ヌマンタの書斎

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プロレスってさ トニー・アトラス

2013-05-09 14:34:00 | スポーツ

強くなりたかったら筋肉をつけるべきだ。

そんなの当たり前ではないかと思われるかもしれないが、私が子供の頃は未知の考えであった。そもそも筋肉トレーニング自体、その発想は学校では十分取り入れられているとは言い難かった。

もっとも野球などのスポーツ強豪校では、当時筋力増加のためのトレーニング機器導入が進んでおり、予算の少ない公立学校育ちの私が無縁であったに過ぎないようだ。

ただ、プロスポーツの世界でさえ、無理につけた筋肉はむしろ邪魔だとの思い込みがあったのも事実だ。これは当時、筋肉増強といえばボディビルを意味しており、見栄えの良い筋肉を見せつけるムキムキマン的なイメージが先行していたせいだろう。

現実問題、ボディビルで鍛え上げた筋肉は見栄えはするが、動きがぎこちなく実戦的ではないと思われていた。一応書いておくと、筋肉トレーニングは日進月歩で進歩しており、格闘技向けの筋肉や、野球向け、サッカー向けなど実用的な筋トレが現在では行われている。

ただ、私が十代の頃は、まだその域に達した進歩した筋肉トレーニングは、それほど普及していなかった。だから単なる筋肉ムキムキ男は喧嘩は弱いとさえ思われていた。これは意外にもプロレスの世界でも一部あったようで、新日本プロレスに大きな影響を与えたプロレスの神様(日本限定ですが)と云われたカール・ゴッチなどは器具を用いたトレーニングを拒否していた。

拒否の理由は、やはり筋肉の柔軟性を失わせるからで、ゴリラは筋トレはしなくても自然の動きのなかで筋力を強くすると弟子たちを説教していた。ただ、プロレスでは客を引き付ける見栄えのする筋肉も大切との考えが強く、ゴッチの教えを冷笑して筋トレに励むプロレスラーのほうが多かった。

日本以上に外見の見栄えを重視するアメリカでは、筋トレは必須であり、それどころかステロイド剤を使って筋肉増強を図る選手が後を断たなかったのが実情だ。私のお気に入りであったイギリスのダイナマイト・キッドは実力はあったが小柄なので、アメリカのリングで稼ぐためステロイドを服用して筋肉を異常に膨らまして活躍していた。

しかし、ステロイド剤の副作用は強烈で、キッドは50前に車椅子生活となって引退に追い込まれた。薬で筋肉増強なんかしなくても十分に強かったはずだが、アメリカのリングで稼ぐためには必要であったようだ。ただ、その見返りが車椅子生活であるのは、いささかひど過ぎると思う。

もっとも、さして強くないのにステロイドを大量に摂取して、異常に筋肉を膨らませてリングに上がったプロレスラーも少なくなかった。そんな典型的なレスラーがアメリカのトニー・アトラスであった。

写真を見てもらえば分かるが、異様なほどの筋肉であった。その剛腕をもってヘビー級のプロレスラーを頭上に高く抱えあげて投げつける。投げられたプロレスラーは、その衝撃でマットの上でバウンドするのだから凄まじい。

でも見せ場はそれだけ。後はマットの上で唐黷スままの対戦相手を見下ろしながら、両腕に力こぶを作って見せて観客にアピールするだけ。ただ、それだけのレスラーだった。

来日したのが新日本プロレスであったので、ハイスピードな技の攻防に付いていけず、止む無く対戦相手は彼の見せ場を作ってあげて、そこで毎度お決まりのポーズをとるだけ。私には単なる筋肉馬鹿にしかみえなかった。

私は早晩彼はプロレス界から姿を消すと思っていた。あまりに芸がなさすぎるからだ。

ところが彼は簡単に消えたりしなかった。トニー・アトラスは当時アメリカのボディビル界では有名人で、ボディビルの全米チャンピオンを3回もとっている。つまり凄まじく努力を重ねた人だった。

格闘技の経験など、ないに等しい素人だったが、決して馬鹿ではなかった。おそらくステロイド剤も大量に摂っていたようだが、ヴィタミン剤などもバランスよくとっていたらしく、晩年になってもその異常な筋肉が萎むことはなかった。断言しますが、ステロイド剤で廃人同様になったプロレスラーが少なくないことを思えば、これは相当な努力と研鑽の賜物としか言いようがない。

一時、薬剤中毒になってプロレス界から身を引いたが、家族の助けを得て復活した。その際にはエスニック色(アフリカ系黒人)を強く打ち出したギミック・レスラーに変貌していた。

ケーブルTVを中心にエンターテイメント色を強く打ち出したニュー・アメリカンプロレスに見事に適応してみせた。彼を単なる筋肉馬鹿だと軽んじていた私の判断は大間違いでした。たいしたものだと思いますよ。

コメント
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