その子は痩せていた。
可愛い目は大きく、こぼれおちそうだった。
とても色白だった。
洋子は、あの時の、あの子の笑顔を忘れない。
「さあ、これから、今度行く、修学旅行の、班作りをしましょう。」
「えっ、班作り?」
「そうよ、自分が一緒になりたい人の名前を、この紙に書いてください。」
先生はそう言って、私たちに、友達の名前を書かせた。
こんなこと、初めてであった。
洋子はうれしかった。
就学旅行もうれしかったが、好きな友達と一緒に行けるなんて、
そんなことが、この世にあるなんて!
おおげさだけどそれぐらいうれしかった。
その子が話しているのを洋子は聞いたことがなかった。
その子の名前も知らなかった。
同じくクラスでもう六ヶ月にもなるのに。
先生もその子に発表を一度もさせたことがなかった。
いえ、当てなかったような気がする。
修学旅行はいつもの仲良しの友達ばかりで、とてもうれしかった。
その中にその子がいた。
班長だった洋子はその子の名前を知らねばならなかった。
でも、その子も含めて先生から班長にとみんなの名前を書いた名簿を貰っていたので
その子に名前を聞かなくてもよかった。
洋子はほっとした。
だって、クラスの友達なのに名前を知らないなんて言えないし。
七時三十分集合場所は国鉄の駅前。
その子は、洋子が来る前にもう来ていた。
班のみんなが集まると、次々と後ろに下がっていつも、私から一番遠くにいた。
だから、その子の声も聞くこともなく、笑い声も聞かなかった。
でも、班から、絶対に離れることはなく、
洋子を心配させることは全くなかった。
一時間汽車にゆられ、
三十分バスにゆられ、
到着したのは、大きな山のふもとだった。
さあ、これから、山登りだ。
リュックと、くつと、水筒をチェックした。
ぼうしと、ハンカチもちゃんと確かめた。
気に入った友達と、笑いあって、山登り、スタート。
洋子の友達はみんなおてんばだった。
足の速い子、腕っ節の強い子、よく笑う子、
洋子はその中でも一番けんかっぱやい子だった。
男の子が女の子をいじめると、もう、我慢がならなかった。
すぐ、男の子を怒ってやめさせた。
洋子は大きな声を出すことができた。
普通は大きい声を出す子ではないが、
男の子のこととなると、許せなかった。
元気はつらつグループは、出発した。
はじめは、男子グループが出発した。
クラスは男子25人女子27人合計52名の大所帯だった。
学校は5クラスあって、
洋子たちの学年はみんなで250人はいた。
それが、一列になって山登りだ。
道なき道、今でもはっきり思い出すことができる。
れっきとした、登山道だが、
昔のこととて、整備などされていなかった。
今で言う獣道?
たぬきやきつねが歩くだろうか?
秋の初め、太陽が照り付けていた。
みんなは、離れないように、みんなのおしりを見ながらのぼった。
洋子は男の子のグループの次のグループだった。
つまり、女の子の第一頭、
洋子の後をみんながついて歩いた。
幸いに洋子達のクラスは4組だったから、
150人が歩いた後だった。
道に迷うような所はまったくなかったが、
ススキが顔にかかったし、ところどころに、
月見草のしぼんだのや、薄紫の野菊が咲いている。
横目で見ながらよいしょ、よいしょとのぼった。
はじめは、草をかき分けながらしばらく歩いた。
前に草がなくなるころ、きゅうな上り坂になって、みんなの姿がみんな見えるようになった。
洋子はもう安心した。
これで、道に迷うことはなくなったと。
みんな元気で笑っている。
黒い帽子、白い帽子、
白いシャツ、赤いブラウス、色とりどりの蟻が行く。
そんな感じでみんな登っていった。
もくもく、もくもく、しばらく登ると、もう笑わなくなった。
声もあげなかった。
汗はぽたぽたと流れるままだった。
それでも、時々は汗を拭いて、ハンカチは濡れた。
頂上についてお昼ご飯を食べて、おやつをたべて、水筒の水を飲み、
寝転がって休んだ。
げんきのいい男の子は騒いでいたが、女の子は座ったまま・・・・
おしゃべりもしていたかもしれない、
なぜか、洋子はそこのところ、ほとんど覚えていない。
寝転んでいたのだろうか?
草花を探していたのだろうか?
帰りはもうスピードだ。
だだだだだっと・・・・走った。
すぐ、ふもとの温泉町についた。
黄色のお湯の温泉にはいった。
町の銭湯だった。
みんなそろって、大広間で、夕食を食べた。
わらびのにしめがとてもおいしかった。
噛むとにゅっとおいしい肉が出てくるようだった。
班の子は全員元気でぐっすりと眠った。
なにもかも終わった。
解散の合図があって、
集合した国鉄の駅でみんなと別れるとき
その子は洋子の前に急に現れ、
「ありがとう」
と、下をむいて言った。
少し笑っていた。
洋子は驚いた。
急にその子が口を利いてくれたこと、
ずっと、後にばかりいたから、
話したことはなかったし、
すっかり、忘れるほどだったから。
「ありがとう」の声は低く、鼻にかかって、聞き取りにくかったが
そう言ったことはわかった。
あわてて洋子は「さようなら」って手を振った。
その子はそういうと帰っていったけれど、
その時の、はにかんだ笑顔はよく覚えている。
後日先生が洋子に言った。
「加戸さっちゃんはね、あなたの班になりたいと書いたのよ。
だから、あなたの班にいれたの、ありがとうね。」
洋子はそれからしばらくして、
さっちゃんが生まれつき、
話せない、
喉に異常があったことを知った。
可愛い目は大きく、こぼれおちそうだった。
とても色白だった。
洋子は、あの時の、あの子の笑顔を忘れない。
「さあ、これから、今度行く、修学旅行の、班作りをしましょう。」
「えっ、班作り?」
「そうよ、自分が一緒になりたい人の名前を、この紙に書いてください。」
先生はそう言って、私たちに、友達の名前を書かせた。
こんなこと、初めてであった。
洋子はうれしかった。
就学旅行もうれしかったが、好きな友達と一緒に行けるなんて、
そんなことが、この世にあるなんて!
おおげさだけどそれぐらいうれしかった。
その子が話しているのを洋子は聞いたことがなかった。
その子の名前も知らなかった。
同じくクラスでもう六ヶ月にもなるのに。
先生もその子に発表を一度もさせたことがなかった。
いえ、当てなかったような気がする。
修学旅行はいつもの仲良しの友達ばかりで、とてもうれしかった。
その中にその子がいた。
班長だった洋子はその子の名前を知らねばならなかった。
でも、その子も含めて先生から班長にとみんなの名前を書いた名簿を貰っていたので
その子に名前を聞かなくてもよかった。
洋子はほっとした。
だって、クラスの友達なのに名前を知らないなんて言えないし。
七時三十分集合場所は国鉄の駅前。
その子は、洋子が来る前にもう来ていた。
班のみんなが集まると、次々と後ろに下がっていつも、私から一番遠くにいた。
だから、その子の声も聞くこともなく、笑い声も聞かなかった。
でも、班から、絶対に離れることはなく、
洋子を心配させることは全くなかった。
一時間汽車にゆられ、
三十分バスにゆられ、
到着したのは、大きな山のふもとだった。
さあ、これから、山登りだ。
リュックと、くつと、水筒をチェックした。
ぼうしと、ハンカチもちゃんと確かめた。
気に入った友達と、笑いあって、山登り、スタート。
洋子の友達はみんなおてんばだった。
足の速い子、腕っ節の強い子、よく笑う子、
洋子はその中でも一番けんかっぱやい子だった。
男の子が女の子をいじめると、もう、我慢がならなかった。
すぐ、男の子を怒ってやめさせた。
洋子は大きな声を出すことができた。
普通は大きい声を出す子ではないが、
男の子のこととなると、許せなかった。
元気はつらつグループは、出発した。
はじめは、男子グループが出発した。
クラスは男子25人女子27人合計52名の大所帯だった。
学校は5クラスあって、
洋子たちの学年はみんなで250人はいた。
それが、一列になって山登りだ。
道なき道、今でもはっきり思い出すことができる。
れっきとした、登山道だが、
昔のこととて、整備などされていなかった。
今で言う獣道?
たぬきやきつねが歩くだろうか?
秋の初め、太陽が照り付けていた。
みんなは、離れないように、みんなのおしりを見ながらのぼった。
洋子は男の子のグループの次のグループだった。
つまり、女の子の第一頭、
洋子の後をみんながついて歩いた。
幸いに洋子達のクラスは4組だったから、
150人が歩いた後だった。
道に迷うような所はまったくなかったが、
ススキが顔にかかったし、ところどころに、
月見草のしぼんだのや、薄紫の野菊が咲いている。
横目で見ながらよいしょ、よいしょとのぼった。
はじめは、草をかき分けながらしばらく歩いた。
前に草がなくなるころ、きゅうな上り坂になって、みんなの姿がみんな見えるようになった。
洋子はもう安心した。
これで、道に迷うことはなくなったと。
みんな元気で笑っている。
黒い帽子、白い帽子、
白いシャツ、赤いブラウス、色とりどりの蟻が行く。
そんな感じでみんな登っていった。
もくもく、もくもく、しばらく登ると、もう笑わなくなった。
声もあげなかった。
汗はぽたぽたと流れるままだった。
それでも、時々は汗を拭いて、ハンカチは濡れた。
頂上についてお昼ご飯を食べて、おやつをたべて、水筒の水を飲み、
寝転がって休んだ。
げんきのいい男の子は騒いでいたが、女の子は座ったまま・・・・
おしゃべりもしていたかもしれない、
なぜか、洋子はそこのところ、ほとんど覚えていない。
寝転んでいたのだろうか?
草花を探していたのだろうか?
帰りはもうスピードだ。
だだだだだっと・・・・走った。
すぐ、ふもとの温泉町についた。
黄色のお湯の温泉にはいった。
町の銭湯だった。
みんなそろって、大広間で、夕食を食べた。
わらびのにしめがとてもおいしかった。
噛むとにゅっとおいしい肉が出てくるようだった。
班の子は全員元気でぐっすりと眠った。
なにもかも終わった。
解散の合図があって、
集合した国鉄の駅でみんなと別れるとき
その子は洋子の前に急に現れ、
「ありがとう」
と、下をむいて言った。
少し笑っていた。
洋子は驚いた。
急にその子が口を利いてくれたこと、
ずっと、後にばかりいたから、
話したことはなかったし、
すっかり、忘れるほどだったから。
「ありがとう」の声は低く、鼻にかかって、聞き取りにくかったが
そう言ったことはわかった。
あわてて洋子は「さようなら」って手を振った。
その子はそういうと帰っていったけれど、
その時の、はにかんだ笑顔はよく覚えている。
後日先生が洋子に言った。
「加戸さっちゃんはね、あなたの班になりたいと書いたのよ。
だから、あなたの班にいれたの、ありがとうね。」
洋子はそれからしばらくして、
さっちゃんが生まれつき、
話せない、
喉に異常があったことを知った。