ヌマンタの書斎

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NISAに思うこと

2014-03-04 12:41:00 | 経済・金融・税制

通称NISAとは、少額投資非課税制度のことである。

おそらく銀行や証券会社から営業を受けた覚えのある人もいるだろうし、TVで「あたしも今日から投資家デビュー~!」などとの軽薄なCMを見たことがある人もいるだろうと思う。

簡単に云えば、毎年100万円までの限度額内での上場株式、投資信託にかかる税金が非課税となる制度であり、5年間でトータル500万円まで利用できる制度である。

そう悪い制度には思えないが、毎年100万というのがいささか少額に過ぎると思っていた。ところが、この時期、個人のクライアントを訪問して確定申告の準備に入るのだが、意外なほどこのNISAに対する評価が低いことに驚かされた。

まず日頃から株式投資をやっている方々は、何を嫌ったかと云えば、損失の通算と繰越が出来ないことである。これはNISA口座内で購入した株式等の売却益は確かに非課税となるが、一方売却損を出した場合には、通算が出来ないことだ。

株式売買を繰り返す投資家にとって、株の売却損益の通算は当然であり、利益のみに特典を付けたNISAには納得がいかないようだ。これなら従来の特定口座の方がマシという。まァ、無理もない判断だ。

株式市場というものは、常に値上がりと値下がりを繰り返すもので、値上がり益もあれば、値下がりによる損もある。それを承知でやるのが株式投資である以上、その損益を通算できないNISAは、投資家の本能に反する制度であるようだ。

一方、私はまるで関心がなかったのだが、投資家から意外に評価が高かったのが個人向け国債というやつである。元本保証であり、銀行の定期預金よりも利率は高い。なお、デフォルトの可能性を危惧する意見を散見するが、日本政府がデフォルトを宣言するような危機的状況では、ほとんどの金融資産は安全とはいえないので、あまり一般向けの警告ではないと思う。

少し話題が飛ぶが、ここ数年投資家や資産家の間に密やかに危惧されているのが、日本政府というか財務省が個人の金融資産の情報を欲しがる傾向が強まっていることだ。

今回のNISAもそうだし、少し前からの特定口座による株式取引もその一環だと思われる。実を言えば、政府が個人の財産の所在と多寡を知りたがるのは昨日今日の話ではない。

戦前はいざ知らず、戦後の日本の経済復興には、少なからずダークなお金が使われている。与太話に過ぎないM資金はともかく、某右翼の大物が持ち込んだとされる満州での麻薬資金を初め胡散臭い話は数知れずではあるが、実際に得体の知れぬ資金が使われてきたのも事実である。

大蔵省は眉をひそめていたらしいが、政府は綺麗なお金も汚いお金も、金であることに変わりは無しとして、曖昧なままにしておいた。だからこそ、数多くの匿名預金、仮名預金などが実在していた。

この裏金を把握しようと大蔵省などは、何度となく規制をかけようとしたが、なかなか上手くいかなかった。なかでも証券市場は、得体の知れぬ資金が蠢く魑魅魍魎の世界であり、その売買益でさえ非課税がまかり通ったりしている有様であった。

結局、これらの裏金はバブル崩壊により既存の金融機関の再編成がされた後、ようやく新しい投資に限って匿名や仮名を使えなくさせることが出来たのが実際である。いいかえれば、資金の出所が分からない状態を望んだ人々が、如何に多かったかでもある。

実際、私自身仕事の中で、なぜにこれほどの資金が過去にあったのか不思議に思うことはある。多くの場合、皆そのことを秘密にしたがるので分からないままである。おかげで某脱税事件で、税務署側の主張に十分な反論が出来ずに負けたこともある。

資金の出所を言わないと、多額の税金を納めることになると説明したが、結局最後まで言わずじまいであった。後年になって、その資金がいわゆる裏金であり、他にも共同の出資者がいたがゆえに口外できなかったことを遺族から教えられたが、もう後の祭りである。

ところで裏金を悪いものだと思い込んでいる人は少なくないが、私は少し疑問に思っている。たとえばイタリアという国がある。表向きの経済数値の指標をみると、先進国とは名ばかりの劣悪な経済状態に見えてしまう。

しかし、実際にイタリアにいってみれば、実は案外と豊かな暮らしをしていることに気が付かざるを得ない。これは政府が把握していない、いわゆる裏経済があり、そちらの稼ぎで生活を賄っているからであり、政府は貧乏でも、国民はそれなりに豊かな暮らしを営んでいる。これって悪いことなのだろうか、私は明確に答えを持っていない。

実際、日本の高度成長時代は今以上に裏金が飛び交っていた。あまり大きな声では言えないが、裏金が飛び交うほうが商取引は上手くいく。倫理的にはどうかと思うが、比較的役人の不法行為(贈収賄とか不公正取引)が少ない日本政府だが、それでも政府に金のことを任せておけば絶対大丈夫だと確信している人は、あまりいないのではないか。

日本政府が裏金を取り締まり、それを根絶しようとするのは行政府の本能のようなものだ。だが、あまりにやり過ぎると資金は海外に逃げる。今後の日本は、国外からの投資が大きな役割を果たす社会となるはずなので、あまりに厳密すぎる金融行政は、むしろ逆効果になるように思えてしまいます。

これは長年の経験に基づく私の独断と偏見ですが、政府には可能な限り個人の金融及び経済情報は与えないほうがいい。計画経済ならいざ知らず、自由市場を基本とした資本主義にはそぐわないと思うのです。

コメント (3)
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