
毎春のように出掛けていたカタクリ峠(仮称)に、今年はまだ行ってない。今週には都合を付けて行ってみようと思っているが、さて他の2名、ムラカミ君とTDS君の都合はどうだろうか。
そんなことを考えながらまたぞろ、庭の片葉だけのカタクリを見にいったら、遅れて発芽した一株だけに薄い桃色の蕾が付いていた。かろうじて春に間に合ったと見えたその晩生の花が、きょうにも開花するかも知れない。

昨年のことであった。それまで、カタクリ峠へは中アの尾根が落ちていく東側の山腹から入った。ところが、そのいつもの林道を進むと、途中で出くわした沢が大水で横幅10㍍ほども削られ、さらに流木なども堆積したままで車で通行するのは無理だった。
それでいったん里まで下って、山付きの道を北上して、尾根の末端を迂回するようにして小横川の上流から入山する方法を選んだ。これまで、峠からの帰路にしていた林道を逆に行くことにしたのだ。
その谷をさらに奥へと詰めれば、毎朝目にする経ヶ岳の裏側から登る登山口もあるらしいが、そこまで行かずに広いすり鉢のような谷を西側から上っていった。
次第に高度を上げつつ見渡せば、少し芽吹き出した谷が眼下に拡がり、明るい春の日射しを浴びて暖かそうに眠っていた。
カタクリ峠へ行くのが目的であるのに、いつの間にかこの広い谷の早春の息吹に触れるのが楽しみとなり、むしろ近年では目的の中心、関心がそっちへ移りつつあると言えた。
渓を下る清冽極まりない水、その澱みに素早く動く黒い魚影、山や谷と同化してまだ営業を始めてない眠ったままの山奥の魚釣り場・・・。
目指す峠の手前で残雪に阻まれ一瞬ひるんだが、それでも強行すると何とか
抜けることができた。よく見ると、その辺りにはちょうど蕗の薹が幾つも顔を出していて、それらを帰路の楽しみに加えることにした。
一年ぶりの峠のカタクリは、そこでも花を咲かすことなく、灌木の根元に枯れ葉と一緒に人目を避けるかのように、それも片葉のまま生えているのが多かった。初めて目にした夥しいばかりの花の園は嘘のようにすっかり荒廃し、もし初めて訪れた時がそんな状態だったら、精彩のない深緑の葉などにはまったく気付かずに通り過ぎてしまったに違いなかった。
若い身を病苦にやつれたあの人のように、やがてあのカタクリの群落も絶えてしまうかもしれないと案じながら引き返すことにした。
青い空、光を蓄えた暖かな広くて深い谷、そこへ流れ込む幾筋かの清流、峠を下るに従い谷は少しづつ春の気配を強め、匂わせ、立ち去る者たちの後ろ髪を引いた。杉木立の続く暗い渓を抜けると、廃屋が残る明るい山里へ出た。
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本日はこの辺で、明日は沈黙します。