第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞
今 話題の映画「青いカフタンの仕立て屋」が観たかった。
つくと行列になっていた。熟年の男女ばかりでなかなか渋い
ふと見やると、受付カウンターの端っこで友人が何やら手続きをしているようだ。
おとといの帰り道でこの作品の話をしたところだった・・・
フランス・モロッコ・ベルギー・デンマーク合作
原題は Le bleu du caftan
マリヤム・トゥザニ監督
女性監督として初めてアカデミー賞モロッコ代表に選出された、今話題の43歳
日本の成人式の晴れ着のようなモロッコのカフタンは
母から娘へと受け継がれる大切な伝統的ドレスらしい。
職人が思い入れをこめ、情熱を注いで、何か月もかけて手作りする。
しなやかに色めくシルクの生地に
金色の糸で施されたきめ細やかな刺繍や飾りボタンがなんとも優雅で美しい。
海沿いの街サレの旧市街で仕立て屋を営む中年の夫婦 ハリムとミナ
彼の手仕事は至ってマイペースで約束の納期も遅れがちだ。
だが今手掛けている青いカフタンは上出来になりそうだ。
ロイヤルブルーではなくペトロールブルー
濃い緑がかった青、きっと海の色だろう
海は近いはずなのに、ここからは見えない・・・
たばこを吸おうと窓を開けるとかすかに塩の香りがする。
そんな風に海を感じるけれど、ハリムにとってのミナもそうなのだと思う。
もう長らえない弱々しい身体のミナのおどけた物言いや毅然とした口調が愛おしい
新しく店に入った、器用に紐作りや刺繍をこなすユーセフのひたむきさは
長続きしなかった今までの若者とはどこか違っている。
手をとって教えるハリムとユーセフを観るミナのまなざしがいたたまれない
ひとりベールをかぶって祈るミナの姿が何度も出てくる
そこにいつもハリムはいない
浴場に通うハリムの秘密もミナは知っているのだろう
三人が三角関係ではなく、いつもお互いを思いやり
いつしか3人でテーブルを囲む様子はとても楽しそうだ。
はっきりと物を言うミナに対して
面差しだけで分かり合える二人の男性の真の優しさと愛の深さ
自分が産まれたことで母が亡くなったことをずっと父に責め続けられてきたハリム
孤児という生い立ちのユーセム
伝統を繋いでいくことの大切さと命の尊さ
タブーに切り込む勇気、淡々とでも静かな思いは深く強くなってゆくはずだ。
モロッコ映画で同性愛者を取り上げたことやイスラム教の戒律を破る場面
ミナの遺体の白装束を美しい青いカフタンに着せ替え
台にのせて墓場まで運んでいくハリムとユーセフの最期のシーンがなんとも言えなかった。
静かに少しずつ心に入り込んでいくように物語はすすんで観終えた。
若く勇気ある監督に期待したい。
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