ほとんど財産らしき財産を持たない私だが、今使っている事務所の住所と電話番号は財産だと思っている。
特に電話番号は重要だ。先代のS所長がほぼ40年、私が9年使い続けているだけに、昔の顧客からの連絡がつながるのが強みだ。このおかげで、相続や譲渡といった資産税がらみの仕事が毎年あるので、実にありがたい財産である。
でも、稀に困ることもある。
先週のことだが、事務所に故S先生の安否を尋ねる電話があった。声の感じからして、40台から60台くらいの中高年女性に思われた。既に亡くなっていることを伝えるのだが、信じてくれない。
なんでも過日、S先生から電話があったのだが、留守電だったので気になって電話してきたのだと言う。オカルト話かよと思ったが、当の女性は怖がっているのではなく、戸惑っているように感じた。
話しているうちに、たしかにうちの事務所の昔の顧客の名前が出るところから、仕事上の関わりがあった女性なのだろうと推測できた。ただ、電話で十年前だといっていたが、その頃は既にS先生は半引退状態で、事実上私が事務所を仕切っていた。
その私が知らないのだから、十年前というのは間違いだろう。私がS先生の下で働き出したのは平成6年からだ。その私が見知らぬ人が、うちの事務所の仕事に関わっていたという。妙には思ったが、S先生は経理の出来る女性を数人、外注の派遣社員のような形で使っていたから、その一人なのだろう。
とりあえず、その話は適当に切り上げたのだが、困ったことにその後も数回、その女性からの問い合わせが続いた。どうしても、S先生が死んだとは信じられないと言ってくる。電話を受けたスタッフも困っていた。
ちなみにそのスタッフも、ほぼ私と同年数S先生の下で働いていたのだが、その電話の女性は記憶にないという。妙な電話だと思いつつ、もしかしたら仕事を斡旋して欲しいのかと勘繰った。
そこで、今でも仕事、出来ますかと尋ねたら、その女性が衝撃の一言「あら、嫌だ。私はもう85ですよ、仕事なんて無理、無理~♪」
おいおい、85才だったのかいな。
声に艶があり、若々しかったのけど、多分中年だろうとは思っていたが、まさか85だとは思わなかった。ってことは、ボケが入っているのではないかと気が付いた。
なんか、どっと疲れた気がした。最後にしようと思って、S先生を騙る電話だと思うので、警察に相談してくださいと伝えて、話を終わらせた。
電話の声で年齢を推測することは難しいとつくづく痛感しました。でも、あれほど若々しい声の80代の方は、初めてでしたね。