杉並生活者ネットワークが主催した「ローカルマニュフェっスト杉並版をつくろう!」に参加し、前三重県知事で現在早稲田大学大学院教授の北川正恭さんの講演「ローカルマニュフェストをつくる意義」を聞いてきました。
北川さんと言えば、改革派知事のさきがけとして有名ですが、この、北川正恭・前三重県知事、佐々木毅・学習院大教授(前東大総長)に加え、東国原英夫・宮崎県知事や松沢成文・神奈川県知事、古川康・佐賀県知事(この三人も改革派知事として有名です)などが発起人になって「地域・生活者起点で日本を洗濯(選択)する国民連合」(せんたく)を立ち上げるそうです。
新聞や、テレビで割合、大きく報道されましたので、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
北川さんは、まず最初に、現在の日本の選挙の問題点を、英国の選挙と比較しながら説明されました。
日本では、少し変わってきているとはいえ、地盤・看板・カバンなどといって、当選するために組織や知名度と共にお金が必要であるという状況は根強く残っているのではないでしょうか。
例えば、英国では候補者個人の選挙費用負担は、約130万円が上限として定められているためカバンは必要ありません。一方で、英国では政党本部が使える選挙費用に上限を設けていませんので、結果として候補者よりも政党中心の選挙戦になると言えます。
また、最近小泉チルドレンの公認の行方に注目が集まっていますが、候補者公募のしくみも大きく違います。
英国の半数近くの選挙区では、保守党・労働党のどちらかが圧倒的に強く、こうした選挙区には、閣僚メンバーが割り当てられるそうです。新人候補者は、勝つ見込みがほとんど無い選挙区から立候補することになります。ただしそこで、善戦すれば(良い政策を訴えたり演説が上手だったりすると・・)次回には有利な選挙区に回されるそうです。
日本で立候補しようと思ったら、仕事をやめなければならない場合がほとんどのため、普通のサラリーマンが立候補するには経済的裏づけがあった上でのかなりの決意を要します。しかし、英国では選挙活動は、週末にボランティアなどの地域活動に参加することから始まり、選挙期間中の活動は有給休暇をあてることになります。選挙に落選しても、これまで続けてきた仕事にすぐに復帰できる のが英国の選挙の仕組みです。
選挙戦における候補者の時間的・経済的負担が小さいため、幅広い層から有能な人物が候補者に集まります。
日本では、政・官・民の癒着や談合が後を絶ちません。
英国では、国会議員は官僚と接見することが禁止されています。官僚の任務は、所属省庁の大臣に奉仕することであり、政治家や政党へ奉仕することは認められていません。このことによって英国では官僚の政治的中立性が維持されています。
日本では、初の政権交代が実現するのかということが話題になっています。戦後自民党がほぼ政権を維持してきた、この状況を北川さんは、社会主義であると表現します。
こうした長期政権の背景には、政権政党が政府機関を活用し政策を立案できることによる圧倒的有利な状況があります。
英国では、マニュフェストによる政策中心の選挙にするために、野党の政策立案機能を高めることが必要で、そのために政党助成金は野党にのみ配分されています。
これによって、政策分析や政策立案を行い、政権可能なしくみを担保しています。
これは、国会での英国と日本との比較ですが、こうした英国の選挙のしくみをみていると日本の選挙の問題が見えてきます。
現在の政治が、政策論争ではなく、人気投票の要素が強いのは、私たち市民の意識の問題と共に、選挙のしくみによって作られている部分もあることがわかります。
戦後の日本の政治家は、Tax Eater(*税金をもらい利益を得る人たち:団体や組織など/奈須の注釈)に約束してきた。それが、癒着であり、談合。右肩上がりの経済成長時にはそれでも成り立っていたが、これからは、Tax Payer(納税者=生活者)に対し約束をし、説明責任を果たしていかなければならない。 と北川さんは話されます。
今年の初めに書いたブログでもお話ししましたが、最近、政治の場面で生活者ということばをよく耳にするようになりました。
これまでの政治が、いかに生活者の方を向いて行われてこなかったか、という事でもあります。
団体や組織などに約束をする国会議員を真似て、地方議員が同じ選挙を行い、政治活動をすれば、そこに生活者は存在しません。
私たちのくらしに最も身近な地方議員は、生活者に対して約束をしていかなければならないのです。
だからこそ、今、地方政治家が、生活者にたいし、政治家が、何を、いつまでに、どこまで行うかを約束する「マニュフェスト」で選挙を行わなければならないのです。
そのためには、地方政府(区市町村)は変わらなければなりません。
議会と首長という二元代表制のそれぞれの機関は対等でなければならず、議論をして政策を決めていかなければこの国の民主主義はありえないと北川さんは言われます。
行政の追認機関である議会は必要無い。透明性を確保し、議会のチェック機能を高め、立法権(つまり、行政がなすべきことを決める条例=地方政府の法)を行使しなければ議会は仕事をしていることにはならない。と北川さんは指摘します。
また、地方政府が政策選択し実現可能にするためには、更に分権が必要です。
そして、何よりも、こうした状況を作るためには、国民が変わらなければならないと北川さんは主張します。
生活者ネットワークは、政党が「生活者」という言葉を使う何十年も前の1970年代初期に生活者を議会に送り、議会に生活者の声を届けようスタートした国会議員を持たない、地域の政治グループです。
私自身、議会内では勿論のこと、様々な機会あるごとに、現状の議会や行政の透明性や説明責任の不十分さを指摘し、改善するようもとめてきました。
残念ながら、日本の一部の先進的な学者やオピニオンリーダーは、日本の現状とその問題に気づき、活動を始めていますが、肝心の議会や行政にまで、その波は届いていません。
北川さんが良く使われる「北京の蝶々」の話に期待をし、ハリケーン前夜であることを信じて頑張りたいと思います。
◆北京の蝶々
カオス理論において、初期条件のわずかな差が時間とともに拡大し、結果に大きな違いをもたらすことを「バタフライ効果」と呼ぶ。「北京で一羽の蝶々がはばたくと、ニューヨークでハリケーンが生じる」とたとえられる。ミクロの“ゆらぎ”がマクロを制すという考え方の象徴的な例。