ヌマンタの書斎

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有坂銃

2022-06-28 11:30:01 | 社会・政治・一般
もしかしたら、日本製の武器で最も多く海外で使用されたかもしれないのが有坂銃だ。

ちなみにその正体は、日本軍が明治38年に採用した38式小銃である。これは同時代の小銃のなかでもかなり優秀であり、第一次世界大戦時には100万丁を超える輸出がされた。使用していたのはイギリスとロシアが主だが、大変使いやすい銃であったので、現在も狩猟家を中心に愛好者がいる。

元々は、明治維新後、有坂成幸が開発した30式小銃が元なのだが、これを南部騎次郎が改良したものが38式である。ボルトアクション・ライフルであり、太平洋戦争まで活躍した日本兵の主力兵器であった。

同時代のボルトアクション・ライフルには、ドイツのマウザー、イギリスのリー・エンフィールドなどがある。アメリカも当初はこのリー・エンフィールドを使用して日本軍と戦っている。

38式小銃の特徴は長い銃身と、整備のしやすさであった。命中率が高く、手入れが簡単であったことが強みだ。しかし、使用する実包の威力は弱く、そのせいでダメな小銃だと誹謗されることも多い。実際、私もそう考えていたぐらいだ。

ただし、これは南部氏の確信的な改良の成果で、欧米の兵士に比べ体格の小さな日本兵が使用しやすいことを第一に考えたからだ。ただその結果として、殺傷率は、マウザーやリー・エンフィールドに劣る。

この38式小銃の印象が悪いのは、1943年にアメリカ軍が採用したM1ガーランドという半自動小銃があまりに優秀すぎたからだ。ただ戦争の大半において、アメリカ兵はリー・エンフィールドを使用しており、日本兵の38式とは常に対峙していた。

ちなみに有坂と呼ばれるのは、どうも元々の30式小銃の開発者である有坂氏が国際的に知名度が高かったからだと思われる。有坂氏の後輩である南部氏は、14年型自動拳銃の開発者でもあるが、この拳銃があまりに悪い意味で有名であったことも関係しているのかもしれない。

余談になるが、この14年式に限らず、日本は拳銃の製造では碌な成果を残していない。拳銃を装備するのは、主に士官なのだが、あまり本気で拳銃を使う気がなかったらしい。拳銃の替わりに軍刀に信を置いており、故障しやすい拳銃には興味がなかったなのではないかと思われる。

故障が頻発する拳銃と異なり、38式小銃は極めて故障の少ないことで知られている。これは部品点数を可能な限り減らした為だとされている。実際、現在小型動物の狩猟に38式小銃を使っている欧米のハンターたちは、この小銃の故障の少なさと命中精度の高さを絶賛している。

小動物用の猟銃として利用されるのは、殺傷率が低いが故に獲物を破砕してしまわないからだ。あまりに強力な殺傷率を誇る銃器だと、小動物は命中した途端に弾け散ってしまう。それを防ぐ意味でも役立つ銃だと評価されていた。

以前にも書いたが、この殺傷率の低さゆえに、敵兵をその場で即死させることは少なかった。だが、重傷を負った兵士は、死んだ兵士と異なり助けなければならない。最低でも二人の兵士が救出に必要だし、貴重品である医療資材を費消させられるのでアメリカ軍の指揮官は、この38式小銃を嫌がったと云われる。

ただ、それ故に印象的な武器だったようで、敗戦した日本から戦利品として持ち帰られた38式小銃はかなりの数に上る。たたし「アリサカ・ライフル」としてである。

拳銃では失敗したが、南部氏はこの38式小銃を作り上げた真の技術者だと思う。今少し再評価されても良い気がします。




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