「さぶろう、お前そんなことぐらいで満足を覚えるのか」
「へえ、さぶろうはそんなことぐらいで満足を覚えております」
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さぶろうはこの春の日、人は花見に行って楽しんでいるというのに、ひとり草取りをして過ごした。午前中も午後も。そればっかり。そしてそれで十分に満足を覚えていた。
菜の花屋敷というくらいに菜の花で埋め尽くされている屋敷の、菜の花を抜いてこれを一箇所に集めた。山と積まれた。それからそこを丹念に草取りした。
それがすんで今度は蕗の畑の草取り。それがすんで今度は玉葱の早生、中、晩稲、赤玉葱の畝の、草取りをした。草取り草取り草取りだった。右手の指が痛くなった。
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さぶろうは簡単に満足を覚えてしまう男である。安上がりな男である。草取りをさせておけばそれでひとりでに十分な満足を覚えてしまうのである。