新型コロナが流行した3年 未知の敵、我慢と手探り 5類引き下げ、変わる生活様式 「第9波」難しくなる監視
2023年5月5日 (金)配信毎日新聞社
2020年3月、新型コロナウイルスの感染者がじわじわと増え始め、衝撃的なニュースが流れた。タレントの志村けんさんが感染して死去。欧米で爆発的に流行していたこともあり、一気に警戒感が高まった。
4月7日、安倍晋三首相は初の緊急事態宣言を発令した。市民に外出自粛を、飲食店に営業自粛を求めた。感染者数を抑えた代償に、経済は低迷。非正規労働者を中心に、困窮する人々が続出した。
20年9月に発足した菅義偉政権は、感染対策と経済活動との両立を重視した。感染者数が増えても、観光支援策「GoToトラベル」をできるだけ継続した。ところが、流行の波が再び拡大し、政府はやむなく緊急事態宣言を繰り返した。
第5波では感染力の強いデルタ株が流行し、重症患者が増えた。病床が逼迫(ひっぱく)し、患者の救急搬送先が見つからない状況に陥った。
感染力がさらに高いオミクロン株が登場すると、流行の波は当初と比べて桁違いに膨れ上がった。22年夏、1日あたりの新規感染者数は26万人、23年初めには1日あたり死者数が500人を超えた。
一方、8割の人がワクチンの2回接種を終え、死亡率は下がった。厚生労働省の資料によると、80歳以上の感染者の死亡率は21年7~10月の7・92%から、22年7~8月は1・69%となった。
政府は8日、感染症法上の位置づけを、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げる。今後は緊急事態宣言や感染者の隔離などの強制的な措置ができなくなる。ただし、ウイルスの性質が変わったわけではなく、医療の逼迫が起きない保証はない。対策をどこまで緩めるか、手探りが続きそうだ。
◇5類引き下げ、変わる生活様式 医療機関広がる受け皿/全数把握→「定点」に/医療費支援、段階的に減少
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが8日、5類に引き下げられる。発熱などの症状があり感染が疑われる場合、どこで診てもらえるのか。
5類移行に伴って、原則として季節性インフルエンザと同じように、自分で医療機関を選べるようになる。これまでのように、自治体が指定する「発熱外来」に予約をして受診する必要はなくなる。
これまで新型コロナ患者を受け入れていたのは、今年2月時点で全国約4万2000の医療機関だった。今月8日には4万4000の医療機関まで増える見込み。政府は将来的に受け入れ先を、約6万4000の医療機関に増やす方針を示している。
ただ、受け入れ態勢の準備などもあり、診療するかどうかの判断は各医療機関に委ねられるため、受け入れ先がすぐに増えるとは限らない。そこで都道府県は当面、受け入れ可能な医療機関名などを公表する仕組みを続ける。
一方、入院患者の受け皿も広がる。顔色が明らかに悪かったり意識がおかしかったりした場合、政府は「ためらわずに救急車を呼んでほしい」と呼びかけていて、それ以外はかかりつけ医などへの相談を勧めている。
このため、新型コロナの入院患者を受け入れてこなかった約3200病院にも受け入れを促し、全国の全病院約8200カ所で受け入れ態勢を整える。
5類移行により、感染時の療養期間(原則7日間)中に求めていた法律に基づく外出自粛の要請がなくなる。ただし、発症後5日間は他人に感染させるリスクが高いことから、政府は、発症日を除いて5日間は外出を控えることを勧めている。
小中学校などの登校は「発症後5日経過」「症状が治まってから1日経過」という両方の条件を満たすまでできない。
5類移行により感染者数の公表方法も変わる。これまでは毎日、報告があった全ての感染者数を公表する「全数把握」だった。今後は全国約5000の医療機関から情報を集め、週1回公表することで流行を把握する「定点把握」になる。
毎日公表されていた死者数については、月ごとの人口動態統計で公表されることになる。ただ、公表のタイミングは当該月の5カ月後になる(当面は2カ月後にも公表)。
これまで新型コロナの検査と陽性判明後の診療は無料だった。5類移行後は患者の負担が急に増えないよう、政府は公費による支援を段階的に減らしていく。外来では、飲み薬など薬代への支援が9月末までは続くが、それ以外の医療費は通常の医療と同様になる。
入院治療でも、9月末まで薬代への公費支援などを続けるが、医療費や食事代などは個人負担にする。
一方、ワクチン接種について、今年度は秋冬に5歳以上の全ての人が無料で受けられる。高齢者ら重症化のリスクが高い人は、春夏に前倒しして接種を受けられる見通し。
◇「第9波」難しくなる監視
国内ではこれまでに8回の感染の波を経験し、波ごとに感染規模が拡大する傾向が続いてきた。5類移行で感染者数の集計や公表はなくなり、感染拡大が起きた場合に状況は見えづらくなる。
厚生労働省に助言する専門家組織「アドバイザリーボード」の4月19日の会合で示された専門家チームの見解によると、献血者の抗体調査の結果、新型コロナに感染した人は42%だった。86%の英国を大きく下回る。こうしたことから第9波について、「第8波より大きな規模になる可能性も残されている」と指摘した。死亡者については、高齢者を中心に「継続的に発生する状況になる可能性がある」としている。
国は、人が排出するウイルスが流れ込む下水を監視するなど、新たな流行状況の把握の仕組みを検討する。だが専門家チームは「流行状況のモニタリング(監視)の精度は落ちる」としている。