健康診断:子どもの側湾症診断 脱「脱衣」的確さ両立 着装や機器「裸は恥ずかしい」に配慮
2023年2月17日 (金)配信毎日新聞社
裸にすると診断精度は上がる?――。子どもの上半身を裸にする学校の健康診断を巡り保護者らから不安の声が上がる中、着衣検査にした場合に懸念される問題の一つとして「脊柱(せきちゅう)側湾症」の見落としが指摘されている。背骨がねじれるように曲がる病気で医師が直接体を見て診断する検査(視診)が多いが、子どもの羞恥心への配慮など人権的な対応も求められる時代。的確な診断と「脱衣」脱却を両立させる方策はないか。その取り組みを追った。
側湾症は思春期の女子に多いとされ、13~14歳女子での発生率は2・5%という報告がある。原因は不明で、自覚症状がほとんどないまま進行し、肺機能の低下を引き起こしたり、容姿が変わってストレスになったりする。成長期に早期発見・経過観察ができれば、必要に応じて装具で進行を防ぎながら骨を成熟させる治療も可能なため、1979年度から全国の小中学校の健診で調べるようになった。
日本学校保健会のマニュアルでは、視診では肩や前屈した際の背中の高さの左右差などを見るよう示している。「原則、脱衣で行うことが望ましい」とする一方、「着衣で行う場合は背部の状態を把握しやすいよう配慮する」とも書かれている。国の統一的なルールはなく、自治体や学校ごとに対応は分かれているのが現状だ。健診で見落とされたとして訴訟になったケースもある。
◇見落としリスク
脱衣の有無は側湾症の診断にどれほど影響するのだろうか。島根大医学部整形外科臨床教授を務める吉直整形外科クリニックの吉直(よしなお)正俊院長は、2018年度に島根県出雲市内で行われた学校健診について、小学校(36校、9574人)と中学校(14校、4671人)での着衣の状況と、側湾症が疑われた子どもの割合を調べた。
その結果、小学生女子では、上半身裸で行った健診で異常が疑われたのが1・26%だったのに対し、体操服では0・63%と、約半分だった。中学生女子は上半身裸で実施した学校はなく、ブラジャーやタンクトップで2・83%だったのに対し、体操服では0・53%に下がった。
吉直氏は「体操服で健診をするなら、学校側が見落としのリスクを事前に説明し、保護者や子どもに納得してもらうことが必要だ」と指摘する。ただ、側湾症による容姿の変化から水着を着られなくなったり、いじめにつながったりする例も見てきた経験から「学校健診では、少数の病気の子も見逃さないのが望ましい」と語る。
その上で、子どもの羞恥心への配慮から、胸を隠したまま背中が見えるようにする着装「出雲式」を提案する。子どもは体操服に首だけ通し、胸を隠すように首から垂らす。両端に洗濯ばさみを付けたゴムひもを腰の後ろに回し、左右で体操服を挟んで体に密着させる。
吉直氏は「コストがかからず、胸に聴診器を当てる際も邪魔にならない」とメリットを強調。導入を呼び掛け、上半身裸で実施していた出雲市内の一部の小学校で採用されたという。
一方、側湾症を早期発見するには視診ではなく検査機器が必要だとする専門家もいる。日本側彎症学会の学校保健委員会担当理事を務める慶応大の渡辺航太准教授は、発見率の地域差を問題視し、機器の導入を求めている。07~15年の学校健診の結果を都道府県ごとに分析した結果、側湾症が疑われた14歳女子の割合は、平均で3・0%(広島)~0・2%(鹿児島)と大きな地域差が見られた。
渡辺氏は「地域によって側湾症検診が重視されていなかったり、やり方がバラバラだったりする」と指摘。発見率の上位に並んだのは、広島をはじめ千葉(2・5%)、東京(2・1%)など、一部で検査機器を導入している地域だった。
検査機器は暗所で背中に光を当てて肌の隆起を見るなどして側湾症を発見するものなどがある。近年開発が進み、診断の正確性が高まり、上半身の脱衣を避けられる可能性も出てきている。
北海道大の須藤英毅特任教授らが開発した「スコリオマップ」は、3Dカメラで背中を撮影し、背骨の傾きを自動計測する。7~18歳の男女100人を対象に、上半身裸と黒い肌着の場合で計測結果を比べたところ、ほぼ差が出ず、着衣でも検査できることが確かめられた。須藤氏は「子どもが羞恥心を感じず、確実に検査できる体制の整備が重要だ」と話す。
◇国が研究事業
検査機器は1台数百万円が必要で、導入には費用負担が壁となる。自治体の意識にも温度差があるが、学会などの後押しで国も動き出した。文部科学省は22年度、機器の導入を視野に約1200万円の予算を確保し、側湾症の調査研究事業を開始。23年度に試験導入するモデル自治体を公募している。全国導入に向けたマニュアルの作成などが目的で、文科省健康教育・食育課は「機器を使えば、より正確で均質な検査ができる。早期発見に向けて導入を進めたい」としている。【添島香苗】