ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「麻雀放浪記」 阿佐田哲也

2007-01-04 11:53:19 | 
無頼な生き方に憧れたことがある。

でも実際にやってみると、相当に辛いと思う。なにより安心して寝る場所がないのが一番辛いと思う。

学生の頃、時折貧乏旅行をやっていた。大概が北海道や九州・四国などの遠方の山に遠征した帰りにやっていた。貧乏旅行のこつは、宿に泊まらないことだ。

一番、良く寝たのは駅の待合室。でもたまに追い出されることがある。そんな時は神社の境内の下や、公園の屋根つきの水飲み場の脇などで寝ていた。屋根つきに拘るのは、やはり雨に濡れるのが辛いからだ。さりとて、橋の下は湿気が多くていけない。地面に直に寝るのもつらい。朝、起きたら夜露でビッショリになる。だから雑誌や新聞を置いてコンクリの上で眠る。ダンボールを敷くのも可。

しかし、堅いコンクリの上で寝続けるのは、想像以上に身体に疲れが溜まる。そんな時は、銭湯に行く。浮浪者に間違われないためにも、2日に一度は入浴して、小奇麗にしておく。そうでないと、観光地巡りがしずらくなるし、なにより飲食店に入れなくなる。

だいたい一万円あれば、一週間は旅行が出来る。ほとんどが食費に消える。食い盛りだから、こればかりは致し方ない。

ただ、どうしても宿に泊まらざる得ないこともあった。山口組と一和会が抗争中の神戸がそうだった。警官から、皆気が立っているから、危ないので宿に泊まるよう説得され、止む無くビジネス・ホテルに泊まった。神戸はコーヒーとケーキの美味しい街で、どうしても観光したかったので、素通りする気にはなれなかった。

安いだけに、ちょっと古いホテルだったが、ゆっくり大浴場につかり、久々の布団で寝れると喜んでいた。ふと気になって、すりガラスの窓を開けると隣のビルの一室が覗けた。日の丸の旗が飾られ、日本刀が置いてある・・・やくざの事務所だった。その隣りの窓からは、上半身裸で、刺青をみせびらかす若い衆たちが麻雀をやっている風景が覗けた。はて、なんのために宿に泊まったんだか・・・

表題の作品の作者は、無頼作家の代表的存在だと思う。決して堅気の人間にはない、野生動物のような気配をもった人だった。麻雀に興味がなくとも、この人の生き方は知っておいて損はないと思う。

20代の働き盛りに、病気療養で親の扶養になり、情けない人生を送っていた私に、人間どんな生き方をしても良いのだと教えてくれた本でした。当時の私には、とてもありがたい励ましでしたね。
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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (しんまこ)
2007-01-04 12:47:49
ヌマンタさんの『寝袋放浪記』も楽しみにしていまーす。
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Unknown (jin rock)
2007-01-04 15:14:59
作者は 色川武大の名前で純文学を 阿佐田哲也の名前でギャンブル小説を 井上志摩夫の名前で 時代小説を書いてますね 朝だ!徹夜だ!といったのが はじまりだとか

私は コンビニ勤務してた頃 家に帰らずに 倉庫に 段ボール紙を しいて寝てました    
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Unknown (えみ)
2007-01-05 01:21:21
映画化されましたよね、「真田広之」が主演で。
好きな役者さんなので、
観たいなと思っていましたが、結局観ずじまいでした。

堅気じゃない世界、
男性は一度は憧れたりするものなのでしょうか。^^

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Unknown (ヌマンタ)
2007-01-05 13:42:27
しんまこさん、こんにちは。おや、寝袋使用だとご存知でしたか。まあ、貧乏旅行にはそらなりのエピソードもありますので、おいおい書いてみようと思います。
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Unknown (ヌマンタ)
2007-01-05 13:57:41
jin rockさん、こんにちは。壮絶な人生を歩んだ方だけに、麻雀、時代、純文学と幅広く力量を発揮されたと思います。私が感服している文人です。

お、段ボールのベットの経験者でしたか(ニヤ!)あれ、本当に暖かいもので、私も随分助かりました。
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Unknown (ヌマンタ)
2007-01-05 14:00:32
えみさん、こんにちは。映画、覚えています。ちょっと主人公がかっこ良過ぎかも・・・阿佐田氏ご本人は、もっと野性的というか、獣臭ささえ漂うコワイ人でした。

無頼な生き方は、男だったら一度は憧れるものかもしれません。それを実践するかどうかは別にして。
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Unknown (タク)
2007-01-05 18:04:54
しんまこさんと同じく私もヌマンタさんの放浪記、次
号を期待!です。
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Unknown (ヌマンタ)
2007-01-06 17:30:37
タクさん、こんにちは。実は一人旅は、あまり好きではありません。だから放浪旅の経験は、案外少ないのです。ただ趣味の絵画鑑賞は、絶対一人がいいので、ヨーロッパへは一人旅が多いです。さすがに向こうでは、野宿はしませんが・・・
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Unknown (アブダビ)
2014-07-18 20:12:36
うわっ! 懐かしい。また読みたくなってしまいました。次の休日は古本屋で探そうっと!
本当に面白いピカレスクでした。
しかし、若い頃の無謀貧乏旅行は、楽しいですね。他人事で話を聞く分にはですかを。
自分のこととなると…懐かしいけど、二度とやりたくないです。だって空腹で12時間も荷台で揺られたり、脱水に泥棒に野犬の襲撃…とロクな想い出がなあですから。
ヌマンタさんの話を読むと楽しそうですが、御自身も今やれ!言われたらゴメンじゃないでしょうか?仮に若さと体力が戻っても?
そういう体験を懐かしむってのは、人間て面白い生き物だと思います。
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Unknown (アブダビ)
2014-07-18 21:03:31
あ!?
たからホラーや冒険小説を読むのか。
不快な体験をわざわざ活字で擬似体験する。人間はひねくれた生き物ですね。
私は墜落しているので、砂漠や極寒の山を舞台とする小説を、クーラーや暖房の効いた部屋でぬくぬくと読むのが好きですが(笑)
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