人生に笑いは必要不可欠だ。
だからこそ、読者の笑いを目的とするギャグ漫画は常に需要がある。劇画専門の漫画雑誌でさえ、息抜きにか四コマ漫画を間に挟むことは珍しくない。
ところが読者を笑わせるという作業は、作者にとって非常に過酷なものであるらしい。そのせいだと思うが、ギャグ漫画家を続けられる人は少ない。
それどころか壊れてしまった漫画家も少なくない。その一人に鴨川つばめがいる。私が中学生の時、週刊少年チャンピオンで絶大な人気を誇った漫画「マカロニほうれん荘」の作者である。
私は毎週、この漫画を読むことを楽しみとしていた。だが、連載終盤に至り、笑えないギャグ漫画と化していくことに大いに失望したものだ。でも今ならば分かる。
鴨川つばめ氏は漫画を描きながら笑っていたはずだ。これは面白いと思い込んで描いていたはずだ。でも傍から見ると、その笑顔はひきつり、いささか狂気じみた雰囲気をまとっていたと思う。
読者を楽しませようと思い込めば、思い込むほど、その笑いは読者から離れていく。ただ描き手だけが、楽しいはずだと空回りしていく。担当の編集者は気づいていたはずだ。鴨川氏が仕事に追い詰められていることを。もう心が壊れていることを。
おそらく、それは鬱の状態であったと思われる。しかし読者人気絶好調で単行本の売れ行きが出版社を支えている現状を思うと、編集者には止められなかったのだと思う。
早期に止めて長期の休みを取らせていたら、鴨川氏はあそこまで壊れることはなかったと思われる。だが、実際に編集部が週刊連載を止めさせたのは、作品が面白くなくなり、読者が離れてからだ。
遅すぎた!
その後、長期の休みに入り読者に忘れられた頃、鴨川氏は戻ってきた。表題の作品もそうだし、「ミス愛子」もそうだったが、その笑いは鴨川氏の脳内劇場で演じられる予定調和の笑いに堕し、読者は素直に笑うことできなくなっていた。
その後、筆を折った鴨川氏は二度と人気作を描ける漫画家になることはなくなった。私は今でも、このことを残念に思う。
実を言えば、人気作を出した漫画家が、次回作でもヒットを出し続けることは稀になっている。昔のようなヒット作を連発できる漫画家は滅多にしない。
だがその売り上げが出版社の経営を支えてきただけに、編集部はその対応策をとることを怠った。そして、それに気が付いた漫画家たちは、自分が壊れることを恐れ、強引に休みをとることを始めた。
しかし、休んだ後で元に戻れる保証はない。だから大半の漫画家は心身を削って原稿に取り組まざるを得ない。だが、大ヒットを得た少数の漫画家は違う。食べるために描く必要がない。
言っちゃなんだが、鳥山明や冨樫義博あたりはそうだろうと思う。しかし、鴨川氏は使い果たしたと聞く。願わくば別の人生で幸せになって欲しい。中学生の頃、熱狂したファンであった私の切なる願いです。
漫画、特にギャグ漫画は作者に負担を強いると思います。
ビット作を連打できる漫画家はあらゆる意味でタフですね。高橋留美子や藤田和日郎とかと思ってら、いずれもサンデーの作家だったのは偶然ではない???
「マカロニほうれん荘」はよく見ていました。鴨川つばめ氏もですが、「らんぽう」の内崎まさとし、吾妻ひでお、赤塚不二夫など、多くのギャグマンガ家が精神をすり減らして書いていたのだと思うと複雑な気分になります。
そもそも漫画家という職業が他のクリエイターに比べて超人的な仕事をしているというのもあるのかもしれませんが。
読者は楽しいですが、漫画家は大変ですね。。。