
Photo by Ume氏(再録)
東京では、今週末ぐらいが桜の見頃となるようだが、牧場内の山桜が咲き出すのはまだ1ヶ月以上も先、5月の連休ぐらいだろう。もっとも、そんなふうに思って気など緩めていたら、すぐにそんな日は来てしまう。
と、ここまだ呟いて急に思い立ち、どこまで行けるか予想できない入笠に出掛けてみた。問題は3月に降った雪だと覚悟して行ったのだが、オオダオ(芝平峠)までは殆ど雪もなく、誰が処理したのか倒木が1,2本目に付いただけだった。
ところが、峠を過ぎた途端、積雪ばかりか倒木が次々と行く手を阻み、のみならず雪の上の轍を見ても、車など随分長いこと通っていないことが一目で分かった。結局、以前に希少金属の調査に来た人たちがよく駐車場にしていた大曲の手前、そうそう何年か前にクマに遭遇した辺りで、ついにそれ以上進むことを断念した。そこまでに、10本近くの倒木を処理したが、チェーンソーならぬノコギリで悪戦苦闘しているうちに、闘志はすっかり萎れてしまった。
ところが、帰ろうとしてしばらく車を走らせているうちに、このまま引き返えしたのでは何のために来たのかという、厄介な気が湧いてきた。昔、山で味わった敗退のような気分がしてきたのだ。そしてとうとう、再挑戦することにして、また反転した。
四駆をさらに「L」にして、1速、2速、3速と雪の状態に対抗し、かつまた、さらなる倒木とも闘うという大変に忙しいことになった。池の平を過ぎ、心配していた雪の量が増えたが、以前に"カメ"になった場所もかろうじて通過できた。そして「焼合わせ」まで来て一瞬、「そこまでにしておけ」という囁きを聞いたような気がした。にもかかわらず、その声を無視した。
最初の大曲は、雪崩たり雪が吹きだまりになったりして冬の難所となる。1速に落として強引に進んだ。かなり限界に近いことを感じていたが、さらに次の大曲に進入しかけた所で、車は前触れもなく雪の深みに嵌まり、停まった。怖れていたカメ状態になってしまったのだ。一冬に最低1回はこれを体験しないと入笠の冬は終わってくれないらしい。用心のためスコップは車に積んでおいたが、倒木処理に加え次は除雪作業、これはまた体力の要る仕事で、鈍っていた身体には良い運動になった。
今夜の酒は美味い。美味過ぎる。それはもちろんいい。にしても、仕事が始まるまでにあの雪はどうなるだろうか。タイヤのすり減った、走行距離16万キロを超える軽トラが怨めしい。