ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

9月が永遠に続けば 沼田まほかる

2013-03-19 11:53:00 | 

人の心は永遠ならず。

昨日まで愛おしいと恋い焦がれたものが、今日になってたった一つの出来事で、見知らぬ他人への冷淡さに変わる。世の中で人の心の移ろいやすさほど不可解で、不可思議なものはあるまい。

私自身、何度となく戸惑い、悩み、苦しみ、そして悲しんだ。なにより自分で自分の心持が分からない。なぜ急に怒りが込み上げたのか、その原因さえも分からずに戸惑いながら怒声を上げたこともある。

自分で自分が分からない以上、他人のことなど分かるはずもない。そんな割り切りで納得できるはずもなく、今も理由を訊けずにいる悩みを抱えている。心ほど不可思議なものはない、そう確信している。

表題のミステリーは、犯罪が主眼ではない。一人息子が深夜にゴミ捨てに行き、そのまま帰ってこない。サンダル履きで、財布さえ持たず、着の身着のままでの失踪は、母親の心を打ちのめす。

警察は当てにならず、数少ない手がかりを探って、一人探す過程で知った、自分の知らない息子の姿。別れた夫とその連れ子と息子が逢っていたことを知った時の驚きと、別れた夫の見てはならぬ姿に、母親は自らの心境の変化に驚き戸惑う。

サイコ・ミステリーと言いたいところだが、実のところ犯罪としての影は薄く、むしろ登場人物たちの心理面こそが恐ろしい。犯罪そのものよりも、人の心が織りなす暗い絹の羽織が、一枚一枚解かれていることにより見えてきた真相が浮「。

妙な感想だが、私はこの作品の主要な登場人物を誰一人として好きになれなかった。むしろ嫌悪感が募ったくらいだが、それでも最後まで読み切れたのは、事の真相を知りたいという思いがあってこそだった。

真相を知ったことによる満足感こそあるが、爽快感には乏しい。でも、これが現実なのだとも思っている。事件が解決したからといって、それが必ずしも幸せなことだとは限らない。

この作品はやはりミステリーというより、人の心を描いた作品だと考えるべきだろう。その点は見事だと思う。ただし、ミステリー小説の特徴である事件解決の爽快感に乏しい。そこが欠点だと思うが、深い人物考察あってこそ書かれた作品だとも思う。その意味では作者に敬意を表したいな。

コメント (2)
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