患者負担増、支給は目減り 将来の「痛み」語らず 「選択2022参院選 争点を探る」医療・年金
少子高齢化が進む中、社会保障制度を維持しようと、一部の高齢者の医療費負担が10月に引き上げられる。公的年金は将来的に目減りしていく見通しだ。政府内ではさらなる負担増も検討されているが、痛みを伴う改革は選挙受けが悪く、与野党とも踏み込む気配はない。ただ、参院選後は徐々に具体策の議論が進みそうだ。
「物価急騰の中、年金引き下げは許されない」。5月25日、年金受給者らでつくる全日本年金者組合などが国会内で開いた集会に、約120人が集まった。
年金は4月分から前年度比で0・4%引き下げられている。支給額改定の指標となる現役世代の賃金水準が下がったためだが、物価高の下、高齢者の負担感は大きい。引き下げが適用され始める4、5月分の支給日は6月15日。3年前の参院選では「老後資金2千万円問題」が論戦となった経緯があり、与党は投票行動への影響に神経をとがらせる。
来年度の年金額はプラスに転じる可能性が高いが、物価上昇ほどではないとみられ、実質的な価値は目減りしそうだ。少子高齢化に合わせて支給額を抑える仕組みがあるためで、将来的には国民年金の価値は約3割も目減りすると見込まれる。
2025年には、団塊の世代が全員75歳以上となり、医療・介護費が急増する。40年には高齢者人口がほぼピークの4千万人近くに達し、制度を支える現役世代は激減する。
政府は負担と給付のバランスを少しでも取ろうと、一定の収入がある75歳以上を対象に10月から医療費の患者負担を現在の1割から2割に引き上げる。75歳以上の約20%、約370万人が当てはまる見通しだ。
ただ、現役世代の負担軽減効果は1人当たり年約700円。根本策とはならず、国会審議では立憲民主、共産両党などが「高齢者が受診を控え、体調が悪化する恐れがある」として反対した。
負担増は今後、介護でも実施される可能性がある。介護保険制度は3年ごとに見直され、今秋に24年度改正に向け議論が本格化する。現在、サービス利用時の自己負担は原則1割だが、所得によって2割、3割の人もいる。財務省は2割負担の対象拡大などを求めており、焦点となりそうだ。
岸田文雄首相は、厚生年金などの加入者を広げる「勤労者皆保険」を掲げる一方、負担増の議論は封印。社会保障の財源となる消費税については昨秋の自民党総裁選で「10年程度は上げることは考えない」と述べたが、政府内では「仮に10年後に引き上げるなら、議論は数年以内に始める必要がある」との声も出ている。