ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

3月のライオン 羽海野チカ

2011-08-08 13:57:00 | 

あまりに身近すぎて、受け入れがたいこともある。

当初は同じ作者の「ハチミツとクローバー」を取り上げるつもりだった。だけどイケナイ。あんな表紙絵を見てしまったら、こちらを取り上げずにはいられなくなった。

大学卒業後、私がやられた難病は、実のところ子供の患者のほうが多い。多いと言っても患者数自体はそれほど多くない。ただ、小学校入学前後に発病することが多いので、わりと知名度は高い。

もっとも子供たちの場合だと7割がたは治ってしまう。逆に20過ぎて発病した場合は、7割がたが治らない。大人になればなるほど治りにくい難病なのだ。

子供なら7割は治るというが、では残り3割はどうなる?

私は幾人かに実際会ったことがある。同じ難病患者が集まるHPの掲示板で掲示されたオフ会でのことだ。周囲にまったく同じ難病患者がいなかった私は、憑かれたようにそのオフ会には何度も参加した。

どんなに理を尽くして説明しても、どんなに親しい友人にも分ってもらえない苦しみが、ここでならあっという間に理解し合えた。おかげで私はどれだけ救われたことか。最近はご無沙汰だが、幹事も何回かやっている。

だから、すぐに気がついた。幼少時から難病を抱えて大人になった人たちが、繊細で傷つきやすい心と、頑なで強固な意志の持ち主になりやすいことに。

表題の漫画のなかで、主人公のライバルとして登場する少年も、間違いなくこの同じ難病だと思う。実在のモデルがいることも分る。多分、羽生名人のライバルといわれた人だろう。

作者の画力が、見事にそのキャラクター造形に成功している。よくぞ、ここまで理解できたと思う。その理解力に敬意を表したいぐらいだ。もちろん、物足りない部分はあるが、それは主観の問題であり、程度の問題でもあるので十分許容範囲だ。

ただ、それでも読むのが辛い。嫌になるくらい辛い。客観的にみて、他の病気と比べても、肉体的苦痛は少ないと思う。でも、あの吐き気を催すような倦怠感は苦しい。心を蝕むような独特の倦怠感には、私も散々苦しめられた。

そして、病み衰えた自分を周囲の健康な者たちと比べてしまう苦しみが辛い。内面の苦しみに過ぎないのだが、答えが見つからぬ苦悩であるがゆえに、尽きることのない。だからこそ辛かった。

だからこそ、将棋の世界に埋没せんとばかりに意気込む主人公のライバルの気持ちが良く分る。苦しいぐらいに、分りすぎてしまう。

考えてみれば、私が税理士の受験勉強に打ち込んでいたときもそうだった。勉強に集中しているときだけ、病気の苦悩から逃れることが出来た。

模試なんて、所詮勉強の途中経過の表示に過ぎないと思っても、そこで好成績を挙げると、自分が健康な人たちに負けていないと安心できた。

それなのに、冷静に自分を考えると、難病はなにも変わっていないことに気がつかざる得ない。苦悩は永遠に続く。

主人公よりも、脇役のほうに傾倒する自分もどうかと思うが、こればっかりは仕方ない。

なお、表題の漫画は隔週発売のヤング・アニマルに連載されています。名作の予感が漂う作品なので、機会がありましたら是非どうぞ。

コメント (2)
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