ヌマンタの書斎

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プロレスってさ 天龍源一郎

2013-03-06 16:06:00 | スポーツ

煮え切らない怪物、それが故・ジャンボ鶴田であった。

日本人離れした長身だけでなく、バランスのとれた頑健な体格、怪物じみたスタミナと優れた運動神経。その才能は、おそらくは日本人プロレスラー随一であったと思われる。

ただし、その実力をプロレスのリングの上で100%発揮したことはなかった。その事は引退後、鶴田自身がインタビューで明言しているが、そんなことはプロレスファンなら皆が知っていた。

手抜きとは言わない。根は真面目な鶴田は、それなりにプロレスのファイトを演じていた。だが、本当に実力があったがゆえに、本気を出すことを控えていた。真面目なだけに、その演技は完璧とは程遠くて、それゆえに手加減していることが観客にばれてしまっていた。

もちろん、そのことを痛感していたのは対戦したプロレスラーたちだろう。ジャンボのぬるい試合ぶりに苛立ち、その本気を引き出そうとした選手もいた。新日を離脱して全日に乗り込んだ長州力もその一人だ。

韓国籍の長州は、オリンピックの韓国レスリング代表としての実績を持つ実力派だ。それだけに、同じオリンピック代表(日本)であった鶴田には猛烈なライバル意識を燃やしていたのだろう。

闘志を燃やしていきり立つ長州とは裏腹に、淡々とリングの中央に構える鶴田は、なんでそんなにむきになるの?と言わんばかりの醒めた態度。実力派として定評あった長州ではあるが、率直に言って鶴田の牙城を崩すことは出来なかった。

その光景を見て、密かに闘志を燃やしていたのが、鶴田の下で永遠のナンバー3(もちろんトップはジャイアント馬場)のポジションに甘んじていた天龍源一郎であった。

同門対決であり、当初渋っていた馬場も鶴田との対戦を望む天龍の熱い闘志を抑えることが出来なかった。そして、天龍こそがジャンボ鶴田の本気の一端を引き出した唯一の日本人レスラーとなった。

角界出身の天龍は、その打たれ強い頑健な身体で鶴田を追い詰めた。追い詰められて初めて鶴田は、本気の技を出した。それがアマレス仕込みの本格的なバックドロップであった。

試合を観ていた観客が、思わず悲鳴を挙げたくなるほどの高角度、高スピードのバックドロップで、天龍をマットに叩きつけた。朦朧としながらも天龍が立ち上がった時には、それだけで観客席から拍手が沸いたほどだ。

結果的には、天龍は鶴田に勝てなかった。それどころか、首に大きな怪我を負ってしまったほどだ。だが、プロレスファンは、鶴田の本気を引き出した天龍の心意気を忘れはしなかった。鶴田自身は、天龍に怪我を負わせたことを負い目に思っていたようだが、この試合以降あからさまな手抜き試合をしなくなったのも事実だ。

なお、この試合の後、何度か二人は戦っているが、最後に天龍が勝って三冠王者となったのは、プロレス的展開であったと思っている。私個人は天龍が鶴田に勝った試合よりも、鶴田の本気を引き出して負けた試合の方を高く評価している。

煮え切らない怪物、ジャンボ鶴田は、その後観客を沸かせる試合をすることを強く意識するようになったと思う。ただし、相手選手を怪我させるような技を駆使することは、今まで以上に控えるようになった。その代わりに、観客の雰囲気を読んで、相手の技を今までより受け、そのうえで見栄えのする技で勝つように心がけるようになった。

全日の若大将と言われたジャンボ鶴田は、今や人気では天龍に差を付けられていたことを自覚せざるを得なかったのだろう。結果、鶴田の試合ぶりは、以前よりも盛り上がるようになったのだから、天龍の功績は大きいと思う。

決して全力を出さないジャンボ鶴田の本気を引き出した天龍は、あの試合に負けても勝負に勝ったと私は信じています。

コメント
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