長い夜が続いている。ここにいると本当にすることがない。というか、何もしたくなくなる。妄念すらも湧いてこない。ただ古ぼけた石油ストーブの燃える音を聞きながら、黙ってじっとしているだけだ。どのくらいの時間が過ぎたのだろう。茫然と時を過ごすうちに、しかしこんなふうな時間への対応の仕方も、たまにはあっていいという気がしてきた。
万年の間、狩猟採集に明け暮れた祖先、生存の条件ははるかに厳しかったはずで、火を手なずけることができるようになっても日が暮れた後の夜は長く、不安だっただろう。また、その気持ちを表現する手段としての言葉も充分ではなく、身振り手振りの方が長い間も役立っていたのではないだろうかと、当時の知識もないまま徒に空想している。
夜の山の中で火を燃やしている時ふと感ずる懐かしさのような感覚は、われわれの意識の隅に今もかろうじて残っている遠い記憶が甦ってきたのだと、どこかで読んだ。そう思いたい。(3月2日記)
6時半、曇天、気温マイナス1度。
第1牧区へ上がるのを止めて、小屋の片付けを済ませたら朝飯を作り、食べ終わったら山を下りることにする。そういうふうな予定を立てたというよりも、身体が勝手にそうしろと決めてくれる。荷物の梱包と、掃除が同時に進行したり、急に思い立って水場の点検に行ってみたりと、きょうもやることが一貫しない。
それでも一人だから、一夜を過ごした管理棟の後始末を済ませば足りるが、小屋の方もとなると、結構時間がかかるし、神経を使う。不安が湧いてきて途中で引き返すことも再三である。それでも何かをし忘れたということはないが、きょうはすんなりと安心して帰れるように念には念を押すぞと言い聞かす。
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