額面に応じてあらゆるものを引き出せる、
  想像力と自由な発想が求められる銀行を眺めていると、紙のお金が味気なくなるのはなぜだろう。
 :おじいさんの家に居座る強盗へ立ち向かうため、旺盛な想像力で黒をばんばん消費する二人。
  アリ五万匹で1ブラックだそうです。
 :ついには黒が足りなくなって金策ならぬ黒策に走る。黒の大盤振る舞いは豪快ですかっとする。
  黒銀行の窓口担当の的確なツッコミと大人対応がすばらしい。
 :もう拳銃「しか」持っていない強盗がかわいそうに見える。
 :ラストスパートはめまぐるしさから台風一過の涼やかな上天気。夏の早朝の爽快な気配が香る一本。

 総じて:やさしめスラップスティック。


・四冊め『クレヨン王国の花ウサギ』
 :初めて読んだクレヨン王国。小学生のころの視野を一気に染め上げてしまった。
 :小学生の女の子が、飼っているウサギに導かれておにいさんを助けにゆく物語。
  ただし女の子はかわいい暴君である。元気が一番。
 :そんな女の子へクレヨン王国は現実よりも現実的な状況を突きつけ、判断を求める。
  女の子はそれを正面から受け、決断を下しながら前へ進む。
 :空と大地と水の全てから敵視されているという厳しい舞台だが、その分、ウサギを
  心の頼りにしながらも自分で歩を進める女の子の姿がりりしく景色に映える。
 :幻想の風景の描写にすぐれた作。
  魅力的な風物に事欠かない王国の中でも、せつなさに裏打ちされた美が鮮やかな
  この世ならざる風景に込めた作者の情愛が見て取れるような文は、心にしみいる。

  総じて:不思議の国とたたかうアリス。

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