旋律・栄光・絶望・狂気の文字が薄くぶれるように重なり合っている
俳優出身のトッド・フィールド監督作品 ケイト・ブランシェット主演
アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞・脚本賞・撮影賞・編集賞の
6部門ノミネートだったはずがまさかの無冠に・・・
わたしは「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」より
ずっとずっとこちらの方がと思うのだけれど・・・
ターとはベルリンフィル初の女性マエストロ リディア・ターの名
TARは煙草や樹木のヤニを意味するらしいがこれも意味深だなあ~なんて思ってしまう
卓越した才能の持ち主とはいえ、世界最高峰の指揮者に昇りつめる道すじにあった
ヤニのようなものが少しずつ、少しずつ、たまっていて、
ついにじわじわと漏れだして一気に拡がってゆく・・・ような
映画を観ていると、彼女の人生を狂わせるであろう
伏せんのようなものがあちこちに敷かれていることに気づくのだが
それはとても不気味で次々と現れては隠れ、だが確実に膨らんでいくようで
気が気ではなかった。
そんな仕掛けのようなものがまだまだたくさんありそうで
もう一度見てみないと見つけられない口惜しさが募ってゆくのだ。
すんなりとはわからないもどかしさの中、観終えた。
時計を見ると、えっと思うほどの時間が過ぎていた。
それにしても誰がこの企てを仕掛けたのだろう
ひとりではないのかもしれない
頂点にのぼりつめたものに待っているもの
傲慢だが繊細な彼女を不安に陥れる様々な音が不気味だった。
そうして
絶頂から一気に崩れ堕ちる後半の展開はすさまじかった。
ベルリンフィル コンサートマスターのシャロンとは恋人同士で、
パパとして養女を一緒に育てている。
演奏者の投票で指揮者が決められるこのオーケストラで、
実権を握っているコンサートマスターとの関係は
ターにとっては有利な備えだったはずなのに
次々と恋人を変える性癖が裏目に出てしまった。
それにしても
アパートの隣人の、度重なる迷惑な行為には辟易させられたのに
後半、その家族が 楽器の騒音が迷惑で家が売れないと言ってくる不条理さ
高みから一気に引き落とされ
落ちぶれてしまうと容赦なく手のひらをかえす人々
自分がしてきたことのしっぺ返しとはいえ悲惨だ
入り組んで織りなされているだろう人生を思う
それでも、苦しみのたうち回りながらも、指揮者として生きていく姿があったラスト
アジアのどこかの国で
コスプレをした客たちの前で
クラシックには程遠い電子音の華々しいメロディを
指揮する姿はなんとも言えないのだが
やはり彼女はすごいと思った
みすぼらしくても、どこであろうと、指揮をするときの彼女は変わらないのだ
オープニングの黒い背景の中、いきなりエンドロールのような文字と
流れるのはターが民族音楽研究で暮らしたという東アマゾンのシピボ族のまじないのような歌
アマゾンのイカロという治療のためのフレーズらしいのだが
シャーマン、霊媒師の女性の唱えるように歌う声がターの行く末を暗示していたのだろうか
エンディングのアニメソングの電子音の派手な曲は
わたしは遠くないターの再起を感じて何だかほっとした。
作品のヒントとなっている
バーンスタインやマーラーのことはよくわからないのだが
それらの人生や曲の内容も意味深いものだったのだろうと思う
複雑怪奇ながらも
久しぶりにクラッシックを堪能できた作品だった。
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