「風が出てきたね」「若葉が揺れてるね」「日が翳ってひんやりしてきたよ。寒くはないのかね」「きみもひとりかい、青蛙の坊や」「ここでよかったら、まあ、庭の花など眺めてゆっくりしていくといいよ」
坊やは顎の下をぴくぴくさせている。外の洗い場の水道栓に体を丸くしてうずくまっている。うっかり手づかみにするところだった。夙に察知したからよかったけれど。話し相手がいないさぶろうには青蛙が親しい友人のように見える。
蛙でなくてもいいはずだが、彼は作ろうとしない。恩義で縛られたくないからだ。「こんなにあれこれしてやったのに、あいつと来たらちっともそれを返してこない」などと陰口たたかれるのも聞きたくない。愛嬌を振りまいてご機嫌を取るのも疲れる。駆け引きなしに限る。だったら、青蛙とでも遊んでいることだ。
お昼は味噌汁うどんだった。うどん玉を味噌汁の中にいれてあたためただけの。それともう一品。レトルトのドライカレーを家内と分け合った。蕗の料理の残りも食べた。デザートに浜崎名物の「けえらん饅頭」を頬張った。「(こんなにおいしいものを食べないでは、)帰らんぞ」から名が付いたらしい。
変わり映えがしないけど、お昼からも畑仕事をして遊ぼう。精を出して働くのはご免だ。ゆっくりゆっくり、休み休みだ。草藪の草を抜いてトウモロコシを移植する準備をしよう。トウモロコシは肥料をたくさん食う。だから土作りが欠かせない。
いまはシューベルトの名曲集を聞いている。流れているのは「4つの即興曲」だ。ピアノが愉快に跳ねている。主旋律が何度も繰り返される度に快感が深くなる。眠ってしまいそうになるのをやっとやっとでこらえていなければならない。