ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「地球へ」 昼{恵子

2007-10-12 12:37:17 | 
私には故郷がない。

一族は日暮里周辺に住んでいたが、関東大震災で散り散りになり、第二次世界大戦でさらに別れた。それでも数軒残っていたが、バブル最盛期に立ち退きに遭い、今では親族は誰一人住んでいない。

数年前、相続の仕事で日暮里の不動産の評価に現地調査をしたことがある。その際、かつて親戚が住んでいた辺りを見て回ったが、あまりの変わりように驚いた。かすかに記憶の底をかき回すと、懐かしい匂いを感じ取れたが、本当に微かなものであった。

強いて言えば、祖父母の家が田舎といいたいが、周囲に知人はなく、どうもピンとこない。今は母が住んでいるので、実家だとは認識しているが、故郷とは違うと思う。

故郷知らずの私だが、それでも故郷に帰ったような感慨を抱くことがある。地方から夜に電車で帰京する時がそれだ。大概が、山登りから帰りの電車であった。

信州から中央線で帰京する時が、一番印象が深い。甲府盆地を抜けて山間のトンネルをいくつも潜り、高尾山を越えたあたりから、関東平野の夜景が目に飛び込んでくる。今までの薄暗い夜景から一転して、人家の明かりが無数に瞬き、繁華街のネオンが猥雑だ。

嗚呼、東京に帰ってきたのだと実感する瞬間だった。立川、吉祥寺あたりまでくると夜景のネオンが煩いほどだ。やがて、新宿の高層ビル街が見えてくると、まさに東京そのものだ。新宿駅を降りれば、あっという間に雑踏に巻き込まれてしまう。この人ごみこそが、東京を実感させる。

電車を乗り継ぎ雑踏を抜け出し帰宅すると、開放感に包まれ、心地よい疲れが眠気を誘う。これが、故郷に帰る安堵感なのだろうか。故郷がない私の場合、これが一番近い感傷だと思う。

表題の漫画は、少女漫画家の昼{恵子が、はじめて少年向けに描いた漫画だと思う。新たに発刊された漫画雑誌の看板漫画の一つであった。私にはどうしても「風と木の歌」という衝撃作の印象が強く、少々敬遠していた漫画家であったが、この漫画は素直に受け入れられた。SFと超能力をうまく絡め、主人公とライバルの成長を上手く描いたと思う。

多分、人間は遠くへ行くほど、故郷への想いを熱く、深く募らせるのだろうと思う。遠く銀河の果てに赴いたのなら、その思いはさぞや濃厚にならざる得ないのだろう。

ただ、私は生涯東京から離れることはないと思う。嫌なことも多い街だが、ここを離れて暮らす自分が想像できない。多分、生涯故郷を持たずに生きていくのだと思う。
コメント (6)
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