ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

幻の女 ウィリアム・アイリッシュ

2013-03-25 12:56:00 | 

無実の罪で死刑台に追いやられるのは勘弁だ。

だが無実を証明できるのは、あの日、あの時、一緒にオペラを観劇した名も知らぬ初対面の女性一人。互いに無為のひと時を潰すためだけに同席しただけ。互いのプライバシーを尊重し合って、名乗り合うことさえ避けた都会のすれ違い。

でも、間違いなくあの日、あの時を一緒に過ごした。そのひと時だけが、私の無罪を証明してくれる。それなのに、誰一人、その女性を見かけた人がいないなんて信じられない。

知り合った酒場のカウンターのバーテンダーは私が一人だった(当初はそうだった)と証言し、レストランの給仕は、やはり私は一人だったと証言した。いや、あの時彼女はトイレに先に行っただけで、後から同席したはずなのだ。なのに、誰もそれを見てないと言う。

そして遅れて入場したオペラハウスの入口の切符係りも、案内係りも私は一人だったの証言する。そんな馬鹿な! たしかに彼女は私のすぐ後ろに居たんだ。ただ、歩くのが遅かっただけだ。

困ったことに、私はあの時妻との離婚話のこじれで、頭がいっぱいで彼女の顔さえ覚えていない。でも、あんな印象的な奇抜な帽子を忘れるはずがない。誰だって気が付かないはずがない。それなのに皆、私は一人でそんな女はいなかったと証言する。

帰宅した私を囲んだ刑事たちが見せてくれたのは、絞殺された妻の遺体であり、妻の首には私がその日締めるはずのネクタイがきつく結ばれていた。

そして陪審員たちは私を有罪だと断じて、裁判長は死刑を命じた。

独房で孤独に死を待ち受ける私の元へ学生時代の親友が、遠く南米から駆けつけてくれた。私の無実を信じ、その女を探してくれると言う。ありがたきは友の存在だ。

しかし、その友人も相次ぐ謎に苦労する。証言者はつぎつぎと死に、女はみつからず、謎は深まるばかり。

だが死刑直前、その女と思しき人物が遂に接触してきた。後数時間の寿命の死刑囚たる私の運命や如何に。

表題の作品は、もはや古典といって良いものですが、その内容は今読んでも新鮮で、鮮烈で、最後のどんでん返しには驚かされるばかり。どちらかといえば、忘れ去られた名作ではありますが、今読んでも十分楽しめること請け合いの傑作。

もし目に留まることがありましたら、是非ご一読を。

コメント (2)
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