令和4年12月27日
品種の知財管理 種苗法知り流出防ごう
農産物のブランド品種が海外へ流出し、無断で栽培・販売される例が後を絶たない。
先月、長野県育成の高級ブドウ「ナガノパープル」の枝が無許可で販売されたが、県知的財産管理部の早期発見と対応で流出を防いだ。
違反行為に加担しないよう種苗法を知り、ストップをかけよう。
長野県の事案では、県外の2人が枝を穂木としてオンライン販売した疑い。
種苗法違反(育成者権侵害)の容疑で書類送検された。同県で同法違反の摘発は初めて。
2008年に「信州農産物知的財産活性化戦略」を策定し、09年に県農業試験場に専門部署を設置。
早期発見は日頃の知財保護業務の成果だ。県警に相談し、海外流出を防いだ。
農水省はブドウ「シャインマスカット」の中国への無断流出で、
品種育成者が得られるはずの許諾料に換算して年間100億円以上の損失が発生していると試算した。
改めて種苗法の禁止事項や罰則規定を確認したい。
21年4月以降の改正種苗法の主な変更点は、
①「登録品種の国外への持ち出し制限」を明記
②21年4月以降の出願品種は育成者権者が栽培地を指定できる(法で規制できる)
③登録品種の自家増殖には原則、育成者権者の許諾が必要──という点だ。
禁止事項は育成者権者や品種によって違う。
例えば「ナガノパープル」は育成者権者の長野県が「営農目的での自家増殖」は認めていて日本国内では栽培できるが、
「営利目的での種苗の生産、販売」は禁止。
県の許諾を受けた2社しか苗木を販売できない。
今回の事案は、苗木は正規ルートでの購入だが、自家増殖による無許可販売だったため違反に。
一方、同県育成の高級ブドウ「クイーンルージュ」(品種名「長果G11」)は県内でしか栽培できず、営農目的でも自家増殖は禁止。
種苗購入は事前契約を締結した契約者に限り、県内での栽培本数を徹底管理している。
しかし、他県では「事前契約制度」があっても海外へ流出した事例がある。
まず農家やJA、自治体の関係者が種苗法を理解した上で何が違反となり、
どうしたら流出を防げるかを知ることが必要だ。
特に人の出入りが多い観光農園は警戒したい。
「無断で種苗をあげない、売らない」「剪定(せんてい)枝は粉砕や焼却など適切に処理」の他、直売所は表示義務のある「登録品種であること」を明記しよう。
「“一流の泥棒”は果実ではなく枝を盗む」(同部)ため盗難対策も重要だ。
長野県は年10回ほどの種苗法説明会と指導、ネット検索での注視、直売所定期巡回、海外での品種登録出願──と知的財産保護を総合的に進める。
育成者権の侵害に関心を持ち農業界全体で守ろう。