DNA傷つけるラドン Dr.中川のがんの時代を暮らす/20
毎日新聞社 12月25日(日) 配信
Dr.中川のがんの時代を暮らす:/20 DNA傷つけるラドン
地表の下に広く存在して、大陸を支える岩石の大半は、御影(みかげ)石とも呼ばれる「花こう岩」です。花こう岩は、ウランやトリウムなどの放射性物質を多く含みます。岐阜県や山口県で「自然放射線」が高いのは、花こう岩が大量にあるうえ、岩盤が露出している山岳地帯が多いためです。
日本の場合、花こう岩など大地から発生するガンマ線で年0・4ミリシーベルト程度の外部被ばくを受けています。さらに、この花こう岩からは「ラドンガス」が発生します。秋田県の玉川温泉などの「ラドン温泉」は、がん患者の皆さんにも有名ですが、温泉地や鉱山では空気中のラドン濃度が高くなっています。
天然の放射性物質であるラドンガスは、ウランがラジウム、ラドンへと「崩壊」するときに発生します。このガスを吸い込むことによって、日本では年平均0・4ミリシーベルト程度の内部被ばくが起こっています。
鉱山労働者に肺がんが多いことは以前から知られていました。体内に吸い込まれたラドンが、肺の細胞のDNAを傷つけ、肺がんの原因となると考えられます。肺がんは、年間死亡数約7万人と、日本人のがん死亡のトップです。肺がんの最大の原因は喫煙ですが、原因の第2位は、このラドンガスなのです。世界保健機関(WHO)によると、肺がんの原因の3~14%が、空気中のラドンの吸入による被ばくと言われます。たばこを吸わない人にとっては、ラドンが肺がんの原因のトップになります。
たばこの煙には、ベンゾピレンなどの発がん物質のほかに、ラドン由来の放射性物質が含まれます。ラドンが崩壊してできる「ポロニウム」など大気中の放射性物質が葉タバコに付着するため、たばこを吸うと被ばくするのです。この放射性ポロニウムは、元ロシア連邦保安庁(FSB)のリトビネンコ氏の暗殺にも使われましたが、1日にたばこを1~2箱吸うことで年0・2~0・4ミリシーベルトの被ばくを受けます。
自然被ばくの原因となっている花こう岩ですが、その形成には水が必要です。このため、地球以外の惑星にはほとんど存在しない岩石です。私たちが自然被ばくを受けるのは、「水の惑星」の住人だからなのです。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)