寝起き直後のパフォーマンスは60%程度 しばらく頭がボーッとしてしまう理由は…
こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。「しっかり眠ったはずなのに目覚め感が悪い」「昼寝しても頭がボンヤリ」など、誰しも寝起きの悪さに悩まされた経験をお持ちでしょう。今回はそんなボンヤリ感の原因である「睡眠慣性」のお話です。
皆さんの日々の目覚め感はいかがでしょうか。「良い」「悪い」「日によって違う」など様々でしょうが、普段寝起きの良い人でも「しっかり眠ったはずなのに起きたら頭が重苦しい」「しっかり目が覚めるまで時間がかかった」ことがあるのではないでしょうか。また、眠気解消のつもりで昼寝をしたのに、「目覚めた後にかえって 気怠けだる さとボンヤリ感が強くなって逆効果だった」などの経験をした方もおられるでしょう。
このように、目覚めた後に眠気や 倦怠けんたい 感が強く残る現象を睡眠慣性と呼びます。睡眠慣性があると、その後の行動の能率が低下し、状況判断は遅く、複雑な思考がしにくくなります。健康な成人を対象に、起床直後の脳のパフォーマンス(認知機能)を調べた研究によれば、一日の中で起床直後が最も悪く、その人の最大パフォーマンス(この時刻は人によって異なる)の60%程度であったといいます。しかも睡眠慣性はすぐには回復せず、起床後1時間たっても、まだ80%台までしか戻っていなかったそうです。
このように、普段の私たちの生活においても大なり小なり睡眠慣性は生じていて、起床直後に自分のフルパワーを発揮することは難しいのです。特に通勤で車の運転をしなくてはならない人、危険作業に従事しなくてはならない人はアクシデントが生じるリスクを念頭に置く必要があります。学生の皆さんも、大事な試験などがある日には夜更かしせず、早起きして頭をしっかりと覚醒させてから臨みましょう。
寝起き直後のパフォーマンスは60%程度 しばらく頭がボーッとしてしまう理由は…
周波数の遅い脳波が混ざり込む
では、なぜ起床後に睡眠慣性が生じるのでしょうか? 日中しっかりと目覚めている時の脳波を測定すると、α(アルファ)波やβ(ベータ)波と呼ばれる周波数が速いものが主体で、私たちは物事をしっかりと把握したり的確に行動したりできます。ところが覚醒直後には、睡眠中に見られるような周波数の遅い脳波が混ざり込み、脳の覚醒度が低い状態が続くことがあり、これが睡眠慣性の原因です。
睡眠は、浅いノンレム睡眠、深いノンレム睡眠、レム睡眠の3種類に分けられますが、深いノンレム睡眠時にはθ(シータ)波やδ(デルタ)波など周波数の遅い脳波が大部分を占めます。特に深いノンレム睡眠から目覚めた直後には、この周波数の遅い脳波が覚醒後も残存し、一般的に睡眠慣性が生じやすくなります。深いノンレム睡眠は寝ついてから2、3時間以内に集中します。例えば、当直業務中に仮眠を取っていて、緊急呼び出しで起こされた際などは、睡眠慣性が生じることがあります。
能率アップのための昼寝は…
睡眠慣性は昼寝でもみられます。昼寝が長すぎると深いノンレム睡眠に入ってしまうためです。眠気を解消して能率を上げるためのはずが、かえってボーッとして仕事にならないのでは本末転倒です。昼寝中に深いノンレム睡眠が出現するまでの時間は、年齢や昼寝の姿勢、睡眠不足の度合いなどで個人差がありますが、30分以上になると深いノンレム睡眠に至る可能性が高まります。特に若い人は入眠してから深いノンレム睡眠に至るまでの時間が短いので要注意です。30分以内のコンパクトな昼寝がお勧めなのには睡眠慣性を防ぐ意味もあるのです。(三島和夫 精神科医)