ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

天上天下唯我独尊 もりやまつる

2009-08-13 12:58:00 | 
決して綺麗な絵柄ではない。

目つきの悪い不良を描かせたら天下一品なのが、表題の著者もりやまつるだ。描かれる少年たちは、そろいも揃って目つきが悪い。読者に向かって眼(ガン)を飛ばしている。理由などなくても、いつでも苛立っている。だから、すぐに殴りかかってくる。

大人たちは汚らしく描かれている。無精ひげや肌のくすみ、生活に疲れた衣服のたるみが書き込まれた姿は、決してスマートでもなく、格好よくはない。下品な大人を描くのが実に上手い漫画家だと思う。

表題の作品はボクシングにとり付かれた不良少年が主人公だ。荒れた家庭、すさんだ人間関係、無理解な学校に絶望し、喧嘩に明け暮れる不良少年が、無理やりやらされたボクシングにのめりこみ、最後は人生を賭けてボクシングと心中する。

ありきたりのストーリーなのだが、その汚くも激しい絵柄から感じ取れるパワーが凄まじい。あまりに残酷な最後の試合の直前、主人公の目の輝きは神々しいまでに清々しい。その目は永遠に閉じられることとなるが、それでも人生を賭けて燃え尽きた主人公には後光が差すほどに輝かしい。

はじめは狂犬のような主人公が、ボクシングの求道者として最後は聖者のごとき清い目をして、輝いて人生の終幕を迎える。あまりに鮮烈で苛烈なボクシング漫画屈指の名作だと思う。

ただ、残念なことに見た目が汚い絵柄なので、あまり正当な評価をしてもらえない。神風特攻のような壮絶な死が、良識有る識者の嫌悪をそそるのか、好意的な評価どころか、取り上げることさえ避けられる有様だ。その意味で不遇な漫画でもある。

もし仮にもりやまつるが、漫画家ではなく作家であったのならば、この作品は純文学たりえるだけのものはあると思う。汚い絵柄を嫌わずに、一度は読んで欲しいと思います。
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