クラスター収束見えず 津山中央病院と総社・吉備の里
2020年10月29日 (木)配信山陽新聞
津山市の津山中央病院と総社市のグループホーム「吉備の里」で起きた新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が収まらない。同病院で最初の感染が明らかになった20日以降、同ホームと合わせて29人の陽性が判明、岡山県全体の感染者数(229人、28日現在)を一気に押し上げた。一度は陰性とされた人が再検査で陽性となるケースも相次ぎ、感染者はさらに増える懸念がある。医療機関や高齢者施設は重症化リスクの高い人が多く、行政や医療、福祉関係者は危機感を募らせている。
「まさか、うちの施設でクラスターが出るとは...」。26日に取材に応じた「吉備の里」運営会社の男性社長が言う。
同ホームでは入所者13人のうち6人と職員4人の計10人の陽性が確認された。消毒や換気を徹底してきたが、入所者の多くは認知症のためマスクを着けて生活することが難しい上、職員は入浴介助などで入所者と体の密着が避けられないといい、「感染リスクの高さを思い知った」。
クラスター発生後、感染への不安などから職員の退職が相次ぎ、24日にはホームを閉鎖した。陰性だった入所者の受け入れ先は、県や総社市の調整によって何とか確保できたものの、同市の担当者は「感染が複数施設にまたがっていたら、行き場のない介護難民が出ていてもおかしくなかった」との見方を示す。
こうした状況に、県内では一時緩和していた面会制限を再び強化する高齢者施設が目立っている。県老人福祉施設協議会の小泉立志会長は「介護業界ではもう半年以上厳戒態勢が続いており、利用者も職員も限界に近い」と打ち明ける。
■予防意識
感染対策が難しいのは医療機関も同じだ。県北唯一の感染症指定医療機関として新型コロナ患者を積極的に受け入れてきた津山中央病院では、入院患者13人と職員6人の計19人が感染した。
関係者によると、クラスターは新型コロナ患者以外の入院病棟で起きているという。ある医療関係者=岡山市
=は「コロナ患者には感染対策を徹底できるため、受け入れはリスクとならない。むしろコロナとは無関係の病棟の方が予防意識が低い場合があり、院内感染につながる危険性がある」と話す。
同病院では当面の間、入院患者への面会を原則禁止し、感染者が出た病棟は新規入院の受け入れを中止。400人以上の入院患者や職員らにPCR検査を行って感染の確認を進める一方、診療業務は縮小せずに継続することとしている。
■再検査で判明
両施設のクラスターの特徴は、再検査で感染が分かるケースが多いことだ。
県などは、もともと患者や入所者は重症化のリスクが高いことから、1人につき複数回のPCR検査を行っており、両施設の感染者29人のうち15人が2回目以降の検査で陽性が判明している。PCR検査はウイルス量が少ない感染初期の検出精度は7割程度とされ、県保健福祉部は「今後どこまで感染が広がるかは見通せない」と警戒する。
県はこれまで、クラスターの発生に備えて9月に設置した専門家チームを両施設に派遣。感染拡大の防止を図りつつ、実態把握に努めている。メンバーの頼藤貴志岡山大大学院教授は「クラスター対応は初動が肝心。今回の事例を教訓に、病院や介護施設、自治体の枠を超え、広域かつ迅速に支援できる態勢をさらに充実させる必要がある」と指摘する。