特定看護師、法制化議論で意見割れる
日医委員ら6人、「時期尚早」と意見書、厚労省は年内決着の姿勢崩さず
厚生労働省のチーム医療推進会議(座長:永井良三・東京大学大学院教授)の第9回会議が11月18日に開かれ、厚労省が提示した「看護師特定能力認証制度骨子(案)」について、制度化することのメリット、デメリットなどを議論したが、各委員の意見は賛否が分かれた(資料は、厚労省のホームページに掲載)。厚労省は同会議での意見を12月の社会保障審議会医療部会で報告した上で、再度同会議で議論をする方針。
看護師特定能力認証制度骨子(案)は、11月7日に「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」で示されたもの(「厚労省の特定看護師の骨子案、委員から強い疑義も」参照)。ワーキンググループでは厚労省が特定看護師(仮称)を看護師特定能力認証制度として法制化に向けて議論を加速させたことで、賛否が分かれたことを踏まえ、永井座長は、「厚労省の認証制度にするべきという意見と、現場で教育をすれば良いという意見もある」と述べ、論点整理から始めた。
チーム医療推進会議の座長を務める東京大学大学院教授の永井良三氏。
永井座長が示した論点は、(1)看護師特定能力認証制度を法制化することのメリットとデメリット、(2)法制化しないことのメリット、デメリットという軸だ。この議論の前提として、これまで同会議内で、看護師の現状は、カテーテルの挿入や動脈内採決など、医行為に近いもしくは医行為に該当するような行為をする「グレーゾーン」があることを確認。また、グレーゾーンに対応するための教育・研修は行う必要があるという点も共通認識とした。
議論では、特定能力認証制度を設けるメリットとしては、虎の門病院長の山口徹氏が、「特定看護師(仮称)を制度化することで、国が教育の場を確保してもらえれば、院内での教育労量の負担軽減にもなり、医師も新しい領域に向かうことができる。看護師が行う特定行為は詰める必要があるが、厚労省の認証制度であれば医行為を整理するのにも役立つ」と述べた。一方で、日本医師会常任理事の藤川謙二氏は、「特定看護師(仮称)を認証するのは病院ごとにすべきだ」と、教育を受けて厚労相が一律に認証した場合に、特定行為をする際の責任の所在が不明確だと指摘。1時間超にわたる議論の中で、「看護師の能力を担保できる」という賛成意見と「責任の所在が明確でない」などの反対意見で分かれ、平行線をたどる形となった。
会議後に厚労省医政局医事課長の田原克志氏は、「2年ぐらい特定看護師(仮称)の議論をして、このような枠組みが必要という認識では一致している。厚生労働大臣の認証か、病院内での認証とするのかが議論の本質になると思うが、特定行為そのものも見えていないという意見もあった。12月の社会保障審議会医療部会で今日の内容を報告し、チーム医療推進会議で再度議論をしていただく。意見がまとまれば、12月中にまとまる社会保障と税一体改革の関連法案に盛り込むことはまだ間に合う」とした。
業務の明確化、能力担保につながる
看護師特定能力認証制度について、反対の立場を述べた日本医師会の藤川謙二常任理事(右)。左は「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」の座長も務める昭和大学医学部教授の有賀徹氏。
永井座長が論点整理をし、議論を開始した直後に、藤川氏は日医が16日に発表した特定看護師(仮称)へ反対する見解の文書を参考資料として提出(「『特定看護師は不要』、日医・藤川常任理事」を参照)。さらに、藤川氏にチーム医療推進会議の委員らを加えた計6人の連名で、永井座長あてに意見書を提出し、「特定看護師(仮称)制度について、12月の社会保障審議会医療部会に諮ることは、時期尚早で反対」とした。
これに対して、日本病院会会長の堺常雄氏は、藤川氏が「(特定看護師の創設は)医師不足を補うために看護師に医師の代わりをさせたいという一部の医師と、看護師のキャリアアップのために特定看護師(仮称)が必要という一部の看護師によるもの」と発言と発言したことに対して、「一部の医師、看護師というが、そんなこともない」と反論。全国在宅療養支援診療所連絡会の太田秀樹事務局長は、「在宅介護の現場で訪問看護師は、かなりグレーゾーンに踏み込んでいるのが現実。ただ、その訪問看護師によって命が助けられているということもある。訪問看護師の能力を担保するためには、厚労省が認証制度を設けることはメリット」とし、「在宅介護のケースは増え続けている中で、制度化して動き出さなければ、デメリットは分からない」とした。
続いて、日本看護協会の大久保清子副会長は、「国民のニーズに安全に対応していくという立場で発言したい」とした上で、「看護師はグレーゾーンで業務をしているが、想定していない業務もしている。これは保健師助産師看護師法という延長線で理解するのは難しい。法律で定めて安全を担保するべきだ」と述べた。さらに、2002年に看護師による静脈注射が通知で認められた点について、「通知のみだと現場は混乱している。看護師の業務として標準化して普及させるには法律で定めるべき」として、不明確な看護師の業務は、法的な線引きが必要という認識を示した。
政策研究大学院の島崎謙治教授も、「看護師の業務は『診療の補助』ということで、他の職種と比べて曖昧。それを区別するために通知を出しているのだろうが、ある程度レベルの低い業務で線引きすると、高度なことはできない。その逆も起きるので、法律で決めた方がいい」と指摘。法制化するメリットを述べる声も相次いだ。
責任の所在がもうひとつの論点
特定看護師(仮称)を法制化することのメリットは看護業務の線引きができるなどの意見が挙がる一方で、永井座長は「もう一つの論点は責任問題」とし、認証制度で認められた看護師が特定行為をする場合の責任の所在は、医師、看護師、国のどこに該当するのかを質した。
藤川氏は、「救命救急士は万が一事故が起きた場合は、国が責任を持つ。医師が指示を出しているが、現場には医師はいない。特定看護師(仮称)は、救命救急士とは違う。国家資格で一律に認証するのではなく、チーム医療を実践している病院ごとに認証して、医師が責任を持たなければいけない」と主張し、病院ごとに必要とされる能力を判断して、認証することで、医師が責任を持つことが明確化されるという考えを述べた。
この点について太田氏は、「医師が責任を持つことは良いが、国が能力認証をすることにも疑問はない。医師と看護師が同じ屋根の下で働いていないグループホームなどの看護師には能力を認定してあげるべきだ」と反論した。
東京大学大学院の山本隆司教授は、「特定行為を行うのは一定の看護教育を受けたことが前提なのだろうが、指示を出す医師の責任が大きくなる。医師の判断が間違えば責任を問われることになる。看護師特定能力認証制度(案)であれば、国がある程度責任を持つ形で、医師が包括的な指示を出せばよいので、医師の責任は軽減されるのではないか」と、国が責任を持つべきとの主張をした。
日医委員ら6人、「時期尚早」と意見書、厚労省は年内決着の姿勢崩さず
厚生労働省のチーム医療推進会議(座長:永井良三・東京大学大学院教授)の第9回会議が11月18日に開かれ、厚労省が提示した「看護師特定能力認証制度骨子(案)」について、制度化することのメリット、デメリットなどを議論したが、各委員の意見は賛否が分かれた(資料は、厚労省のホームページに掲載)。厚労省は同会議での意見を12月の社会保障審議会医療部会で報告した上で、再度同会議で議論をする方針。
看護師特定能力認証制度骨子(案)は、11月7日に「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」で示されたもの(「厚労省の特定看護師の骨子案、委員から強い疑義も」参照)。ワーキンググループでは厚労省が特定看護師(仮称)を看護師特定能力認証制度として法制化に向けて議論を加速させたことで、賛否が分かれたことを踏まえ、永井座長は、「厚労省の認証制度にするべきという意見と、現場で教育をすれば良いという意見もある」と述べ、論点整理から始めた。
チーム医療推進会議の座長を務める東京大学大学院教授の永井良三氏。
永井座長が示した論点は、(1)看護師特定能力認証制度を法制化することのメリットとデメリット、(2)法制化しないことのメリット、デメリットという軸だ。この議論の前提として、これまで同会議内で、看護師の現状は、カテーテルの挿入や動脈内採決など、医行為に近いもしくは医行為に該当するような行為をする「グレーゾーン」があることを確認。また、グレーゾーンに対応するための教育・研修は行う必要があるという点も共通認識とした。
議論では、特定能力認証制度を設けるメリットとしては、虎の門病院長の山口徹氏が、「特定看護師(仮称)を制度化することで、国が教育の場を確保してもらえれば、院内での教育労量の負担軽減にもなり、医師も新しい領域に向かうことができる。看護師が行う特定行為は詰める必要があるが、厚労省の認証制度であれば医行為を整理するのにも役立つ」と述べた。一方で、日本医師会常任理事の藤川謙二氏は、「特定看護師(仮称)を認証するのは病院ごとにすべきだ」と、教育を受けて厚労相が一律に認証した場合に、特定行為をする際の責任の所在が不明確だと指摘。1時間超にわたる議論の中で、「看護師の能力を担保できる」という賛成意見と「責任の所在が明確でない」などの反対意見で分かれ、平行線をたどる形となった。
会議後に厚労省医政局医事課長の田原克志氏は、「2年ぐらい特定看護師(仮称)の議論をして、このような枠組みが必要という認識では一致している。厚生労働大臣の認証か、病院内での認証とするのかが議論の本質になると思うが、特定行為そのものも見えていないという意見もあった。12月の社会保障審議会医療部会で今日の内容を報告し、チーム医療推進会議で再度議論をしていただく。意見がまとまれば、12月中にまとまる社会保障と税一体改革の関連法案に盛り込むことはまだ間に合う」とした。
業務の明確化、能力担保につながる
看護師特定能力認証制度について、反対の立場を述べた日本医師会の藤川謙二常任理事(右)。左は「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」の座長も務める昭和大学医学部教授の有賀徹氏。
永井座長が論点整理をし、議論を開始した直後に、藤川氏は日医が16日に発表した特定看護師(仮称)へ反対する見解の文書を参考資料として提出(「『特定看護師は不要』、日医・藤川常任理事」を参照)。さらに、藤川氏にチーム医療推進会議の委員らを加えた計6人の連名で、永井座長あてに意見書を提出し、「特定看護師(仮称)制度について、12月の社会保障審議会医療部会に諮ることは、時期尚早で反対」とした。
これに対して、日本病院会会長の堺常雄氏は、藤川氏が「(特定看護師の創設は)医師不足を補うために看護師に医師の代わりをさせたいという一部の医師と、看護師のキャリアアップのために特定看護師(仮称)が必要という一部の看護師によるもの」と発言と発言したことに対して、「一部の医師、看護師というが、そんなこともない」と反論。全国在宅療養支援診療所連絡会の太田秀樹事務局長は、「在宅介護の現場で訪問看護師は、かなりグレーゾーンに踏み込んでいるのが現実。ただ、その訪問看護師によって命が助けられているということもある。訪問看護師の能力を担保するためには、厚労省が認証制度を設けることはメリット」とし、「在宅介護のケースは増え続けている中で、制度化して動き出さなければ、デメリットは分からない」とした。
続いて、日本看護協会の大久保清子副会長は、「国民のニーズに安全に対応していくという立場で発言したい」とした上で、「看護師はグレーゾーンで業務をしているが、想定していない業務もしている。これは保健師助産師看護師法という延長線で理解するのは難しい。法律で定めて安全を担保するべきだ」と述べた。さらに、2002年に看護師による静脈注射が通知で認められた点について、「通知のみだと現場は混乱している。看護師の業務として標準化して普及させるには法律で定めるべき」として、不明確な看護師の業務は、法的な線引きが必要という認識を示した。
政策研究大学院の島崎謙治教授も、「看護師の業務は『診療の補助』ということで、他の職種と比べて曖昧。それを区別するために通知を出しているのだろうが、ある程度レベルの低い業務で線引きすると、高度なことはできない。その逆も起きるので、法律で決めた方がいい」と指摘。法制化するメリットを述べる声も相次いだ。
責任の所在がもうひとつの論点
特定看護師(仮称)を法制化することのメリットは看護業務の線引きができるなどの意見が挙がる一方で、永井座長は「もう一つの論点は責任問題」とし、認証制度で認められた看護師が特定行為をする場合の責任の所在は、医師、看護師、国のどこに該当するのかを質した。
藤川氏は、「救命救急士は万が一事故が起きた場合は、国が責任を持つ。医師が指示を出しているが、現場には医師はいない。特定看護師(仮称)は、救命救急士とは違う。国家資格で一律に認証するのではなく、チーム医療を実践している病院ごとに認証して、医師が責任を持たなければいけない」と主張し、病院ごとに必要とされる能力を判断して、認証することで、医師が責任を持つことが明確化されるという考えを述べた。
この点について太田氏は、「医師が責任を持つことは良いが、国が能力認証をすることにも疑問はない。医師と看護師が同じ屋根の下で働いていないグループホームなどの看護師には能力を認定してあげるべきだ」と反論した。
東京大学大学院の山本隆司教授は、「特定行為を行うのは一定の看護教育を受けたことが前提なのだろうが、指示を出す医師の責任が大きくなる。医師の判断が間違えば責任を問われることになる。看護師特定能力認証制度(案)であれば、国がある程度責任を持つ形で、医師が包括的な指示を出せばよいので、医師の責任は軽減されるのではないか」と、国が責任を持つべきとの主張をした。