市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

スラグ不法投棄問題・・・大同特殊鋼に続き、日立金属よ!お前もか!島根県安来市からの告発レポート

2020-08-14 23:07:00 | スラグ不法投棄問題
■日立金属は日立グループに所属する高機能材料メーカーで、高級特殊鋼、希土類磁石、素形材製品を主力とし、売上高は年間1兆円を超えており同グループ内では日立製作所に次ぐ規模の鉄鋼(電気炉)メーカーです。最近は貿易摩擦やコロナ禍による主力製品の需要減退で売り上げが伸び悩んでいますが、今年4月に同社製の磁性材料で検査データ不正が発覚し、業績への更なる影響が取りざたされています。こうした中で、島根県安来市在住市民のかたから、「自分の所有農地に日立金属がフッ素などの有害物質を含む鉄鋼スラグを不法投棄され同社に撤去を求めたが拒否された」として当会に情報が寄せられました。


安来市内に不法投棄された有害スラグの生みの親とみられる日立金属安来工場。

日立金属安来工場エレクトロスラグ再溶解工程フロー図

■安来市民(仮に「Aさん」とお呼びします。ご本人は氏名の開示について了承されていますが、当面当会の判断で伏字とします)から寄せられた情報は次の通りです。

*****相談いただいた情報*****
 平成14年5月のある日、隣接する水田の持ち主K氏から次の話がAさん宅に持ち込まれました。
「貴方の不耕作地を私の田んぼの様に埋め立てれば、きれいになるし、管理も大変楽になる」
 実は、我が家には、他家に貸す程畑は十分にあるので、埋め立てて畑にする必要はありませんでしたが、公会堂の前という立地から人目にもつきますし、再々、会合のたびに埋め立てを勧められる状況だったので、断りきれず承諾しました。Aさんの夫は何事もイエスマンであったことはBさんも周知していました。
 早速、当時、田中建設に在籍していたH氏が手続きに来訪し、その時、Aさんが「埋め立ての土は、何処から持ってこられるのか?」とH氏に尋ねると、「広瀬(東出雲町に近い山間地区)の山の土」との返答でした。その後、何台もの大きなダンプが来て埋め立てが始まりました。その時、何故こんなにまでして無料で埋め立ててくれるのか?と不思議な思いがした事を覚えています。
 埋め立てが終わった頃、田中建設が「下水道工事の仮事務所を建てたいので用地を借りたい」との申し出があり、Aさんの夫が田中建設と契約しました。工事が始まった頃、埋め立てた土地をAさんが初めて見に行くと、埋め立てた場所にはゴロゴロとした塊が沢山あり、とても初めに聞いていた山の土とは程遠いものでした。そこに居合わせた現場監督にAさんが「この塊は何ですか?」と聞くと、「日立の鉱さいです」と言い難そうな、すまなさそうな顔をして答えられました。


Aさんの田んぼから掘り起こしたフッ素を含む有害な製鋼スラグ。大同スラグに似た石灰質で白色を呈していて、一番上の中央のスラグに錆が浮いている。よく見ると、その他のスラグの表面にも点々と錆が見える。写っているのは一番小さいもので、この3倍から4倍のサイズのものが埋め立てたスラグのほとんどを占めていると見られる。


日立金属の有害スラグが大量に埋め込まれたAさんの田んぼ。

 Aさんは「約束が違う」と驚き、H氏に問うと、「Aさんとこは了承済みと思っていた・・・K氏の土地にも埋まっているから・・・」という返事でした。K氏(当時K氏は日立金属に在籍していた)にも問うと、「大丈夫、これは肥料にも使われているもので、畑にも適している」との返事。なぜそんな嘘をついてまで埋め立てるのか?とK氏に問い詰めると、「間もなく田中建設の下水道工事が始まるから、仮事務所が必要と思い、自分が先走って考えてしまった」と言っていました。
 その後、年に1~2回は「この土地を買って下さい」とお願いしても、「うちも土地がようけあるけんなあ」と言われ、Aさんが「あなたの隣接する田んぼにこれを移してください」とお願いしても「自分所が狭いからなあ」とあいまいな返事。こんな調子で今まで至り、いよいよAさんの夫も亡くなり、子供たちにこの様な士地を残すのは大変な重荷になると思い、K氏、奥さん、田中建設、安来市役所、保健所などに相談してみましたが、解決をみないまま今日に至ってしまいました。
 Aさんの夫が死亡してからは、「夫の了解済み」と事情を知らなかったK氏の奥さんまでがそのように強調しだしたので、「死人に口なし」の様相となり、Aさんは心外に思い、K氏や田中建設、そして安来市には誠意を持って対応して欲しいと願ってきました。
 Aさんは田中建設のH氏にも「あなたが農家で田んぼにこんなものを埋められたらどうしますか?」 と聞いたところ、H氏は「僕はそんなこと絶対しません」と笑いながら答えていました。公共事業を請け負う会社に勤務しておきながら、他人の田んぼには嘘をついてまで有害スラグを廃棄するのかと思うと許せない気持ちです。
 NHKクローズアップ現代でも、フッ素問題が提起されていますし、群馬県でも問題になっています。
 日立金属のM氏は、「国で禁止になる前の事だから、自社は廃棄物は取り除く責任はない」との返事でした。Aさんは、「産業廃棄物処理の経費を節約する為に他人の田んぼに偽ってまで捨てるのは論外だ」として原因者の日立金属に対して解決を求めてきました。また、安来市にも同様に何度もこの問題の善処を求めてきました。
 しかし、安来市と日立金属との関係からか、双方とも対策を取ろうとする気配がなく、Aさんはやむなく令和元年12月16日に丸山達也島根県知事に公害紛争処理法第26条第1項の規定に基づき、日立金属安来工場(安来市飯島町)と田中建設(安来市内)を被申請人として、「元通りの田んぼに戻して欲しい」として、調停申請書を提出しました。
 その理由は次の通りです。
 ①当時、K氏は、日立金属株式会社安来工場に勤務していた。H氏は、当時田中建設に勤務していた。
 ②日立金属㈱安来工場は、当時、国の許可があったとしても、民間地に鉱さいが適正に処理される様、業者を監督する責務が有り、それを怠った。
 ③フッ素は、目に見えない物質上、健康被害は確認出来ないが、現時点でも絶えず発生しており、将来深刻な被害を生じる恐れがある事は、資料より明らかである。
 ④有害物質が埋められられている為、土地の価格が下がる。
 ⑤鉱さいを相手方費用負担で、除去して欲しい。
 ⑥長期にわたり精神的苦痛を被ってきた。
 ⑦正しい告知もないまま、日立金属の鉱さいが田んぼに埋め立てられ、発生から16年経過するも、話し合いに応じない。
**********

■その後、令和2年4月16日付環第51号で丸山知事(島根県環境生活部環境政策課)からAさんに調停委員として、公害紛争処理法第31条第2項の規定に基づき、島根県令和元年(調)第2号事件についての調停委員を熊谷優花氏(弁護士)、石賀裕明氏(島根大学総合理工学部教授)、帯刀一美氏(学識経験者)の3名を指名したとして通知がありました。

そして、同4月20日付島公調第2号で公害紛争調停委員会からAさんあてに、被申請人の田中建設と日立金属からの意見書が送られてきました。

*****田中建設の意見書*****
島根県環境政策課2年4.15収受
                    令和 2年 4月15日
            意  見  書
島根県知事
(環境生活部環境政策課)御 中
                 島根県安来市○○○町〇〇〇番地○
                 株式会社 田 中 建 設
                 代表取締役 ○○○○

 令和2年2月27日付調停開始通知書の、島根県令和元年(調)第2号事件につきまし て当社の意見は、下記のとおりです。

1.当社は、当該土地について工事用の現場事務所・資材置き場として借地いたしました。土地の使用にあたっては、搬入された鉱さいを平らに整地し使用しておリます。

2.借地期間終了時の土地返遠につきましては、覚書の通り土地上面を盛土整地して返還しております。

3.H氏は当社の元社員で、平成29年3月末にて退職しております。
  尚、K氏とは従兄弟関係ではないとのことです。
  埋め立て当時、土地所有者が農地転用等の手続きに不慣れなため相談を受けて、手続きの方法等お教えしてお手伝いしたそうです。

4.H氏の発言について、埋め立てに広瀬の山土のを持ってくると返答した部分については、そういう事実はなくA氏より依頼されて、耕作の苗床に使用する真砂土を準備して現地に搬入してあげた事があるそうです。
  尚、工事用に使用する土砂は広瀬方面より搬入しており ます。

5.借地については、借地覚書の通りです。

6.本件につきましては、当社および元従業員のH氏へ申請人のA氏より何度か連絡がありましたが、当社は鉱さいの搬入には関与していないので、K氏に連絡してK氏を通して話をしてくださいと返答しております。
(1/2)

<借地期間一覧>
      K氏 借地期間一覧     A氏 借地期間一覧
土地所在地 安来市○○町○○○XXXX-X 安来市○○町○○○XXXX-X
○借地期間
1 平成13年10月1日~14年3月31日
2 平成14年10月1日~15年3月31日 平成14年10月1日~15年3月31日
3 平成15年9月1日~16年3月31日
4 平成16年12月1日~17年3月31日
5                  平成17年9月1日~18年3月31日

1 平成13年10月1日より工事施工の仮設用地として、K氏より上記上地を借り受け平成14年3月に返却。
2 平成14年10月1日より工事施工の仮設用地として、K氏、A氏より上記土地を借り受け平成15年3月に返却。
3 平成15年9月1日より工事施工の仮設用地として、K氏、A氏より上記土地を借り受け平成16年3月に返却。
4 平成16年12月1日より工事施工の仮設用地として、K氏、A氏より上記土地を借り受け平成17年3月に返却。
5 平成17年9月1日より工事施工の仮設用地として、A氏より上記土地を借り受け平成18年3月に返却。
※平成13年10月よりK氏の土地を借地し工事を実施、平成14年10月からの工事についてはK氏・A氏両氏の土地を借地し工事を実施した。
※A氏の土地使用については、搬入された鉱さいを平らに整地し使用し、借地 覚書の通り工事終返却時、土地表面を盛土整地し返還をしました。
※平成30年7月A氏夫人より会社に電話連絡があり、当該土地の有効利用について何かないでしょうかと相談あり。(A氏死去後)
 ソーラーパネルの設置等あるが現在売電価格が下がっていておりますと返答。また、何かいい案があれば教えてくださいと言い電話を切られる。
※その後の電話で鉱さいのことについて苦情を言われたが、当社は埋め立て後に借地をしているので、K様を通して話をしてくださいと返答しております。
(2/2)
**********

■次に有害スラグ排出の原因者である日立金属の意見書を見てみましょう。

*****日立金属の意見書*****
(島根県環境政策課2年4.17収受)
島根県令和元年(調)第2号 公害紛争に係る調停事件
申 請 人 Aさん
被申請人 日立金属株式会社 安来工場

          意 見 書

                   令和2年4月16日
島根県知事 丸山達也 殿

             被申請人代理人
              弁 護 士  安  藤  有  理

〒690-0882
  島根県松江市大輪町420-19
  松原三朗法律事務所(送逹場所)
  被申諸人代理人弁護士   安  藤  有  理
            TEL 0852-26-5733
            FAX 0852-23-6650

1 調停を求める理由に対する答弁
  ①項は一部否認し、②、③項は否認し、④、⑥項は不知とし、⑤項は争う。
2 被申請人の主張
(1)事案の概要
 ① 2001(平成13)年頃
 本件について被申請人が認識している事案の概要は次の通りである。
 2001(平成13)年頃、被申請人において、鉄鋼の製造過程で生じる鉄鋼スラグ(以下、「鉱滓」と言う。)の資源化方法が色々協議されていた。同じ頃、被申請人の生産技術部環境技術グループ長をしていたKは、自己の所有地に減反政策で牧草地にしていた田(以下、「K所有地」と言う。)に雑草が生い茂り、草刈りに追われていた。
 このような状況の中、2001(平成13)年頃、島根県安来市の株式会社田中建設(以下、「田中建設」と言う。)が、K所有地付近において下水道工事を受注した。そのため、田中建設は、仮設事務所や資材置き場などの土地が必要となったことから、KにK所有地の賃借を申し込んだ。
 その際、Kは、K所有地を田中建設に賃貸することに異議はなかったものの、雑草の草刈りを行うことに苦慮していたことから、K所有地に鉱滓を埋設することを考えた。そこで、Kは、田中建設に対して、鉱滓を自ら調達、搬入するから田中建設がその上に盛土をして地ならしをすること、返還時、原状回復は行わないこと、K所有地が田であるため一時転用の手続きを田中建設が行うこと、という付帯条件でK所有地を賃貸した。
 そして、Kは、被申請人場内の鉱滓約500㎥を搬出し、K所有地に運搬し、田中建設が持ち込まれた鉱滓を地ならしして、その上に盛土をして、プレハブを建築した上で資材を置く等、利用した。併せて、田中建設は、安来市に一時転用の代理申請を行った。
 その後、Kは田中建設から下水道工事の終了後、プレハブや資材などの撤去を受けた上で盛土下部に鉱滓が埋設されている状態のK所有地の返還を受けた。
 ② 2002(平成14)年頃
 2002(平成14)年頃、Kは、田中建設から下水道工事の第2期工事が行われることになり、K所有地に加えたより広い土地が必要となる旨の申出を受けた。これを受けて、Kは、K所有地の隣地であり、かつ2001(平成13)年頃のK所有地と同様に雑草が生い茂っている状態にあった申請人の夫であるAが所有していた田(以下、「本件土地」と言う。)を対象とすることを考えた。
 そこで、Kは、Aに対して、田中建設からの賃借の申入れがあることを伝えるとともに、鉱滓を埋設する際の留意点の説明を行った。具体的には、鉱滓を池などの水源地に埋設をした場合には水質のアルカリ性が強くなって魚が死んでしまうことがあること、埋設した土地が膨張することがあること、当分の間、雑草が生えないこと、鉱滓の搬入はKが行うことなどの説明であった。Aは、Kからの説明を受け、了承し、K所有地と同等の条件で本件士地を田中建設に貸与することとした。その際に、Aと田中建設との間で『借地覚書』が作成されているが、その中には「借地の期間満了後は、盛土整地し返還する。」とあり、鉱滓の除去を含めた原状回復義務は定められていなかった。
 その結果、本件土地に鉱滓が埋設され盛土され、下水道工事期間中、K所有地と同様に田中建設が使用した。その際、Aは、本件土地を将来的に田としての利用を考えていなかったため、田から畑への農地改良の手続きを行った。そして、Aは、田中建設から下水道工事の終了後、プレパブや資材などの撤去を受けた上で盛土下部に鉱滓が埋設されている状態の本件土地の返遠を受けた。
 なお、Kは、2002(平成14)年、被申請人を退職し、株式会社安来製作所に転職した。
 ③ 2015(平成27)年頃
 2015(平成27)年頃、Kは、突然、申請人から本件土地に関して、土地に進入路がないので入り口付近を譲って貰えないかという相談を受けた。その時は、土地は調整区域で農地の状態では売れないことや、家を建てるなら自分の家の分家くらいしか建てられないなどと相談に乗っていたが、いつの間にか申請人から連絡がなくなって話がたち切れとなってしまった。
 その後、Kは田中建設から申請人が本件土地に埋設した鉱滓について苦情を申し立ててこられた旨の話しを聞かされた。これに対して、Kは、田中建設に対して不満があるのであれば田中建設ではなく自分に言うように伝えてくれと頼んでおいたものの、申請人からKに連絡はなかった。また、Kが(Aと偶然、会った時、Aに対して、「奥さんが鉱滓のことで田中建設にクレームを言っているようだが、あれはお互いが同意してやったことだろう。」と言うと、Aは、「そんなことを言っていたのか、自分から言っておきます。」と申請人へのとりなしを約束した。
 ④ 2019(平成31、令和元)年頃
 2017(平成29)年12月23日、Aが死亡した。
 その後、2019(平成31)年3月20日、申請人は被申請人を訪れ、本件土地に被申請人の鉱滓が埋められているので何とかして欲しい、被申請人の従業員であったKにも話したが相手にされないなどとの申入れを行った。そこで、被申請人は、翌日、申請人の案内で本件土地を確認し、鉱滓が埋設されている状況を確認した。
 そこで、被申請人は、Kと、同年4月4日に当該土地の賃貸借契約に関わった田中建設の元従業員からそれぞれ事情聴取を実施し、記述①乃至③の事実を確認した。これを受けて、被申請人は、同年4月8日、申請人に対し、2002(平成14)年頃、鉱滓を埋設することについて問題がなかったこと、そもそもAの同意の下、鉱滓の埋設が行われたこと、被申請人は埋設、賃貸借などについて当事者ではないことから当事者同士で協議をされたいことを告げた。これに対して、翌9日、申請人は、被申請人に対して、架電をし、被申請人が何もしないことは納得できないこと、公害問題に取り組んでいる方達に相談をして世間に知らしめることなどの苦情を申し立てた。また、同月11日には、申請人の子が被申請人の本社に対して、架電をし、16年前にAが所有していた本件土地を田中建設に賃貸することになり、土を入れるということであったが、被申請人の鉱滓が埋めたてられたこと、申請人は本件土地の処分を考えているが、鉱滓が埋められていて処分ができないこと、被申請人は法的に問題がないと言っているが納得できないこと、保健所、農業委員会にも相談をしているが取り合ってくれないことなどを告げてきた。そのため、被申請人は、翌12日、改めてKに連絡を取ったところ、申請人の希望が不明確であるため話し合いが進められないこと、Aには喜んでもらっており残念であること、被申請人に迷惑をかけて申し訳ない旨の回答を得た。そして、同日、被申請人は申請人に対して同月8日と同様の連絡を行ったところ、申請人は当時、問題がなくても現在規制されているのであれば会社として道義的責任があるはずであり、納得できないと激しい口調で返答した。その後、同月16日、申請人から被申請人に架電があり、以降はKとの間で解決することとし、被申請人には何ら要求しない旨の連絡があった。しかし、令和元年8月28日、申請人から被申請人に対し、公害問題として調停を申立てる予定であること、そのため埋設した鉱滓のデータの開示を求められた。
 その後も、被申請人は、申請人、Kに対して話し合いによる解決を精力的に提供したものの、成立せず、本手続きに至ったものである。
(2)見解
 ① 不法占拠
 民法上の不法占拠についてであるが、本件土地への鉱滓の埋設は本件土地 の所有者であったAの承諾の下、行われたものであること、鉱滓の埋設そのものによって本件土地の占有を侵害していると評価される事情はないことなどから、不法占拠は認められない。
 ② 土壌汚染対策法、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(農用地土壌汚染防止法)
 本件において、本件土地に埋設された鉱滓から健康被害及び水質汚濁、土壌汚染の具体的な事象が発生したとの事実は認められない。
 仮に土壌汚染のおそれがあったとしても、本件土地は私有地であり不特定多数の人が立ち入ることがないうえに埋設された鉱滓には真砂土で30cm程度覆土されていることから、鉱滓を直接摂取するおそれはない。また、本件土地の周囲は上水道が整備されており飲用井戸は存在せず、地下水経由の間接的に摂取するおそれもないことから、人が鉱滓を暴露し、健康被害に及ぶことはない。
 なお、KがAに対して「水質のアルカリ性が強くなって魚が死んでしまうことがある」旨の説明を行っているが、日本の土壌は酸性を示すことが多く、対象地の透水性が悪いなどでない限り、上記の説明のような事象が必ず生じるものでもない。
 また、農用地である本件土地に埋設された鉱滓にフッ素が含有されている ことは直ちに否定しないものの、農用地土壊汚染防止法にはフッ素は特定有害物質に定められていない。
 ③ 廃棄物処理法
 申請人の添付資料中、鉄鋼スラグに関して群馬県が行政処分を行った旨の事情を本件にあてはめるかのような主張をしていることから、念のため反論 する。
 群馬県の行政処分は、鉄鋼スラグの取引方法について鉄鋼業者が建設業者に鉄鋼スラグを販売した形式を取り、建設業者から売買代金の支払いを受けながら、反対に建設業者に対して販売管理費名目で売買代金を上回る金員を支払っていたことから、形式上は鉄銅スラグの売買であるが実態は廃棄物処理と事実認定したものである。
 しかし、本件において、上記のような取引きが行われていないことは既述の通りである。
 また、群馬県は前橋地方検察庁に鉄鋼業者を廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反で告発しているが、 同庁は不起訴処分としている。
 そもそも、鉄鋼スラグはグリーン購入法の特定調達品目に指定されている など、市場が形成され路盤材などにおいて利用されていることもあり、産業廃棄物と同義ではなく、その性質や形状などから総合的に判断すべきものである。
(3)結論
 被申請人としては、申請人からの本調停申諸は、埋設された鉱滓が原因として所有地を売却できないという私的権利に関するものであり、公害と称するものではなく、かつ鉱滓の埋設については所有者が承諾をしたものである以上、被申請人が何ら法的義務を負うものではないと考えている。
 よって、現時点において、申請人の申し立てられている原状回復請求には応じることはできない。
**********

■安来市民のかたから、上記の情報と共に、助言を求められたため、当会はさっそく7月21日付で次の書面を折り返し差し上げました。

*****当会からの助言*****
前略 所有地に日立金属がフッ素などの有蓋物質を含む鉄鋼スラグを不法投棄された件で、情報をお寄せくださりありがとうございます。
 お送りいただいた情報をまだ詳細に分析していない段階ですが、もし島根県の日立金属の排出するスラグが、フッ素の土壌環境基準を超過しているのであれば、次の2つの文書がお役に立つのではないでしょうか。

1.フッ素の含有量の観点から
 フッ素の土壌環境基準の設定は、以下の環境省の公示により 平成13年3月28日だと思われます。↓↓
※別紙1:土壌の汚染に係る環境基準についての一部改正について
http://www.env.go.jp/water/dojo/law/h130328_44.pdf
 Aさんのお手紙にある資料によれば、田んぼの埋め立て話が持ち込まれたのは、平成14年5月頃のようですので、環境省の公示後のことだと推察できます。

2.群馬県廃棄物リサイクル課による廃棄物認定の事実から
 頂いたお手紙の資料でも触れられておりますが、上記に加え、群馬県廃棄物リサイクル課による大同特殊鋼が排出したスラグ(鉱滓)を廃棄物認定したときの経緯を示す文書があります。↓↓
※別紙2:大同特殊鋼(株)渋川工場から排出された鉄鋼スラグに関する廃棄物処理法に基づく調査結果について
https://www.gunma-sanpai.jp/gp26/003.htm
 この中の2/6ぺージの下から2行目以下に次の記述があります。
 (7)ふっ素の土壌環境基準等が設定されて以降、大同特殊鋼(株)渋川工場から製鋼過程の副産物として排出された鉄鋼スラグは、土壌と接する方法で使用した場合、ふっ素による土壌汚染の可能性があり、また、平成14年4月から平成26年1月までの間、関係者の間で逆有償取引等が行われていたことなどから、当該スラグは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案し、廃棄物と認定される。

3.日立金属のフッ素添加のESR製造法による鉄鋼スラグの特徴から
 ネットで「日立金属安来工場 スラグ」のキーワードで検索してみると、二立金属では、電気炉酸化スラグ骨材というスラグの副産物を製造しており、これには「ただし、弗化物の溶出量が多い事から、路盤等の陸域での使用はできない」と明記されています。↓↓
※別紙3-1:電気炉酸化スラグ骨材
https://www.pref.shimane.lg.jp/infra/kouji/kouji_info/shimane_hatsu/hayami_hyo.data/003gidenkirosuragu.pdf
※別紙3-2:電気炉酸化スラグ骨材(実績データ①)
https://www.pref.shimane.lg.jp/infra/kouji/kouji_info/shimane_hatsu/hayami_hyo.data/003jidenkirosuragu.pdf
 さらに日立金属安来工場では、フッ素を添加した製造法に「ESR(エレクトロスラグ再溶解)」という名称を付けて、高品質をアピールしています。↓↓
※別紙3-3:日立金属工具鋼株式会社「製造工程」
https://www.hitachi-metals-ts.co.jp/strength/metalmoldmaterial/process.html
 このESR製造法について、2009年(平成21年)発行の日立金属技報第25号に詳しく記載されており、フッ素を使ったスラグ製錬であることがよく分かります。↓↓
※別紙3-4:日立金属技報Vol.25(2009)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8710332_po_vol25_r08.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
 日立金属安来工場が代理人弁護士を使って「意見書」として、「鉄鋼スラグはグリーン購入法の特定調達品目に指定」とか、「群馬県は前橋地方検察庁に鉄鋼業者を廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反で告発しているが、同庁は不起訴処分としている」とか、挙句の果てには「本件は指摘権利に関するものであり、公害と称するものではない」などと、自らの都合よく解釈したとんでもない主張をしていますが、自らのやったことが違法行為であることを認識しているだけに、内心ビクビクしている様子も行間から読み取れます。

4.まとめ

 上記に示したこれらの文書をご参考に、Aさんが2019年12月16日に申請しておられる公害紛争処理法(昭和45年6月1日法律第108号)に基づく調停申請の場で。「スラグの埋め立てが平成13年3月28日以降なら廃棄物だから撤去しろ」と主張し、しかるべき処置を島根県に請求できないか、検討してください。
 そのためには、まず、日立金属が排出した鉄鋼スラグの成分と土壌汚染の実態を行政にきちんと測定させることが肝心だと思われます。その場合、行政はかならず大企業側に加担しようとしますので、できれば行政にサンプル採取のためのボーリングをさせた機会に、ご自身でもサンプルを採取し(そのような必要もなく簡単にスラグを採取できるのであれば今すぐにでも)、民間分析業者に分析させることも有効だと思います(費用は若干かかりますが)。
 なお、Aさんが直面しておられるこの事件を弊団体「市民オンブズマン群馬」のブログやHPを通じて、公表してもよろしいでしょうか。その際、Aさんのご氏名など個人情報の取扱いについても、開示してもよいのかどうか、アドバイスしていただけませんでしょうか。
 弊団体の活動が少しでもAさん様へのサポートとしてお役に立てれば幸いです。
                         草々

別紙1:平成13年3月28日環水土第44号「土壌の汚染に係る環境基準についての一部改正について」
ZIP ⇒ p.zip
別紙2:群馬県産業廃棄物情報「廃棄物の不適正処理対策(産廃110番)」■大同特殊鋼㈱渋川工場から放出された鉄鋼スラグに関する廃棄物処理法に基づく調査結果について
ZIP ⇒ qqnyp.zip
別紙3-1:電気炉酸化スラグ骨材
ZIP ⇒ rp.zip
別紙3-2:電気炉酸化スラグ骨材(実績データ①)
ZIP ⇒ rqdcf_xo.zip
別紙3-3:日立金属工具鋼株式会社「製造工程」
ZIP ⇒ rrmvh.zip
別紙3-4:日立金属技報Vol.25(2009)
ZIP ⇒ rshesrxoy_digidepo_8710332_po_vol25_r08.zip
                         以上
**********

■その後、第2回目の調停委員会が松江某所で8月7日に開催され、Aさんは、自ら所有する田んぼに埋め込まれた日立金属安来工場由来の高濃度のフッ素等の有毒物質を含む有害スラグの撤去をあらためて求めたうえで、もし撤去しないのであれば、撤去費用として想定される1500万円が節約できるのだから、その節約分に相当する金額を支払えば、日立金属が望む田んぼの買い取りに応じてもよい、と提案したそうです。

 しかし、日立金属側は「田んぼの評価額からすれば35万円での買取が相当だ」として、有害スラグの撤去には触れようとしなかったとのことです。さらにAさんが不審に思ったのは、調停委員である3名(弁護士、島根大教授、学識経験者)がそろって日立金属側の主張に寛容な姿勢を見せたことです。

 Aさんは、田んぼの買い取りを希望する日立金属側の打診に対して上記の提案をしましたが、撤去しないまま35万円で田んぼを売り渡すつもりは毛頭なく、「本来、原因者の日立金属らが、有害スラグをすべて撤去したうえで、健全な田んぼに戻すことが最前提であり、田んぼの買い取りはその後の話」として主張したところ、原因者の日立金属はAさんのまともな提案を受け入れようとせず、2回目の調停は決裂したとのことです。

■日立金属安来工場は臨海部に位置しており、フッ素入りの有害スラグの処理については沿岸部の埋立てに使えることから、内陸県の群馬県に立地している大同特殊鋼渋川工場や東邦亜鉛安中製錬所がスラグの処理に悪知恵を常に働かせている状況とは無縁であり、スラグの処理については問題発生がほとんどないと思われていました。

 ところが実際には、安来市内の各所で日立金属安来工場由来の有害スラグの投棄が取りざたされていることが、Aさんの報告でも明らかです。

 当会は大同特殊鋼渋川工場由来のフッ素・六価クロム入りの有害な鉄鋼スラグや、東邦亜鉛安中製錬所由来の鉛・ヒ素入りの有害な非鉄スラグの不法投棄問題に取り組んできています。その知見を、島根県においても活用できれば、これほど嬉しいことはありません。

【8/15追記】
 本日は終戦記念日であり、送り盆ですが、Aさんがお盆を控えて8月11日に近くの墓掃除に行ったところ、駐車場を見て異変に気付いたとして、当会に報告がありました。
 その駐車場には、日立金属安来工場由来の鉱さいが埋め込まれて、表面をアスファルトで舗装したため、鉱さいが水分を吸って膨張し、地表面がボコボコになっていました。それが、なぜか突然急に補修されていた箇所を目撃したAさんはビックリ仰天しました。










以上、ご覧のとおりの状況。日立金属が鉱さい(スラグ)を埋めたこの駐車場のあちこちの凹凸はスラグの膨張崩壊性によるものとみて間違いないだろう。
 大同特殊鋼のスラグの場合、いちおうエージング処理をしているとカタログで強調しているが、日立金属は海岸沿いに立地しているせいか、いつでも埋立用の資材として処理できるせいかどうか定かではないが、どうやらエージングしてないようだ。
 エージング処理については次のブログを参照のこと。
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1977.html
 ↑

 誰がいつ何のために・・・。Aさんは直ぐに思い当たりました。先日、8月7日に行われた日立金属ら原因者との調停の時に、Aさんが「日立金属の鉱さいがお墓の駐車場にも埋められている」と証言したことを思い出したのでした。Aさんは「それで、証拠を隠蔽したのではないか」と語っています。【8/15追記終わり

【8月21日追記】
 8月20日に日経が日立金属に関するスクープ記事を報じました。
**********日経ビジネス2020年8月20日
スクープ 日立、日立金属を売却へ 「選択と集中」が最終段階に
 日立製作所が約53%の株式を保有する上場子会社、日立金属を売却する検討に入ったことが日経ビジネスの取材で明らかになった。売却に向け外資系証券会社をファイナンシャルアドバイザーとして雇い、入札の準備に入った。日立金属は日立製作所グループの「御三家」の一角。同じく御三家の一つだった日立電線は2013年に日立金属と合併しており、もう一つの日立化成は今年、昭和電工に買収されている。日立金属の売却が進めば、「御三家」がすべて日立グループの外に出ることになる。

日立製作所は上場子会社の株式売却を進めており、日立金属と日立建機の2社が残っていた(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
**********ブルームバーグ2020年8月20日 13:07 JST 更新日時 2020年8月20日 13:29 JST
日立、上場子会社の日立金属を売却へ-FA起用し入札準備
 日立製作所が上場子会社、日立金属を売却する検討に入ったことが明らかになった、と日経BPが20日、報じた。売却に向け外資系証券会社をファイナンシャルアドバイザー(FA)として雇い、入札の準備に入ったとしている。

日立のロゴPhotographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
 日経BPの報道によると、今秋にも買い手候補を募る入札を開始する計画。日立は「選択と集中」を旗印に上場子会社の整理を進めており、その一環としている。日立広報担当の久永禎氏は当社から発表したものではなく、コメントはないと述べた。
 報道を受けて日立金属の株価は一時、2009年1月以来の日中上昇率となる前日比15%高の1740円と大幅に上昇。日立株も同1.9%高の3590円まで買われた。
 日立はコーポレートガバナンス上で問題があるとされる「親子上場」の解消の狙いもあって、上場子会社との資本関係の整理を進めてきた。昨年12月に発表された昭和電工による日立化成の公開買い付け(TOB)では、日立は保有株をすべて売却。今年1月には逆に日立ハイテクノロジーズにTOBを実施し、総額5311億円で完全子会社化すると発表していた。
 日立の河村芳彦最高財務責任者(CFO)は7月30日の決算会見で、上場子会社との関係については数カ月後に方向性を出すと述べていた。
(堀江政嗣)
**********ロイター2020年8月20日
日立「企業価値向上に様々な検討、決定事実はない」 日立金属売却報道で
[東京 20日 ロイター] - 日立製作所は20日、同社が日立金属を売却する検討に入ったとの報道を受けて、「企業価値向上に向けてさまざまな検討は行っているが、現時点で決定した事実はない」とのコメントを発表した。
 日経ビジネス電子版は20日、日立製作所が約53%の株式を保有する上場子会社、日立金属を売却する検討に入ったと報じた。売却に向け外資系証券会社をファイナンシャルアドバイザーとして雇い、入札の準備に入ったという。
 日立金属は日立製作所グループの「御三家」の一角で、日立金属の売却が進めば、日立電線、日立化成に続き「御三家」がすべて日立グループの外に出ることになる。
**********【8/21追記終わり】

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

※参考情報「日立金属の不正検査発覚」
**********日立金属HP 2020年4月27日
URL:https://www.hitachi-metals.co.jp/topinfo/20200427.html
【重要なお知らせ】当社及び子会社の一部製品における検査成績書への不適切な数値の記載等について
 このたび、当社及び子会社において製造する特殊鋼製品並びに磁性材料製品(フェライト磁石及び希土類磁石)の一部につきまして、お客様に提出する検査成績書に不適切な数値の記載が行われていた等の事実が判明しましたので、現時点で把握している事実及び今後の対応について下記の通りご報告いたします。
お客様をはじめ関係各位に多大なるご迷惑をおかけすることとなり、深くお詫び申し上げます。
 当社では、今後このような事態を再び起こすことがないよう、外部の専門家から構成される特別調査委員会による調査で、事実・原因を徹底究明するとともに、品質保証体制の抜本的な見直しとコンプライアンスの一層の強化を図ることで、再発防止及び信頼の回復に全力で取り組んでまいります。
【本件に関するお客様お問い合わせ先(受付時間09:00~17:30、土日祝日を除く)】
■特殊鋼製品について 03-6774-3366、03-6774-3348
■磁石製品について 03-6774-3446
■そのほかのお問合せはWeb問合せフォームからお願いします
日立金属Webお問い合わせフォーム一覧
【発表資料】
○2020年6月3日:当社事業所および当社子会社の品質マネジメントシステム登録(認証)一時停止に関するお知らせ
ZIP ⇒ 20200603isoxm.zip
○2020年4月27日:当社及び子会社の一部製品における検査成績書への不適切な数値の記載等について
ZIP ⇒ 20200427sklm.zip

**********RESPONSE 2020年4月28日(火)08時49分
日立金属、車部品などの特殊鋼・磁石で検査不正が発覚[新聞ウォッチ]
 大型連休に入り、外出を控えての「自粛疲れ」でもないが、新型コロナウイルス関連以外の気になる記事を取り上げるのは久しぶりである。まさか、どさくさに紛れての発表ではないだろうが、日立製作所傘下の日立金属が、自動車部品向けなどの特殊鋼や、家電用モーターなどに使われるフェライト磁石などの品質試験で、検査成績書の数値を改ざんするなどして、納入先に提出していたという。
 日立金属が発表したもので、今年1月に特殊鋼の不正に関する情報提供があり、調査を進めて見つかったそうだ。検査不正は4種類の製品で、納入先は延べ約170社に上り、しかも10年以上にわたって改ざんが続けられて、それには管理職も関与していた「組織ぐるみ」というから驚くばかりだ。
 自動車部材などに使われる特殊鋼では、安来工場(島根県安来市)で検査データの改ざんなどが確認。14品種が約30社の顧客へ納入されたという。また、自動車や家電のモーターなどに使う磁性材料ではフェライト磁石と、ネオジムなどから作る希土類磁石で不正が判明。熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)や佐賀工場(佐賀県大町町)のほか、韓国やフィリピンなど海外の拠点でも同様の不正を確認。それぞれ約70社の顧客へ納入されたそうだ。
 きょうの各紙をみると、朝日が経済面のトップで「日立金属が検査不正、車部品の特殊鋼・磁石」と大きく報じているが、読売にはその記事はなく、産経は情報欄にわずか8行程度で、朝日を除くと極めて地味な掲載だ。中西宏明会長が経団連会長を務めていることへの“忖度”とは思いたくないが、日立製作所では競争力強化のため、グループ再編を進めており、同じ日立傘下の日立化成でも2018年6月に品質不正が発覚。その後、昭和電工に買収されることが決まったという経緯もある。
 日立金属では弁護士などで構成する特別調査委員会を設置、再発防止策などに取り組むというが、10年以上も改ざん不正を見過ごしていた隠蔽体質では、社内の杜撰なコンプライアンスにも問題がある。

**********日経2020年4月27日19:06
日立金属、特殊鋼や磁性材料で検査不正 約170社に出荷
 日立金属は27日、主力製品である特殊鋼やフェライト磁石など磁性材料について、社内で検査不正があったと発表した。顧客に提示する検査データを書き換えるなど、不正を通じて製品を納入した顧客は延べ約170社に上る。現時点ではいずれの案件でも安全性や性能に問題は生じていないという。業績に与える影響は現時点で不明としている。

フェライト磁石では顧客向けの検査データで不正な記載があったという
 同社の製品は自動車や家電などに幅広く使われている。フェライト磁石は高性能分野のシェアでは世界でもトップクラスという。日立金属は2020年3月期の連結売上高を現時点で8950億円と予想。うち約170社に出荷した不正品の出荷実績は約245億円だったようだ。
 自動車部材などに使われる特殊鋼では、安来工場(島根県安来市)で検査データの改ざんなどが確認された。14品種が約30社の顧客へ納入されたという。
 自動車や家電のモーターなどに使う磁性材料ではフェライト磁石と、ネオジムなどから作る希土類磁石で不正が判明した。熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)や佐賀工場(佐賀県大町町)のほか、韓国やフィリピンなど海外の拠点でも同様の不正を確認。それぞれ約70社の顧客へ納入された。
 西山光秋会長兼最高経営責任者(CEO)は27日、電話による記者会見で「(検査データの不正は)少なくとも10年以上継続していた」と説明。同日付で弁護士などで構成する特別調査委員会を設置しており、再発防止策などに取り組む。
 日立金属は日立製作所グループでかつて「御三家」と呼ばれた中核子会社の一つ。だが、磁石事業の不振などで業績悪化に苦しむうえ、親会社の日立は事業のシナジー(相乗効果)が乏しいとして売却を検討している。今回の不正が日立のグループ再編に影響を及ぼす可能性もある。

**********日刊自動車新聞電子版2020年04月28日
日立金属、特殊鋼と磁性材料製品で検査不正 成績書や製造工程を改ざん 10年以上続く

フェライト磁石
 日立金属は27日、同社と子会社が製造する特殊鋼製品と磁性材料製品の一部で検査不正などがあったと発表した。顧客に提出する検査成績書や製造工程の一部を改ざんして報告していた。対象顧客は自動車部品メーカーなど延べ約170社。現時点では今回の不適切事案で安全性や性能などに関する問題は発生していない。同日、電話会見を行った西山光秋会長兼CEOは「少なくとも10年以上は続いていた」と説明した。
 2020年1月に特殊鋼製品を製造する安来工場(島根県安来市)の不適切行為に関する情報提供とその後の調査で一連の不正が発覚した。特殊鋼製品では14品種を約30 社に納入されたことを確認した。
 磁性材料製品では自動車の電装・駆動用モーターなどにも使うフェライト磁石と希土類磁石の製品の一部で検査成績書の改ざんが発覚した。2製品合計で自動車部品メーカーなど約140社に納入されたことを確認。対象工場は熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)や佐賀工場(佐賀県大町町)、子会社、韓国やインドネシアなどの海外拠点などとなる。
 不適切行為の発覚後は顧客に対して個別に報告し、対応について協議を続けている。また、27日付で弁護士などで構成する「特別調査委員会」を設置し、客観的な視点での事実関係や発生原因の調査を依頼した。同委員会の調査結果を踏まえて、コンプライアンスの強化など再発防止策に取り組む。不正に関する業績に与える影響は現時点では不明としている。

**********東洋経済ONLINE 2020年04月30日05:10
日立グループ、「金属」「化成」で不正相次ぐ事情
日立金属で10年以上の検査データ不正が発覚


日立グループで検査不正が相次いで発覚している(写真:ロイター/Toru Hanai)
 日立グループで検査不正がまた発覚した。
 日立金属は4月27日、主力の特殊鋼製品とフェライト磁石などの磁性材料で、検査データを偽造するなどの検査不正があったと発表した。いずれの部品も自動車や家電、産業機器などで幅広く使われており、不正を通じて製品を納入した顧客は延べ約170社に上る。
★検査データを書き換え、顧客に提出★
 不正があったのは特殊鋼、フェライト磁石、希土類磁石の3種類の素材だ。特殊鋼はクロムやニッケルなどを特殊配合して耐久性を強くした鋼で、主に加工治具や自動車部材に使われている。
 またフェライト磁石は、主にワイパーやパワーウィンドウなど自動車用やエアコン等家電用の各モーターに用いられ、希土類磁石はネオジム等のレアアースを主原料とする強力な磁石で、自動車の電動パワーステアリングやFA(ファクトリー・オートメーション)、ロボット用モーターに使われている。
 いずれも顧客と契約していた品質基準に合うように検査データを書き換えたものを「検査成績書」として顧客に提出。特殊鋼では14品種、約30社、フェライト磁石は約580品番、約70社に、希土類磁石は約370品番、約70社の顧客にそれぞれ納入されていた。
 不正には特殊鋼を作っている安来工場(島根県安来市)や、磁石を作っている熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)などの国内拠点のほか、韓国、フィリピン、インドネシア、アメリカの海外拠点も関与していた。3品目の2019年度の売上高は合計3105億円で、そのうち実際に不正が一部でも認められた製品は245億円分に上る。
 日立金属の西山光秋会長兼CEOは4月27日に電話会見を開き、「現時点では安全性、性能に問題があるものは確認されていない」と説明したうえで、「顧客にご相談申し上げて、合意のもと出荷を継続している」と話した。業績に与える影響は現時点で不明という。
 不正が発覚したきっかけは2020年1月下旬、安来工場で不正が行われているとの情報提供だった。社内調査を進めた結果、フェライト磁石と希土類磁石でも同様の不正が判明した。
 西山会長は「不正は少なくとも10年以上前から継続していた」と説明。上層部も関わっていた可能性があるため、今後歴代幹部から聞き取り調査を行う方針とみられる。4月27日付で長島・大野・常松法律事務所の弁護士らからなる特別調査委員会を設置し、原因究明を急ぐ考えだ。
★日立の中核子会社で相次ぐ不正★
 日立グループをめぐっては、中核子会社の日立化成でも2018年に産業用鉛蓄電池などで大規模な品質データ不正が発覚している。このとき、日立グループでは全社に総点検するように指示していたが、今回の不正を防げなかったことになる。
 くしくも日立金属の西山会長は4月に親会社である日立製作所の専務兼CFOから転じたばかり。西山氏は「今回の不正と人事は関係ない」としたうえで、「(日立グループの総点検で)不正が把握できなかったのは私としても悔しい」と話した。
 一方、日立化成に続く中核子会社での相次ぐ不正は日立グループ全体の問題ではないかとの指摘には反論。西山氏は「日立グループの問題というよりも、日立金属は(独立した)上場会社だ。責任を持って調査して説明責任を果たさなければならない」と強調した。
 原因究明はこれからだが、コストを意識していた可能性もある。今回顧客との契約とは違う工程を未申請のまま変更したケースでは、自社材料から外部購入に変更していた。
 その理由について、西山会長は「おそらくはコスト。外部購入の方がコストが安いから変更したと推測できる」と認める。もっとも顧客は日立金属の材料を使用した製品と理解して購入しているため、契約が不成立になる恐れもある。
★試される「名門」のガバナンス力
 日立金属は日立化成とともに日立グループ御三家の一角を占め、売上高は1兆円規模を誇る。だが、磁石事業などの不振で業績低迷が続いている。2019年4~12月期は本業の儲けを示す調整後営業利益が前期比72%減の118億円に下落。前期まで3期連続で減益のうえ、2020年3月期は磁性材料で減損を計上し、470億円の最終赤字に転落する見込みだ。足元では新型コロナウイルスの感染拡大もあり、さらに下振れする可能性が高まっている。
 日立金属幹部はここ数年の業績不振について、「構造改革を怠り、全方位で積極投資した結果、固定費が大幅に増えてしまった」と分析する。西山氏は「一刻も早い業績の回復、事業再編に取り組んでいきたい」と抱負を述べたばかりだった。
 日立金属はもともと独立心が旺盛で、日立製作所との取引も少ない。ただ、2010年に日立金属社長を日立製作所の副社長に就けるなど、グループの一体感を高める動きもあった。その後、2013年に日立電線と経営統合し、日立化成との統合も模索していたが、日立化成は昭和電工への売却が決まった。そうしたこともあって、日立金属も業績が回復すればグループ外へ売却されるのではないかとの観測が強まっていた。
 ただ新たな問題が浮上したことで、売却の行方は不透明になってきた。原因究明には少なくとも数カ月かかるとみられるが、日立化成の不正問題のように、調査の過程でまた追加の不正が出る可能性も残る。名門で相次いだ不正をどう食い止めるか。日立のガバナンス力が試されている。
(冨岡耕:東洋経済記者)
**********

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【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】コロナ凍結の第二次訴訟再開目前に届いた被告高専機構の準備書面(2)

2020-08-14 01:15:00 | 群馬高専アカハラ問題
■群馬高専アカハラ犯の雑賀洋平が沼津に「人事交流」で異動していた最中、この「異動」に関する経緯等情報の開示を求めたところ、沼津異動期間がなぜか黒塗りとされて文書が出てきました。裏には、高専機構の情報不開示アドバイザーであるいつもの銀座の弁護士の影がありました。とにかく執拗に延々と理不尽な黒塗りで嫌がらせしてくることに辟易としたため、2019年10月の高専過剰不開示体質是正訴訟プロジェクトの一環として、ここに争点を絞った訴訟を提起し、第二次訴訟としておりましたことは既報のとおりです。

 提訴に応じて今年1月29日に被告高専機構の答弁書が出され、それを踏まえて2月4日に第1回口頭弁論が開かれました。そして、被告の説明不足を指摘した清水裁判長の訴訟指揮により、3月3日に答弁書補充となる被告準備書面(1)が提出されたため、当会ではこうした被告高専機構の杜撰な主張を一点一点指摘して準備書面を作成しました。ところがこのたった2か月程度の間に、いきなり現れた新型コロナウイルスの脅威が瞬く間に全世界を覆い尽くしてしまい、歴史的な緊急事態宣言発令に揺れる2020年4月7日の東京で、当会は原告準備書面(1)を提出したのでした。この緊急事態宣言のため、4月21日に控えていたはずの第2回口頭弁論は中止され、再開の目途すら付かなくなってしまっていました。

 その後、7月8日にようやく再開の連絡があり、並行する第一次訴訟と事実上日程を併合する形で、8月20日にようやく半年と半月ぶりの口頭弁論が開かれるはこびになりました。

○2019年10月20日:高専組織の情報隠蔽体質是正は成るか?オンブズが東京地裁に新たなる提訴!(その3)
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3057.html
○2020年3月5日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】第二次提訴に対する高専機構からの答弁書と第一回口頭弁論の様子
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3128.html
○2020年4月13日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】緊急事態宣言に揺れる東京で原告当会が第二次訴訟準備書面(1)提出!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3149.html
○2020年7月9日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】七夕の第一次訴訟第3回弁論報告&第二次訴訟の再開通知到来!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3180.html

■すると、待ち望んだ口頭弁論再開が2週間後に迫る8月7日、被告高専機構の代理人弁護士事務所である銀座の田中・木村法律事務所から、被告準備書面(2)が突然FAXで送られてきました。
 内容は、原告当会が4月7日に提出した上記の原告準備書面(1)に対しての再反論となっています。本来、コロナ騒ぎがなければ、第2回口頭弁論では原告準備書面(1)までを吟味して次の訴訟指揮がなされるはずでしたが、未曾有の事態によってその日程は宙に浮いてしまいました。今回、「コロナ様」のおかげで転がり込んできた4か月もの時間をフルに使って、原告準備書面(1)を無効化するためのありとあらゆる詭弁とハッタリを用意してきたものと思われます。それを示すように、今回の被告準備書面(2)は7ページと、手抜き恒例事務所にしてはそれなりの分量です。

■それでは、第二次訴訟に関しての被告高専機構側の準備書面(2)の内容を見てみましょう。

*****被告準備書面(2)*****ZIP ⇒
FAX送信分:20200807f1iqjfaxm.zip
郵送によるクリーンコピー:20200808c1iqjxnrs.zip
令和元年(行ウ)第549号 法人文書不開示処分取消請求事件
 原 告  市民オンプズマン群馬
 被 告  独立行政法人国立高等専門学校機構

          準 備 書 面(2)
                     令和2年8月7日

東京地方裁判所民事第51部2B係  御中

           被告訴訟代理人弁護士  木 村 美 隆
                同      藍 澤 幸 弘

             記
 原告の令和2年4月6日付準備書面(1)について
 1 同1項(1)について
(1) 原告の指摘事項
   原告は,被告における高専間人事交流制度(以下「人事交流」という)の実施にともなう人員補充について,被告が一般採用により正規教員または非常勤講師を補充する場合には「補充必要性」を公表周知すべきであること,他校から人事交流制度により教員を補充する場合には,派遣受入校(かつ派遣元校)の校長が選択的に却下できるので人事管理に支障は生じない,と指摘する。
   しかし,原告の上記指摘は,人事交流の実施にともなう人員補充が,派遣期間内に限定されたものであることを前提としていると解され,実際に各高専が非常勤講師を採用する場合の実態とは異なっている。また,人事交流において交換的に教員を派遣する揚合には双方で派遣期間の調整が行われるのであり,関係者が派遣期間の内容を承知している。被告のいう人事管理上の支障が生じるおそれ(法5条4号へ)は,このような交換的派遣を念頭に置いたものではない。

(2)高専間人事交流制度にともなう非常勤講師の採用の態様
 人事交流により派遣元校が教員を派遣する場合,派遣元校の他の教負や非常勤講師が,派遣教員の実施していた授業を担当する方法により派遣教員の業務を代替する場合もあれば,派遣実施前に非常勤講師を新たに採用する場合もあり,派遣教員が行っていた業務を補充する方法は,各学校の判断に委ねられている。なお,人事交流により派遣元校と派遣受校が交換的に教員を派遣することはあるが,派遣元校の業務を補充するために他校から非常勤講師が異動するという対応は行っていない。
 そして,各学校が人事交流の実施にともなう人員補充を念頭に非常勤講師を採用(被告の外部から採用する場合もあり,派遣元校以外の被告の高専に所属する非常勤講師等と新たに契約を締結する場合もある)しようとする場合,候補者には派遣教員の派遣期間に応じた契約期間を提示している。そして,この契約期間終了後に契約を更新するかどうかは各学校の業務の実情に応じて判断されており,非常勤講師の担当する授業内容を変更して契約を更新するといった場合もある。このように派遣教員が派遣元校に復帰した後には,常に非常勤講師の契約を終了させるといった取り扱いは行っていないため,非常勤講師を募集する際には人事交流の実施にともなう人員補充のための採用であることまでは示していない。
 以上のように,派遣教員の実施していた業務を補うために非常勤講師を採用する場合でも,当該採用は人事交流の実施をきっかけにしたものにすぎず,派遣期間の終了によって非常勤講師の契約がただちに終了するものでもない。それにもかかわらず,同制度における派遣が決定した段階(甲第3号証の作成日は,派遣開始日の約6ヶ月前である)で派遣期間が外部に公開されると,非常勤講師の募集が同制度による派遣にともなうものであり,派遣期間満了後には契約更新の見込みはないといった推測を生じさせることともなって,派遣元校における非常勤講師の採用活動に支障が生じるおそれがある。
 よって,甲第3,4号証のうち,交流期間派遣期間の記載は,法5条4号への「人事管理に係る業務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」のある情報が記載されたものに該当する。

2 同1項(2)について
(1)原告の指摘内容
 原告は,人事交流における派遣期間について,派遣元校や派遣受入校の教員に周知されないとの被告の主張は事実に反し,学校長が内部の教員等に人事交流の派遣期間等の情報について守秘義務を課されていたり,慣例としてそのよう(保秘扱いとして)に運用されている事実は認められないとし,また,実際に派遣教員や各高専管理者が口頭やホームページ等の挨拶で派遣期間を教員,学生に周知することが通例であると指摘する。

(2)派遣受入校への派遣期間の通知方法と派遣期間の取り扱いについて
 人事交流に関し,被告が各高専の学校長に通知した書面は甲第3,4号証のとおりである。甲第3号証は,派遣元校及び派遣受人校の各校長への通知であり,甲第4号証は全高専の校長へ宛てた通知であるが,これら通知の方法は,被告が甲第3,4号証の文書のデータを被告内部(機構本部及び各高専)で利用しているファイル共有システム(被告内のネットワークからのみ接続可能である)に保存し,その旨を甲第3号証は該当する高専の人事担当者に, 甲第4号証については校長,事務部長ほかの人事担当者(以下「人事管理者」という)に告知する方法により行っている(乙1)。甲第3号証が保存されたフォルダは,アクセス権限を有する者しか開くことができず,甲第4号証については人事管理者にフォルダやファイルを開くためのURLを通知する(乙2) という方法で管理しており,甲第3号証はアクセス権限を有する人事担当者数名のみが閲覧できる運用,甲第4号証は人事管理者のみに通知する運用となっている。このように,人事交流における派遣情報は,アクセス権限を有する者ないし人事管理者のみが知りうる態様で管理されており,派遣決定がなされた段階で,被告が派遣期間を派遣元校や派遣受入校の教員に周知している実態はない。
 また,甲第16号証で指摘する教員の挨拶文が,人事交流で派遣された教員のものであること,甲第14号証が奈良工業高等専門学校のホームページから引用されたものであることは原告が指摘するとおりである。しかし,派遣された教員が派遣受入校において自身の派遣期間を明らかにするかは,各教員や各高専の判断によるのであり,派遣された教員が派遣期間を自ら公開する慣行があるといった実態はない。
 そもそも,人事交流にともない非常勤講師の補充がなされるのは,人事交流の開始前であって,人事交流の実施後に派遣教員が派遣期間を公開したとしても,非常勤講師の補充に対する影響は小さいと考えられる。その意味で,派遣から約半年前の派遣決定時に派遣期間を公開することと,派遣教員が派遣開始後に派遣期間を公開することは,非常勤講師の補充に対する影響が大きく異なるというペきである。

3 同1項(3)について
(1)原告の指摘内容
 原告は非常勤講師の雇用は形式上1年ごとの更新であるところ,人事交流による人員派遣にともない非常勤講師を採用する場合には,採用の際に見込まれる勤務期間をあらかじめ通知することが通常であり,被告の「派遣期間が認知されると更新の可能性が低いと応募者側が判断して応募を見合わせるおそれがある」との主張は,たとえば採用の際,契約更新の可能性が皆無であるとあらかじめ分かっているにもかかわらず,そのことに一切触れないまま,契約に至らせることを優先して「更新可能性有」などと虚偽を伝えていることに等しい,と指摘する。

(2)非常勤講師の採用期間について
 しかし,人事交流による人員派遣にともない非常勤講師を採用するにあたり,候補者には派遣期間にあわせて実質的な契約期間を説明していること(非常勤講師の契約は,形式的には1年ごとの更新となっていることは,原告の指摘のとおりである),各高専の業務の実情により派遣期間満了後も契約を更新する場合もあり,募集をする際には,人事交流の実施にともなう人員補充のための採用であることまでは示していないことは前記1項(2)で述べたとおりである。
 原告は,人事交流にともなう非常勤講師の採用が,派遣期間の穴埋めとして採用される者であり,派遣期間を終えた派遣教員が派遣元校に復帰するかどうかと,非常勤講師の契約更新可能性の有無が直結しているのは明らかである,との認識を前提に前記(1)の指摘をしているが,その前提となる認識が実態と異なっている。派遣教員の派遣元校への復帰と,非常勤講師の契約を更新するかどうかは必ずしも直結していないことは,上記のとおりである。

4 同2項について
(1)原告の指摘内容
 原告は,被告が派遣期間情報の記載された文書を各高専内部の一般教職員や学生に向けて配布掲示させたり,インターネット上等で公表したりといった積極的な措置を行っていないにすぎず,派遣期間情報を積極的に不開示情報として扱うよう定めた規程ないし慣例が存在していない以上,派遣期間情報は法5条1号ただし書きの,「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当する,と指摘する。

(2)派遣期間情報が「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当しないこと
 しかし,法5条1号ただし書きの「慣行として公にすることが予定されている情報」とは,公にすることが慣行として行われていること,事実上の慣習として公にされていること,または公にすることが予定されていることを意味しており当該情報と同種の情報が公にされた事例があったとしても,それが個別的な事例にとどまる限り「慣行として」にはあたらず(乙3),例えば取材や雑誌への投稿・掲載等でたまたま明らかになっているものであれば,「慣行として」には該当しないとされる。
 原告は人事交流の実施後に派遣教員が挨拶等で派遣期間に言及したり,高専が派遣期間を開示している事案があることを指摘して派遣期間が「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当すると指摘するが,被告において派遣受入校の高専や派遣教員が派遣期間を公にするような慣行はなく,これらの個別的な事例があったことが「公にする慣行」があることの根拠となるものではない。
 また,そもそも人事交流における派遣実施後に派遣期間が明らかにされることと,その約半年前の段階における派遣決定時に派遣期間が公にされることは意味が異なることは前記のとおりであり,派遣教員等が派遣期間を明らかにすることは,派遣決定時における派遣期間を開示する「公の慣行」の根拠となるものではない。
 なお,被告において,人事交流における派遣決定時に派遣期間を公にする慣行はない。

5 同3項について
(1)原告の指摘内容
 原告は,人事交流におけるすべての事案に関する派遣期間の開示を求めているわけではなく,訴状別紙に示す雑賀氏個人の派遣期間情報に限って開示しても,法5条4号への「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」が新たに生じうるおそれはなく,法6条に従って部分開示されるべきであると指摘する。

(2)法6条における部分開示の内容
 そもそも法6条は部分開示について「独立行政法人は開示請求に係る法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。」と規定しており,不開示部分について裁量的に開示する義務を生じさせる規定ではない。
 人事交流における派遣期間の情報が不開示事由に該当することはこれまで主張したとおりであり,法6条に関する原告の主張は,同条の解釈を誤ったものといぅべきである。
 なお,甲第15号証は人事交流における派遣者及び派遣期間を一覧にまとめたものであり,原告がどのような経緯でこの書面を入手したかは不明であるが,被告がこのような一覧表をホームページで外部に公開したり,被告内部においてこのような一覧表が周知されているといった実態はない。
                                      以上
**********

*****証拠説明書と乙号証*****ZIP ⇒
FAX送信分:20200808c1iqjxnrs.zip
郵送によるクリーンコピー:20200808c2i13jxnrs.zip
令和元年(行ウ)第549号 法人文書不開示処分決定取消請求事件
原 告  市民オンブズマン群馬
被 告  独立行政法人国立高等専門学校機構

            証  拠  説  明  書

                           令和2年8月7日

東京地方裁判所民事第51部2B係 御中

             被告訴訟代理人弁護士  木  村  美  隆
                  同      藍  澤  幸  弘

              記

●号証:乙1
○標目:メール(平成31年度高専・同技科大間教員交流制度派遣推薦者の派遣決定について)
○原本・写:写
○作成年月日:H30.10.10
○作成者:被告
○立証趣旨:被告が人事交流の派遣元校及び派遣受入校の人事担当者のみがアクセスできるファイルに甲第3号証を保存する形式で派遣決定の内容を通知しており,派遣決定時に,派遣期間を関係する高専の教員等に公開,周知していないこと

●号証:乙2
○標目:メール(平成31年度高専・同技科大間教員交流制度派遣者の決定について)
○原本・写:写
○作成年月日:H30.10.10
○作成者:被告
○立証趣旨:被告が人事交流の派遣決定時に,被告が各高専の校長,事務局長等の人事管理者に限り派遣決定に関する文書(甲4)にアクセスするためのURLを告知しており,派遣決定の内容を各高専の教員等に公開,周知していないこと

●号証:乙3
○標目:独立行政法人国立高等専門学校機構における法人文書の開示決定等に係る審査基準(抄)
○原本・写:写
○作成年月日:H16.4
○作成者:被告
○立証趣旨;被告における,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づく処分に関する審査基準の概要,法5条1号ただし書イの「慣行として公にされた情報」とは,公にすることが慣行として行われていること,事実上の慣習として公にされていることを意味しており,当該情報と同種の情報が公にされた事例があったとしても,それが個別的な事例にとどまる限り「慣行として」にはあたらないこと。
なお,本審査基準は,文部科学省における行政文書の開示決定等に係る審査基準に準じている。
**********

■4か月間もかけて熟慮してきたわりには、致命的な点を間違えています。なぜか、原告当会が開示を求める雑賀洋平の派遣開始決定が派遣から約半年前に作成されたことをもって、原告当会が派遣開始前の時点で当該情報の公開を求めたことに話がすり替わっています。そしてその事実誤認、というよりもはや妄想を前提に、雪崩をうったように何度も致命的に間違えた主張をしています。

 なお、当会が雑賀洋平の沼津異動経緯に関する情報について開示請求をしたのは、とっくに沼津に異動済みの2019年8月9日です(https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3041.html)。そもそも因果関係として、雑賀洋平が沼津に異動したと知ったために開示請求をしたのですから、時系列がアベコベです。

 しかも、ご丁寧にも高専機構は、「人事交流の実施後に派遣教員が派遣期間を公開したとしても,非常勤講師の補充に対する影響は小さいと考えられる。その意味で,派遣から約半年前の派遣決定時に派遣期間を公開することと,派遣教員が派遣開始後に派遣期間を公開することは,非常勤講師の補充に対する影響が大きく異なるというペきである。」として、異動完了後にその予定期間を公開しても問題ないと自ら認めてしまいました。信じられないまでの自爆行為ですが、高専機構と田中・木村法律事務所はいったい何を考えているのでしょう。

 本気で事実誤認しているものでないとすれば、故意に原告当会のやってもいないことをやったことにして、話の大前提をすり替えたまま、強引に判決に持ち込もうとしているとしか考えられません。国立高専の人事交流制度という極めてマイナーな領域の話なので、いくら適当なことを言っても、裁判官はよく理解しないまま国家機関である自分たちの主張を鵜呑みにして判決を出してくれると期待しているのでしょうか。しかし、原告が開示請求をしたのが雑賀の沼津異動前か異動後かというのは、もっとも根本的で単純な事実関係なのですから、いくら高専の認知度の低さを利用して煙に巻こうといっても無理があります。

■今回、被告高専機構側はコロナのおかげで空いた時間を使い、本来は原告の準備書面(1)を踏まえて行われるはずだった第2回口頭弁論の直前に、自分たちの準備書面(2)を差し込んできました。しかし普通に考えれば、このタイミングでは準備書面は出さずにおいて第2回口頭弁論を済ませ、第3回口頭弁論直前に準備書面を提出したうえそのまま結審させていれば、準備書面の作成にはさらに時間を使え、しかも原告側に反論機会を与えないまま時間稼ぎもできたはずです。

 そこから推測すると、被告高専機構側は、原告が最後に準備書面を出したまま第2回口頭弁論で結審されてしまうリスクを恐れて、あえてこのタイミングで準備書面を提出してきたものと考えられます。しかし、裁判官がよほどのポンコツでなければ、いくらなんでもこの破綻した準備書面がそのまま通るとも思えません。

■原告・被告双方から出揃っている準備書面を見て、清水裁判長はどのような判断を下すのでしょうか。当会では、コロナによるイレギュラーや被告側のなりふり構わない杜撰な主張に鑑み、再度原告に反論機会を与えるため第3回口頭弁論を開くことを強く要請する方針です。8月20日の16時から東京地裁4階419号法廷にておこなわれる第2回口頭弁論の様子については、追ってご報告します。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

コメント (4)
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