県内の北部のある街にいた。4人だった。昼飯を食べようということで、車の中から携帯電話を使って、行ったことのないある店を予約しようとしたら、満席だという。それでも、しばらくすれば空席ができるだろうという返事で、30分ほどかけて行ってみた。
思ったよりも狭い店で、10席もなかったと思う。あまり愛想のよくない、多分厨房で働いている料理人の女房、と思しき女性に案内されて席に付いた。
料理が供されるまでビールを飲んで雑談していて、ふと、店内の中央に位置する二人掛けの席の男女の姿が目に留まった。ともに30歳前後と見た。昼休みを利用して食事をしながら楽しそうに会話していたが、その雰囲気が同じ勤めの同僚のようには思えなかった。
二人が食事を終え、男が先に席を外して用を足しに立つと、女性の方がその間に会計を済ませた。戻って来た彼は会計が済んでいるのを知りちょっと戸惑い、しかしごく普通に礼を言ったように見えた。女性は嬉し気にそれに応え、そして二人は店を出ていった。それだけの話である。
しかし、それだけのことなのに気持ちのいい印象が残った。彼女の容貌よりか、性格の良さが明るい顔に出ていた。先が細めの黒いズボンをはいていたせいか、これは余計のことながら、後姿の形の良い臀部が目を惹いた。
愛しあえたかも知れない人よ 知らぬ顔に去った人よ
詩の一節だが、偶々ある本を読んでいて、本の内容とはあまり関係のないこの部分に出くわし、あの時の女の人を咄嗟に思い出した。
確かに二度と会うことはない。会えても、顔を覚えているわけではない。だが、あのわずかな時が、日常の諸々雑多の出来事中、一瞬だったが感情を波立たせてくれたことは明らかだった。たちまちのうちに去っていく、車窓から眺めたいい風景のようだった。
朝はかなり寒くなってきたが、日中は外で作業をしていてもどうと言うことはない。家を留守にしていた間にフジヅルがやたらと増えた。根元からそれを切り、そこにスポイトで除草剤を見舞うという手の込んだことを、結構楽しんでやっている。
本日はこの辺で。